レッスン中の急な質問、どうする?<実践編・初級>

レッスン中の急な質問、どうする? <実践編・初級>

レッスン中に急な質問! どう答えた?

前回の記事「レッスン中の急な質問、どうする?」では、解決方法を5つ紹介しました。今回はその中の「解決方法D:その場で解決する」の実践編として、私が実際に過去のレッスン中に受けた質問を例に挙げ、その時にどうやってその場で解決したか手順と手法を初級編、中級編と2回に渡ってお話しします。

実際にあった質問例:初級編(3つ)

では早速、私が事前準備していた範囲を超えたところからきた、初級クラスのレッスン中の急な質問例を3個紹介します。

  • 質問① 「冷やす」と「冷ます」は何が違うの?
  • 質問② 「行く」「来る」「居る」:敬語だと全部「いらっしゃる」だけど、どうやって聞き分けるの?
  • 質問③ 「開く(あく)」と「開く(ひらく)」は、どうやって読み分けるの?

いかがでしょうか。過去に受けたことがある質問でしたか。事前にレッスン準備した際の想定質問の範囲内でしたか。

どれも一見すると簡単に答えられそうな気がしますが、―「そのクラスの学生が分かる語彙と文型で」、「すぐに簡単に理解できるように」、「その場で時間をかけずに」説明する―レッスン内での即時回答はこれらが「肝(きも)」となります。しかもレッスンスカリキュラムに沿って『その日にしなければならない内容』もありますから、そこへの影響を最小限に留めつつ、いかにスッキリ答えるか―これがなかなか大変。まずは一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、次の手順で質問を解決していきます。

手順1) 質問を分類する

実際の現場では分類する時間的余裕がないかもしれませんので、先ほど紹介した3つの質問を使って、どんな種類の質問があるのか、ここでちょっと整理して分類してみることにしましょう。

《初級クラスの質問例》

  • 質問① 「冷やす」と「冷ます」は何が違うの?
  • 質問② 「行く」「来る」「居る」:敬語だと全部「いらっしゃる」だけど、どうやって聞き分けるの?
  • 質問③ 「開く(あく)」と「開く(ひらく)」は、どうやって読み分けるの?

ここから見えてくるもの、初級クラスの場合は「語彙・文型・表現・漢字」と、学習内容全般にわたっての質問が出ていることが分かります。

手順2) どの手法で解決できそうか考える

では次は「質問に答える=解決する」ための手法とその効果について見てみましょう。ここでは3つ取り上げます。

手法・その1

板書する:「既習語彙」と「既習文型」を使って分析
《効果》知っている日本語で理解できたことで、学生に達成感と自信が生まれる

質問が文法に関するものだった場合、まずは文全体を板書してクラス全員で共通のものを見ながら解説をするようにします。このとき気を付けたいのが「既習語彙」と「既習文型」ですること。学生は知っている日本語で質問の答えを理解できたことに対して、質問の答えを得られたのと同じくらい達成感を感じるようです。質疑応答のやり取りが日本語で成立したことで会話の自信もつく、という思わぬ副産物が得られます。

手法・その2

図解する:見える化して視覚的理解を促す
《効果》「百聞は一見に如かず」、言葉を並べるより目で見て一瞬で理解できる

質問が語彙や文型だった場合、言葉による解説より、図で示したほうが圧倒的に理解が進む場合があります。時間軸を板書して出来事の前後関係が分かるようにしたり、人の略図を描いてやり取りの方向を矢印で示したり、そのときの質問内容に応じて理解を助ける図の力を借りると瞬間で理解してもらえます。イメージを使って解決する手法です。

手法・その3

寸劇をする:使用シーンを提示して場面と感情理解を促す
《効果》その場面を「見た」という体験と紐づいて理解

皆さんが日本語教師養成講座で学んだ「エピソード記憶」がまさにこれです。耳で聞く言葉だけでなく、目で見る視覚情報だけでなく、それらを複合的に用いて具体的に伝える方法―それが寸劇です。「え?そんな恥ずかしいことを学習者の前で?」と思うかもしれませんが、過去の経験上、これが一番伝わります。どんなに文法を勉強しても、どんなに漢字が読めるようになっても、言葉は実際の生活で使ってこそ。使用シーンを目の前で確認できることほど学習者の助けになることはありません。どんな場面でどんな気持ちの時に使うのか、これはネイティブ教師だから伝えられる最大の強み。「分かった!」という手応えが最も感じられるこの手法は、本当におススメです。

気を付けたいこと:親切心が仇になる⁈

『受け取った質問にはきちんと返したい』―これは日本語教師として当然の思い。ですが一方で気を付けたいこともあります。避けたいのは―①言葉ばかりで説明してしまうこと、②設定が身近でなく、実際の運用シーンが想定できない例を挙げてしまうこと、③その時点では理解しなくてもいいことまで伝えてしまうこと―です。新たな疑問・質問が湧くような状態に陥らないよう、「どこまで・何を・どう伝えるか」を瞬時に判断する力も求められます。そうした瞬発力も日本語教師として鍛えていきたい重要なスキルの一つ。ただ、これにはトレーニングや場数をこなす必要がありますので、次に紹介する私の例を見ながらイメージを掴んでみてください。

実践編:実際にどう進めたか

「質問内容を分類して」→「どの手法で解決できそうかを考える」、これをその場で瞬時にしなければならない訳ですから、とにもかくにもまずは質問を「板書する」ことです。―この板書には学習者の理解を助けるという大切な意味がありますが、同時に先生自身が考える時間を作る役割もあります。では実際3つの質問をどう解決したのか、それぞれ順番に見ていきましょう。

①初級・語彙:「冷やす」と「冷ます」は何が違うの?

⇒これは「手法3:寸劇」と「手法1:板書」で解決しました。

「冷やす」・・・今日、スーパーでビールを買いました。冷たいビールが飲みたいですから、

冷蔵庫に入れます。冷やします。

[ジェスチャー]ガチャ→パタン

[ジェスチャー]プシッ→プハー 「あー、とても美味しいです!」

「冷ます」・・・ホットコーヒーを注文しました。熱いです。飲めません。ふーふー。冷まします。

[ジェスチャー]フーフー 「あー、とても美味しいです!」

  • 板書:時計の絵、温度計の絵を描いて、時間の長さと温度の差を示して語の意味を伝える。

②初級・文型・表現:「行く」「来る」「居る」

敬語だと全部「いらっしゃる」だけど、どうやって聞き分けるの?

⇒これは「手法2:図解」と「手法3:寸劇」で解決しました。

  • 板書:人の絵を3人描く―向こう側に1人(Visitor)、こちら側に2人(Aさん、Bさん)。

A: 「あちらにいらっしゃる方はどなたですか。」

B:「あの方は今日アメリカからいらっしゃったお客さんで、明日は京都にいらっしゃるそう

ですよ。」

三つの「いらっしゃる」にアンダーラインを引き、学生に元の動詞は何だと思うか質問。

「居る」→「来る」→「行く」ということが理解できたのを確認し、一文にして両方聞かせる。

・Normal:あそこにいる人はアメリカから来たお客さんで、明日は京都に行くそうですよ。

・敬語:あちらにいらっしゃる方はアメリカからいらっしゃったお客さんで、明日は京都に

いらっしゃるそうですよ。」

※コンテクストで見せたり、その場面にいればそれぞれが何を意味しているか分かること

を伝えます。

③初級・漢字:「開く(あく)」と「開く(ひらく)」は、どうやって読み分けるの?

これはまず、そもそものニュアンスの違いを講師自身が理解しておくのも教師の知識として大事なこと。ここでちょっと二つを整理してみましょう。

あく → 「閉じている」状態から「開いている」状態への<変化>に焦点。状態変化・自動的・日常

口語的。「閉→開」「塞→空」の結果

ひらく → 開けるという<動作・行為・プロセス>に焦点。動作・意図・能動的。抽象的・比喩的表

現にも使える。

その上でクラス内でどう回答していくかですが、

⇒これは「手法2:図解」で解決しました。

例1) お店が開(あ)く・・・Open at 7 a.m.  お店が開(ひら)く・・・Opening on May 1st

  • 板書:お店の絵を二つ、それぞれに看板とポスターを描き、漢字と読み仮名・英語表記

を書いて補足。「あく」は営業開始時間、「ひらく」は開業日であることを視覚的に

掴んでもらう。

例2) ~が開(あ)く・・・ドアと風の絵  ~を開(ひら)く・・・本と手の絵

上記のように図で書いて伝え、理解してもらいます。

※ここで電車が駅に着くと「ドアが ひらきます」と言っていると質問がくることが多いで

すが、その場合は知識として「開(ひら)く」は「Transitive」のときと「Intransitive」のとき

があることを伝えて「『~が ひらく』は電車とエレベーターだけです」と言うようにして

います。

※「会議をひらく」「パーティーをひらく」など、イベントなどを開催することを「ひらく」と

言いますが、抽象的な言い方なので、初級での質問の際は言わないようにしています。

怖がらずにその瞬間を楽しむ

どれだけ経験を重ねても、想定外のレッスン中の急な質問には毎回本当に驚かされますが、裏を返せば学習者の日本語学習に対する意欲の表れとも言えます。時に答えに詰まることもありますが、「どうしよう」とうろたえるのではなく、私は「よし、楽しもう!」と思うようにしています。その場で答えられなければ無理せず持ち帰ればいいですし、今はまだ必要なければ「あとで勉強します」と答えればいいのですから。その場で答えられそうなもの、その時点で学習者に必要だと思えるものにだけ回答すればいいと思うだけで気持ちが楽になると思います。怖がらずにその一瞬一瞬を楽しんでいるとその姿勢が伝わって、きっと学生の心に残る先生やレッスンになるのではないでしょうか。

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