中級の入り口でつまずく文型たち:頻度を表す中級文型【ことがある】を例に
はじめに
中級とは、「類似文型が頻出、そのため学習者から違いについて説明を求められることが多い」レベルです。
そして、一口に中級といっても、レベル幅が広く、N4に合格したばかりの初中級から、N3に合格しN2を目指して頑張っているというレベルの人までいますし、漢字圏か否かなど母語などの影響により、苦手・得意分野の差もはっきりと表れてきます。
今回の記事で扱うレベルは、中級に入ったばかり、具体的に言うとN4に合格して、つい最近中級のテキストを使い始めた!というような、いわゆる初中級と呼ばれる段階でよくある質問、初級で学んだこの文型と、中級のそれとは、どう違うのかについて、具体的に文型を示しつつ考えて行きたいと思います。
違いに気づき、疑問を持つということは、学生が中級またはそれ以上のレベルへと成長するためには大事なことです。と同時に、教える側には悩ましいところでもあります。どの点やどの角度から切り込めば、学生に理解してもらいやすいのか、その点についてもこの記事で探っていれけばと思っています。
頻度についての表現:「~ことが(も)ある」とは?
頻度については、初級の早い段階で習います。cotoが初級の定番教科書として使っている「げんき」では、3課の基本動詞を入れる際にいっしょに学びます。
すべてがyesかno、白か黒かで割り切れない現実の中で、初級学習者であれど、言語を使用する者なら、なるべく厳密に表現してみたい欲はあって当然ですので、おそらく「頻度」表現は、どの言語においても初級の早い段階で学ぶ文法事項の一つなのではないかなと思います。と同時に、中級になると頻度の表現も細分化され、ムードの問題(肯定否定どちらのニュアンスで使っているのか)も絡んできます。頻度表現は、初級から上級までバリエーションが広いものです。
「~ことが(も)ある」を検証してみる
たとえば、中級表現「~ことが(も)ある」とは、どれぐらいの頻度を表す表現なのでしょうか。あるいはどのような場面や、文脈と親和性などがあるのでしょうか。
まずは以下の例文を見てください。
a. 日本語の先生でも、漢字を間違うことがある。
b. 日本語の先生でも、ときどき漢字を間違える。
a. 最近寝られないことがある。
b. 最近あまり寝られない。
「ことがある」を初級表現で言い換えると、「ときどき」あるいは「あまり~ない」と両方の言い方があるかと思います。しかし、中級の段階で、講師が「ことがある=ときどき」と教えるのは、あまりいいことではありません。というのも、「ときどき」で言い換えられるなら、なぜ「ことがある」を学ばなければいけないのでしょう?という疑問符が、学習者によっては沸くからです。
初級表現との差異をどう説明する?
では、「ことがある」については、どう説明していくのがいいのでしょうか。
まず一つには、aのほうが大人っぽい表現(少なくとも日本人の小学生の口からは聞かれない)だという点です。硬い表現(フォーマルというわけではないが、書き言葉的)という言い方もできるでしょう。
⇒ここでは「かたさ」という概念を持ち込んで説明するのが適当です。
ほかの場面でも検証してみる
では、次の例文はどうでしょうか。
<飛行場および機内のアナウンス>
a.台風の接近により、目的地において着陸できないことがあります。ご了承ください。
b.上の棚からお荷物が滑り出ることがあります。お気をつけください。
c.乗務員の指示に従っていただけない場合には、ご搭乗をお断りすることがあります。
上記の表現は「ときどき」や「あまり~ない」では言い換えることができません。
a.✕台風の接近により、目的地にときどき着陸できません。ご了承ください。
b.✕上の棚から、ときどきお荷物が滑り出ます。お気をつけください。
c.✕乗務員の指示に従っていただけない場合は、ときどきご搭乗をお断りします。
言い換えできないのは、なぜか
まずは、そこには、空港や機内アナウンスといった非常に高い丁寧度(politeness)が求められる、フォーマルな状況、「場面の制限」があるからだと言えるでしょう。
また、それ以外にも、実は機能が少しだけ異なっています。
頻度表現の先にある本当の意図を例文別にみると、
a.条件(台風)次第では、そのようなケース(着陸できないこと)も起こりうるというエクスキューズ、事前予告の機能
b.可能性(棚からの荷物の落下)がゼロではないという危険性の予告、トラブルや責任の回避
c.ルールやマナー違反に対する警告
つまり、a〜cはいずれも、条件が整えば頻度としてはある程度起こりうることへの注意喚起・警告・責任回避という、頻度表現のその先にある意図を担っています。「ことがある」は、「ときどき」「あまり」といったシンプルな頻度表現では届かない、この表現領域を担っているのです。
導入時の注意
以上をふまえて、導入にふさわしい場面や例文を考えていきましょう。
導入時には、2つ以上の場面、そしてそれぞれの場面における複数の例文を用意することが鉄則ですが、中級でもその鉄則に変わりはありません。しかし、最初をどの場面にするのか、が非常に大切になってきます。
たとえば、最初の場面としてもっともふさわしくないのは、言い換え可能な例文です。
いつも朝ごはんを食べていますが…
・朝ごはんを食べないことがあります。(寝坊したとき?いそがしいとき?
・ときどき朝ごはんを食べません。
卑近な例で、語彙も平易、理解しやすそうな場面設定ではあるのですが、これではどうして「ときどき」の代わりに「ことがある」をわざわさ使うのかの理由を説明しにくい・できないからです。言えるとすれば硬さやフォーマル度が違う、ということだけです。⇒この条件は、汎用性が高いので最後の段階で言うのが有効です。
ということは、まず導入の最初にふさわしい場面は、ある条件の中では、それが起こりうると言いたい状況です。
上記で述べた空港関連の場面以外には、
例)
学校で
先生:JLPT、申し込みましたか?
学生:まだです。
先生:早くしたほうがいいですよ。すぐにclosed/いっぱい/しめきりになることがあります。
おそく申し込むと、うちから遠い場所で試験を受けなければいけないこともあります。
忠告やトラブル回避策という機能の入った場面です。ここでは例として「closed/いっぱい/しめきりになる」を挙げましたが、使用語彙は学生のレベルや言語環境などに合わせることも大切ですね。
忠告という機能であるので、パワーバランスのある関係性(親⇒子、上司⇒部下など)で考えて行くと、場面も浮かびやすいかもしれません。ご担当の学生に親和性のある場面が設定できるともっとわかりやすいですね。
さいごに
以下は、中級の特徴および何にフォーカスあるいは注意して教えるべきかを私なりにまとめたものです。
名付けて「中級5箇条」。
導入場面や例文をつくるとき、学生からふいにこれとこれとは何が違うかと聞かれたときに、立ち戻る大事な視点です。
・丁寧(formal)か、普段使いか
・硬い表現か、くだけた表現か(書き言葉か話し言葉か)
・場面描写か、気持ちを表すか
・プラス(肯定的な)表現か、マイナス(否定的な)表現か
・文脈や場面、状況
今回の「ことがある」文型の導入ケースで言えば、「硬さ・くだけ」と「文脈・場面」が考慮すべきポイントであったと言えるでしょう。
私にとっては5つのポイントに収れんさせましたが、先生によってはもっとたくさんの事項や他の項目が設定されるかもしれませんね。
自分が戻るべき基準と現場とを行きつ戻りつしながらベストオブベストの導入をこれからも考えていきたいものです。
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