中級をどう教えるか:初級との違いから、文型導入の方法を考える

中級をどう教えるか:初級との違いから、文型導入の方法を考える

■はじめに

日本語教師になって、まず教える学習者のレベルは初級であることが多いかと思います。それは単に初級学習者の母数がいちばん多く、必然的に教えるチャンスが開かれているから、ということもあるでしょう。また、助詞や語順、活用形など、日本語の統語的枠組みという基礎を教えられなければ何も始まらないという教師としての技術論、方法論的な一面もあるかと思います。加えて、初級の学習者を教えることで、学習者が何にひっかかり、何を難しいと思うか、経験をもってしか得られない教師としての礎をつくることができ、今後の自信につなげられるという側面もあります。

それでは、初級を一通り教えられるようになれば、中級以上も自然に教えられるようになるのでしょうか。今回は、初級と中級で何が異なるのかを探りつつ、中級文型の教え方を具体的に考えていこうと思います。

■初級と中級の違いは何か

日本語教育の参照枠(CEFR準拠)では、初級(A1・A2)が個人的・具体的な日常会話にとどまるのに対し、中級(B1・B2)は一般的でやや抽象的な話題について、自分の意見をある程度論理的に伝える段階だとされています。

ということは、学習者の自立度が上がる分だけ、教師に求められる説明の精度も必然的に上がるということです。このような段階の学習者からよくある質問としては、初級で習った既習文型との違いやら、訳語が不明瞭で理解しにくいもの、あるいは異なる文型だが同じ訳語が提出されているもの、などです。

具体的にひとつ例を挙げましょう。

例えば、同時進行機能を持つ初級文型「ながら」と中級の「~つつ」。
ここでは、機能や意味や同じでも、入れ替えできない場合もあることに注目しなければなりません。

・入れ替え可能な例:様子を見ながら/つつ、対策を決めよう
・入れ替え不可の例:携帯を見ながら〇/つつ✕、運転してはいけない

ここではまず、「つつ」に接続する動詞の性質が限定的なこと(日常的な身体性を伴う動作:携帯を見る、音楽を聞く、電話をするなどにはなじまない)を指摘する必要があります。くわえて、二つの文型の間にあるニュアンスや文脈、丁寧度などの違いを示し、なぜここで既習の初級文型ではなく、中級文型を選ぶ意味があるのかも教えなければなりません。

中級以降になると、学生から少々トリッキーな疑問も投げかけられます。「先生、この”つつ”という文法は、”ながら”でも言えますよね?」というような質問です。その心は…。どちらも同じ意味なら、簡単なほうを使って切り抜けたい、ということでしょうか。しかし、日本語ネイティブ話者である講師は、このような部分に積極的に関与しなければいけません。「初級文型だけでは冗長さや幼さが残る」「より高度な言い回しを選択するべきだ」といった指導が大切になってきます。

■中級文型の導入場面と例文を考えてみよう:「〜た とたん」の場合

「朝起きて、まどをあけたとたん、鳥が入ってきたんです!」

これを初級文法で言うとすれば、

「朝起きて、まどをあけました。そしたら、すぐに鳥が入ってきたんです。」

文法的には、この言い換えに誤りはありませんが、問題は、なぜそれでも「〜たとたん」を選ぶ意味があるのか、という点です。両者を読み比べると、後者は2文で構成されており、多少ぶつ切りの印象を与え、出来事の連続性が分断されて見えます。しかし、「〜たとたん」は、前件と後件のあいだの時間の近さそのものに焦点を当て、その近さに対する驚きのモダリティ(様態)を文に含ませることができます。最後にあえて「びっくりした!」と言わなくても、その驚きようが伝わる文型です。

別の例で考えてみましょう。
(初めてのフルマラソンで、走り切ったのは良かったが)
夫はゴールしたとたん、倒れこんでしまった。

これも「ゴールして、すぐに倒れこんでしまった」と言い換えられます。しかし「〜たとたん」を選ぶと、ゴールした瞬間と倒れた瞬間のあいだにほとんど間がなかったことが際立ち、心配や驚きの色合いが文に乗ります。「ゴールして、すぐに」では時間の近さは伝わっても、その近さに対する話者の驚きは薄れてしまうのです。

では次の例はどうでしょう。
社長だとわかったとたん、敬語になった。
「社長だとわかって、すぐに敬語になった」という反応の切り替えの速さそのものへの驚き、それをあえて指摘することで、観察者の皮肉の意図も伝わるような気がしませんか。

■そのほか、導入時に必要なこと

以上述べてきたように、導入時には、
・その文型を使う意味、場面、状況などを学習者にわかってもらうこと
がまずは大切です。

そして、次に重要なことは、
・接続のルールの明示
です。

「~た とたん」で言えば、「とたん」に接続できる活用形は「た形」であること、「とたん」に続く後件には意図的な動作(「〜たとたん、買い物に行った」など)が来にくいことなどです。中級以降では、このような文末や接続制限が多発しますので、ここは丁寧に扱わなければなりません。学習者視点で言えば、ルールを覚えきれればテスト対策にも有効であり、教師側の視点では、非文の想定が可能になってきます。

■まとめ

中級文型の指導とは、学習者がより難易度の低い文型へ言い換えをするという可能性を否定することではありません。むしろ学習者がパラフレーズできるようになるのは、文型の理解には大事なことでもあります。ですが、中級で講師が果たすべき最大の役割は、言い換えられる二つの表現のあいだにあるニュアンスと文脈の違いを学習者とともに発見し、なぜこの場面でこの文型を選ぶ意味があるのかを伝えることなのだと思います。

 

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