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「ば形+てください」の文型から見えてくる、条件節文の制限
日本語の条件節には、「と」「ば」「たら」「なら」があり、学生はもちろん、先生方も、違いの説明に戸惑うことも多いかと思います。
「ば」のほうが意志が強い(絶対条件)など、主観的なニュアンスなどで説明するより、接続のルールなどテクニカルな切り口で説明したほうが絶対に簡単・簡潔だと思うので、まずはそのルールを見つけるべく、今回は「~ば、てください」という機能文で例文をたくさん出し、検証してみたいと思います。
例文トレーニング
cotoでは、講師のみなさんと定期的に「例文トレーニング」を行っています。やり方はシンプル。毎回「この文型・語彙を使って例文をつくってください」という指示だけ。思いついたとき、いくつでもいいのでポストしてもらいます。今回のお題は「ば形+て!or てください。」40個ほどの例文が集まりました。
例文がたくさん集まることでいいのは
- 文の特徴・傾向が見えやすい。
- 導入文にふさわしいもの(文脈が普遍的で誰にでもわかりやすい)が見えてくる。
- 自分のつくった例文は忘れない。(学生から他の例文ないですか?と言われても慌てない、これ大事!)
例文の傾向を眺めてみよう
文法書を読めば書いてあることですが、「ば」の後ろに「~てください」など働きかけの文が来る場合、前件には制限があります。
どんな制限でしょうか。今回集まった例文でみていくと非常にクリアなのですが、前件は状態/状況を表す形容詞(体調/都合が悪ければ、暑ければ、よろしければ、きつければetc)や、動詞的形容詞(ほしい、~たい)、動詞なら無意志動詞(ある・いる・間に合う・要る・わかる・間違うetc)、そして可能動詞と可能の意味を持つ文型(できる、~きれるetc)です。
言い方を変えれば(学生に伝えるべきことは)、「前件に意志動詞(動作動詞)はダメですよ!」です。
なお、仮定条件の「たら」と「ば」は入れ替え可能な場合も多く(例:安かったら買う、安ければ買う、勉強したら上手になる、勉強すれば上手になるetc)、学生からは何が違いますか?どう違いますか?という質問が飛んでくることも多いかもしれません。なので、このようにどちらも言えそうな例文で「たら」と「ば」を比較するのは危険です。もし急に二つの条件節の違いについて聞かれたら、後件しばり「~てください」の場合で、といささか無理やりではありますが、文法的「制限」について見せていくのも一手かなと思います。
例えばこのような説明をしてみる…とか。
★「たら」:前件に制限がない(意志・無意志なんでもOK)。
暑かったら窓をあけてください。〇
~さんに会ったらよろしく伝えて。〇
★「ば」:前件は無意志だけOK。
暑ければ窓をあけてください。〇
~さんに会えばよろしく伝えて。×
意志動詞・無意志動詞など文法用語ではイマイチぴんと来にくい学生もいますので、私は意志動詞は「自分でコントロールできる:controllable例えば食べる、飲む、勉強する」、無意志動詞は「コントロールできない:uncontrollable例えば雨が降る、風が吹くetc」というような言葉で説明しています。
<例文>
参考までに、今回、先生が提出してくれた例文を品詞別に分けて挙げておきます。
形容詞
よろしければ、お使いください。
よろしければ、こちらにご住所をご記入ください。
ご都合が悪ければ改めますので、おっしゃってください。
体調が悪ければ、遠慮なく休んでください
映画鑑賞中はお静かに。でもおもしろければ、笑ってください。
今回のテストの結果がくやしければ、死にものぐるいで勉強してください。
眠ければ、先に寝てください。お茶漬けでも食べますから。
キツければ、一周でやめてください。無理してもいいことはありません。
都合がよければ、ぜひ来てください。
忙しくなければ、ちょっと教えてください。
辛ければ、調節してください。(辛さ調節)
寒ければ、暖房をつけてください。
お邪魔でなければ、私も一緒に行かせてください。
~たい、ほしい(動詞的な形容詞:日本語では形容詞だが英語など他言語だと動詞に分類されるもの;want)
やせたければ、甘い物は控えてください。
賛成してほしければ、もっとそのプランについての利点を教えてください。
ご飯をおいしく食べたければ、たっぷり運動してきて。
インフルエンザになりたくなければ、予防接種に行って。
(youtubeで)続きが見たければ、メンバーシップ登録をしてください。
卒業したければ、来週中に論文を提出してください。
ベトナム料理、食べたければ、いつでも言って!作るよ。
上手くなりたければ、仕事がたいへんでも毎日1時間は練習してください。
動詞
- <ある・ない>
時間があれば、宿題をやって来てください。
こちらはスロバキアみやげの非常に強いお酒です。自信があれば飲んでみてください。
内容に興味がなければ、このメールは無視してください。
熱があるならば、休んでください。
この料理を作る時にはナンプラーがあるといいですが、なければ、醤油を使ってください。
不具合があれば、教えてください。
質問があれば、いつでも聞いてくださいね。
困ったことがあれば、相談してください。
この活動に興味があれば、こちらに連絡してください。
ご用があれば、この呼び鈴を押してください。
オススメがあれば、教えてください。
私にお手伝いできることがあれば、いつでもお声がけください。
差し支えなければ、もう少し詳しく聞かせてください。
- <無意志動詞>
わからなければ、いつでも聞いて!
思いつくままに書いてみましたが、使い方が間違っていれば教えてください。
サイズが合わなければ、教えてください。違うサイズをお持ちします。
要らなければ、捨ててください。
明日待ち合わせの時間に間に合いそうになければ、早めに連絡してください。
この薬が合わなければ、すぐに服用をやめてください。
都合がつけば、来て〜!
椅子が足りなければ、隣の部屋から運んでください。
まだ間に合えば、参加させてください。
- 可能動詞・可能表現
たべきれなければ、あとはお持ち帰りください。
毎日1時間練習できないならば、この教室はやめてください。(スパルタ教室)
導入文と場面はどれがいい?
それでは、「~ば、~てください」を導入しやすい(学生にとってわかりやすい)例文とは何かについて考えてみましょう。
導入文・場面の条件
どんな文型でも、導入時には、以下の点に注意をすべきかなと思います。
- 場面・文脈がわかりやすい(文化ギャップのない、普遍的な設定)
- 語彙の平易さ
- 品詞によって接続ルールが違うものがあるので品詞は多く提出できるとよい、しかも同じ意味が伝えられるものだともっといい。(kind:やさしい、親切、手伝ってくれる)
導入例
具体的な導入例を考えていきましょう。
- 機能:offer(提案機能のほうが指示機能より汎用性が高く練習させやすい)
- 場面:お客さんとお店の人
- 品詞:形容詞(寒い・必要・いい)、動詞(ある・ない・足りる)
まずは活用練習から
場面(レストラン)と、機能(offer)を決めたら、品詞ごとに「ば形」変換の練習をします。
- いろんな品詞で「ば形」に変換させる(ただし、な形容詞の直接接続は「なら」になるので注意。あるいは「~であれば」の形にさせるようにする:ex) 必要であれば)
- 上記でつくった前件にあわせて、学生に後件をつくらせてもいい。
<レストラン>
以下レストランの場面で、店員さんから出てきそうな例文を挙げてみました。
講師は前振りの文(状況説明文)と語彙の辞書形だけを言い、学生に活用させます。例)寒い→寒ければ
- 空調(エアコン)はだいじょうぶですか。寒ければおっしゃってください。
- はしでだいじょうぶですか。ナイフ・フォークが必要であれば言ってください。
- かさはこちらです。これでよければ(こちらでよろしければ)、お使いください。
- 味はだいじょうぶですか。味が足りなければ、こちらのスパイスをお入れください。
- おなかいっぱいでしょうか。食べきれなければ、お持ち帰りください。
応用練習
友だちを家に誘う、などの場面で、カジュアルな言い方を練習するのもいいかと思います。
その他の注意点
「ならば」と口をすべらせないよう注意:提出例文にも出てきましたが、2つの条件節「なら」と「ば」が一緒に出てくる条件節「ならば」は、とりあえず導入時点では外しておいたほうが無難です。
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