日本語教師として知っておきたい?!ネット用語のアレコレ

日本語教師として知っておきたい?!ネット用語のアレコレ

SNSで日本語を学ぶ時代

私のレッスンを受けてくれているアメリカ在住の学生さんで、好んで関西弁を話す方がいます。

彼のお気に入りの関西弁は「知らん」「知らんけど」。発音しやすいし、言うと日本人が笑うから、なんだとか。私は北国の人間で関西弁を話すことはないので、どのように関西弁を覚えるのか聞いたら、「YouTubeで聞いたり、Facebookの投稿を見たりする」とのことでした。

彼は敬語も大好きなので、私からは敬語などのフォーマルな言葉を学び、SNSなどからは関西弁を学ぶという棲み分けをしているそうです。

こちらの学生さん以外にも、SNSで見聞きした表現をレッスンで使う方がいます。また、「テキストや辞書に載っていないんだけど…」と、SNSで見たという表現の意味や使い方について質問されることもあります。

中には「いや、ソレ、日本語としておかしいから…」と言いたくなるような表現にもお目にかかりますが、学生さんが見聞きしたということは、実際に使われているということですから、頭ごなしに「それは日本語として間違っています!」と言うのは何か違う気がします。

総務省の調査(総務省|令和6年版 情報通信白書|SNS)によると、「日本のソーシャルメディア利用者数は、2023年の1億580万人から2028年には1億1,360万人に増加すると予測されている。若者中心のコミュニケーション手段からあらゆる年代におけるコミュニケーション手段へと変化しており、今後は緩やかな増加になると見込まれる」…だそうです。

また、同じく総務省のこちらの調査報告書(令和4年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書)には、年代別の主要SNSの利用状況が記載されています。

Facebookは30代~40代の約4割が利用し、Instagramのボリューム層は10代~20代で約7割が利用、X(旧Twitter)のボリューム層は20代で約8割が利用、TikTokは圧倒的に10代が多く約7割、YouTubeの利用に至っては、10代~50代の幅広い層でそれぞれ9割にも上っています。

ネット上で頻繁に目にする「エグい」「ばえる」「レベチ」「草」「ガチ」などの言葉は、プラットフォームを問わず、もう一般に定着していると感じます。 

SNSで日本語を学んだり、日本の情報を得ようとする学習者は、おそらく自分と同世代の人が使っているプラットフォームを利用するでしょう。

個人的なSNSの好き嫌いは置いておいて、日本語教師としては、ネットでよく見かける表現にアンテナを立てておいて損はないと思います。

というわけで今回は、SNSでよく見かける表現とその特徴を見ていきたいと思います。

SNSでよく見かける表現の特徴

特徴① 意味の転用・拡大

本来の意味とは違ったり、意味が拡大していたりする表現が多く見られます。

例えば以下のような表現です。

  • 例1) ズルい おいしいものを頬張って、「これは…ズルい!」(とてもおいしい)
  • 例2) ヤバい 新調した枕に頭を乗せて、「うわ~、これはヤバいわ…」(とても良い使い心地)
  • 例3) ~すぎる 「好きすぎる」「幸せすぎる」「面白すぎる」「懐かしすぎる」「天才すぎる」「強すぎる」「うますぎる」「美人すぎる」など、良い意味で程度が甚だしいこと
  • 例4) ~しかない 「この動画、需要しかないわ」(これは私が欲していた内容の動画です)
  • 例5) 助かる 「アザラシさんのカメラ目線、助かる」(こっち見てくれて、かわいい!うれしい!)

例1〜例4は、否定的なことを伝えたいときに使う表現ですが、本来の使い方から意味が転用・拡大しています。

例えば、例3の「~すぎる」は、本来は「大きすぎて合わない」「寒すぎて眠られない」などのように否定的なニュアンスで使いますし、「~しかない」は「パーティーに3人しか来なかった」「今日は5時間しか寝ていない」のように、本来はネガティブな側面を強調する表現です。でも、SNS上では明らかに肯定的な文脈で使われています。

例5の「助かる」も、helpfulと訳すとおかしなことになります。こちらも本来の意味から拡大した使われ方ですよね。

特徴② カタカナ+る or い or する

れは以前の記事(若者言葉① カタカナ+「る」動詞)でも紹介されていますが、「ググる」「ディスる」「バズる」というような「カタカナ+る」は、いくらでも増殖します。「モテる」のように、げんきのテキストに載るぐらい浸透したものもありますし、「ウバる」のように比較的最近登場したものもあります。

また、こちらの記事(若者言葉② カタカナ+「い」形容詞)で紹介されているように「キモい」「グロい」といった、語末に「い」をつけて無理矢理形容詞(い形容詞)にする用法もよく見ますよね。ちなみに私は「ラグい」の意味がわからず、調べた類の人間です。

それから、こちらの記事(若者言葉③ まだ「チンする」って使ってる!?)にもある「カナカナ+する」もあります。

そういえば、ある学生さんが「『ツイートする』と使っていたのに、Xに名称変更したので何といえば言えばのか?」とちょっと怒っていました。イーロン・マスク氏に(笑)。さすがに「Xる」はちょっと…。

これら「カタカナ+る or い or する」は、いかにも若者言葉!という感じがしますね。

特徴③ 程度が甚だしいことを表す表現

程度を表す副詞は、教科書には「とても」「たくさん」「すごく」「非常に」などがあります。日常では「めっちゃ」「めちゃくちゃ」「超」「〜すぎる」などが使われているでしょうか。

でもネット上では、これ以上の上がないこと、これが最上級であることを表すのに「神」を使っているのをよく見かけます。

もともと「神業」などの言葉はありますが、「神助っ人」とか「神プレー」とか「すごすぎて神」などと、良い意味で使われています。ただ、なんでもかんでも「神」をつけるので、最近では神パワーが弱まっている気がします。

また、「神」とは対極にあるような言葉ですが、程度が甚だしいときに、日本語でも英語でも中国語でも「死」を使うのが面白いところです。例)「死ぬほど緊張した」「I’m dying of thirst」「饿死了」

おそらく日常ではあまり使わない「神」「死」といった強い言葉で、インパクトを出しているのでしょう。

ネットは「キャッチー」が好き?!

再生率やインプレッション数を稼がなければならないネットでは、とかくキャッチーな表現が好まれるようです。ありきたりな言葉ではインパクトがない…でも平易で口にしやすい言葉にしなければならない…それが新しい言葉を生む土壌になっているのかもしれません。

ネットは生きた日本語を学べる場ではあります。ただ、イイ大人が多用すると「語彙力がない人」とか「幼稚な人」とかいう印象を与えてしまう側面もあると思います。その辺が注意ポイントでしょうね。

 

 

 

 

 

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