「んです」は、どう教えたらいいか
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はじめに
「私は日本人です」「私は日本人なんです」この二つの文の違いは何?と学生に聞かれたら、みなさんはどう答えていますか。
初級文法の「~んです」に苦手意識のある先生方は多いと聞きます。しかし、講師側が知識として押さえておくべきポイント、また導入時に必要な文脈への配慮さえあれば、そんなに怖がることもないのではないか、というお話を今回はしたいと思います。
「んです」について、講師が知っておくべきこと。
いきなり、核心なのですが、
「んです」とはなにかと問われれば、
それは、high-context communicationであるということ。
high-context、つまり聞き手・話し手の間に共通の認識や価値観があり、お互いがいろんな「察し」を持って行うコミュニケーション活動である。
と私は答えると思います。
この定義の真意を確認すべく、ちょっと具体的な例文で見ていくことにします。
①平叙文「~んです」:「理由」を述べることで暗意を伝える
例)
A:いまちょっといいですか。
B:すみません、今から会議なんです。
Bの発話ですが、実はAの問いに対する直接的な答えにはなっていません。直接的な答えは「よくない」ですが、そういうと人間関係の軋轢を生む(失礼!)ので、「今から会議がある」という事実を述べることで、答えはNOだとAに類推を促す、いわば他力本願のコミュニケーション・ストラテジーだと言えるでしょう。社会人ならだれもが知っているであろうこと、つまり会議があるということはいま忙しくて時間がないという共通認識(high-context)を利用しているコミュニケーションなのです。「会議なんです(会議だから)」と理由を述べることで言語外の意図(今は忙しくてそれどころじゃないよ)を察してもらっているのです。
②疑問文「~んですか」:自分の推測を確認するための質問
例)いつもは会社前にスーツで来ている学生がTシャツなどカジュアルないでたちで来た。そして大きなスーツケースを持っている。
それを見た先生の一言。
今日は休みなんですか?
旅行に行くんですか?
非言語情報(Tシャツ、スーツケース)と、これまでの学生の日常を少しは知っている(平日フルタイムで働く会社員)という文脈から出るのは必然的に「んですか」を使った疑問文です。この疑問文の意図は、今日は平日なのにカジュアルな恰好、さらにスーツケースまで持っている。ということは授業のあと空港に行くのではないか?という類推に基づき、それを確かめるための質問という構造です。
「んです」を教えるときには文脈や場面の仕込みが必要である
以上のようなhigh-context communicationが「んです」の特徴であるからには、導入時には「んです」を使うべき必然性を感じられるだけの文脈や場面が必要になってきます。
先述した旅行の場面のほかに以下のようなものもよいでしょう。
場面1)会社に行くと、同僚の机の上に、自分も大好きなグループのグッズがおいてあるのが見えた。
~さんも、BTSが好きなんですか?
もしかして、先週のコンサートに行ったんですか?
場面2)いつも元気でさわやかな印象の同僚の様子が朝からどうもおかしい。
Q:どうしたんですか。
A:昨日、飲み過ぎたんです。
実は、最近あまり寝られないんです。
場面1・2から「んです」の疑問文の機能としてわかることは、以下2つ。
1)聞き手の推測(guess):BTSのファンなのではないか(場面1)?、今日は具合が悪いのではないか(場面2)?からの真偽の確認(confirm)である。
2)「オープンクエスチョンの「どうしたんですか」という問いには「んです」という文型を用いて理由を述べるべし」という一種のパターンQAとして学生に説明する。
初級教科書「げんき」JAPAN TIMESで紹介されている2つの場面、1つの機能
「げんき」における「んです」の機能はひとつ、理由の説明です。
場面としては、以下ふたつが紹介されています。
①異常を察した人が問う「どうしたんですか」と、それに理由を「んです」という文型で答える場面
Q:どうしたんですか。(いつもげんきなメアリーさん、でもいつもと違って様子が変だという推測からの確認質問)
A:頭が痛いんです。 (頭が痛い「から」様子が変だ、という理由の説明)
②ほめられて、それについて理由を述べる
A:すてきなくつですね。
B:イタリアのなんです(イタリアのだから、すてきだ)。
学生にとって難しいこと
学生には使用する場面を限定的にして、かつ適切な場面を与えれば、実は先生が思うほど理解が難しい文法ではありません。むしろ学生が大変なのは「んです」の前が普通形である点。普通形であれば、すべての品詞とテンスが接続可能な文型なので、それまで使っていた「ます・です」体を普通形に変換しなければいけないという負担のほうが大きい。
そういう意味で、場面や文脈があっても、どうして「どこに行きますか」ではだめなんですか?という疑問も生まれてくるのかもしれません。初めてあった人や、知り合って間もない人との雑談のコミュニケーション、つまりlow-context communicationであれば、週末の予定などについて尋ねるとき「週末、何をしますか」などが自然です。お互いをよく知ってからは、あの人は旅行好きなのを知っているから休みであればどこかに行くはず、そしてゴールデンウィークという長い休みであればどこかに行かないはずはないという類推のもとに「ゴールデンウィークは、どこに行くんですか」というのが自然です。
また、よくある誤用としては、文脈なしで唐突に「んです」を使ってしまうこと。例えば、自己紹介の場面で「私は韓国人なんです」など。この文の不自然さは、自己紹介という共通認識がない、お互いをまだ知らないlow-context状態では、察してもらう前提が成立しないため不自然だと説明できるでしょう。
直接法においては邪道かもしれませんが、ここまで来てまだ「~んです」の機能がピンと来てない、という学生には、は英語でいうところの”you know”であると言ってみるといいかもしれません。
例)
Q:どうして日本語を勉強しているんですか。
A:彼氏が日本人なんです。→ “My boyfriend is Japanese, you know.”
まとめ
冒頭に述べた「んです」とは、high-context communicationである。これをしっかり講師自身が自分の中に落とし込んでおくと、「んです」を教えることに苦手意識も減っていくのではいかと思うのですがいかがでしょうか。
最後に追加情報。われわれが日常よく使う前置き表現の「んですが〜」について。これこそ、最後まで文を言いきらなくてもいいという実にhigh-contextな表現のもう一つの例です。「すみません、駅に行きたいんですが…。」「…」に隠れているのは「教えていただけますか」という依頼表現です。それが「駅に行きたいから」という理由を述べるだけで相手に道案内への依頼という意図を推し量ってもらうコミュニケーションになっているのです。
こういう表現方法は、「日本社会のpassive aggressiveな側面である!」と指摘されることがあるかもしれません。このようなご指摘については、日本では「間接コミュニケーションのほうがより丁寧度(politeness)が増す」という前提に立っているからだと説明されるのかなと思います。直接表現/間接表現と丁寧度(politeness)との関係性については、言語外コミュニケーションストラテジーとして、国や社会によってさまざまであると言えるでしょう。
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