アクティブな日本語クラス活動のヒント

練習のための練習をさせない

クラス内での「楽しくて」、「役に立つ」練習とは

言語学習指導の基本は、導入⇒練習というシンプルなフローです。もちろん、練習には、入れ替え練習、活用練習、スピーチやロールプレイといった応用練習など、いろんなパターンがありますが、基本は導入して練習する、この繰り返しです。
その過程を、学習者に少しでも楽しいと思ってもらえるか、つまらないと感じさせてしまうか。

そもそも「楽しい」とはどういうことなのか。私が思う学習者の感じる「楽しい」の帰するところは、
楽しい=使えた実感がある
つまらない=口を動かしているだけで、実践性を感じない(身体性がない)
ということだと思います。

そしてそれは、講師側の裁量で何とかできそうな、いろんな試みでコントロールできそうなことだとも思っています。今回は、いま習っていることが使える!と感じさせるための(講師としての意地?から生まれた)アイデアをご紹介したいと思います。

初級クラス、動詞の疑問詞疑問文を導入する回

<アイスブレーキングの雑談時>

講師:明日、休み(national holiday)ですね。何をしますか。
学生A:仕事をします。
講師:そうですか。会社に行きますか。
学生A:いいえ、うちでします。
学生B:ラクロスを見ます。(何とか公園で世界最大規模のラクロスの大会があるらしい、アメリカやオーストラリアの強豪チームもやってきて云々…とうとう最後は英語での説明に流れる)

アイスブレークの雑談時によくありませんか。講師側も文型や語彙の制限により、質問のパターンが限られること。あるいは、学習者が伝えたい情報が多すぎて、しかも日本語の語彙もないという状態になると英語に流れてしまうこと…。あげくの果てに、人数が多いとクラスがコントロール不能…というような悪循環。

ですが、授業の中でしつこいくらい助詞と語順、疑問詞(いつ・どこで・だれと・なにを)などを確認し、練習したあと、最終的に授業のはじめの質問に戻ると、ここまでの単純練習が実を結び、(身体性を感じることができたのか)すごくよい顔をして発話する、私には伝えたい情報があるのだ!という姿勢がみられることがあります。

<同じクラスの授業が終わる2分前>

講師:はい、もう一回。質問します。明日、何をしますか。
学生B:明日、Aさんと、大井公園で ラクロスを見ます。(満足そう、Aさんも拍手)

講師側から、疑問詞疑問文を使って追っかけ質問ができないぐらい、完璧で長い文を作ることができました。(どうやら、休み時間の間にBさんに誘われて、Aさんもそのイベントに一緒に行くことにしたようです)

講師:Bさん、何時に行きますか。(なんとか疑問詞を使ってもう1問ひねり出す)
学生B:午後2時ごろ行きます。先生は、明日、何をしますか?
講師:明日、天気が悪いです。私は、うちにいます。
学生A、B:(苦笑)
学生たちはアウトドアのイベントに行くのに、「天気が悪い」なんて意地悪な情報は言わなければよかった…という反省は残りましたが…。学生が長い文を作れていい気分で終わればもっと良かったかもしれません。

雑談も練習に生かす

ここの論旨とはちょっと外れますが、この回のみならず「雑談」がいかに必要かということも改めて感じています。雑談は、学生の興味、生活習慣等、情報として知っておくといいだけでなく、学習者が伝えたいことは何か、あわよくば今日習った文型を使って、よりよく言い直しをさせることもできます。学生にも今日の文型役に立ちそう、今日学校に来て習った甲斐があった!と感じさせることができるし、講師側にもまいておいた種や伏線が回収できるというメリットがあります。

練習のための練習をさせると

最後に「練習とは何たるや」がわかるcotoで伝説として語り継がれている話をご紹介しましょう。
名詞文過去の練習回。××年前、××さんは(職業・年齢)でしたか。はい、~でした。いいえ、~じゃなかったです。教科書に忠実に、シンプルすぎる質疑応答を繰り返していたら、あるときふと緊張が糸が切れて、泣き出してしまった学生がいたそうです。

先生:どうしたんですか。
学生:…I am not stupid.
学生の涙と、この発言。その心は…。発話することに意味を感じない練習ばかりを繰り返すと、学習者のプライドまでも傷つけてしまうということなんだと思います。口慣らしのための単純な繰り返し練習は、もちろん必要です。が、講師のマインドセットとして、学習者が「楽しい」=「使える」と感じる授業がより重要であるということは、常に心においておきたいものです。タイトルの「練習のための練習(だけを)させない」というのは、そういう意味なのです。

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