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「くせに」はレッスンでどう扱う?
本日は文型「〜くせに」を取り上げたいとおもいます。
まずは今日も例文を挙げていきます。「〜くせに」の文の主語は必ず自分以外の人で、自分のことには使いません。「〜くせに」は人をディスるときに使う文型です。日本語学習者は聞いて理解できたほうがいいですが、自分からは使わないほうがいいかもしれません。
このような性質を持つ文型、講師のみなさんからはどんな例文が出てくるのでしょうか。
「くせに」の例文
- 高校生のくせにブランドバッグなんて生意気だわ!
- 日本語教師のくせに、漢字間違えてるよ…(うっ、耳が痛い…)
- 私のこと何も知らないくせに、勝手なこと言わないで。
- うちの兄、あのアイドルのファンのくせに、知らないふりをしているんだよねー。
- うちの猫、さっき食べたくせにお母さんにまたおねだりしていたんだよ。それじゃ太るよね。
- 本当はうれしいくせに、もう照れ屋なんだから〜
- 部活の先輩たちが引退して、寂しくて泣きたいくせに、ぐっと我慢してる娘を見てもらい泣き。
- すごっ、年寄りのくせに、めっちゃ足速い。
- うちの息子、いつもはしないくせに、試験前だけは部屋の掃除をするのよね…。
- わがまま言って買ってもらったくせに、3日で飽きるなんてどうかと思うよ。
- 甘い物が好きなくせに、外では食べないよね。
- 下手なくせに、マイクを離さない。
- 飲めないくせに、飲み会に行きたがる。
- 何にもしないくせに、口ばかり達者なんだから・・・
- 彼女がいるくせに、他の子とデートするなんて最悪。
- 来るって言ったくせに、ドタキャンだって・・・信じられない!
- 安西先生:「ボールとる、ジャンプ、シュート」
桜木花道:「もーっ、ハーハー言ってるくせに、なぜ入る!?」(『スラムダンク』より) - ジャイアン:「のび太のくせに生意気だぞ!」(『ドラえもん』より)
- 親:「子どものくせに、大人に口ごたえするんじゃない!」
子:「何も分かってないくせに、うるさいっ!!」 - 親: 「男のくせに情けない・・・」
子:「それって、ジェンダーバイアスじゃない?」
20の例文は我が家であった会話です。今時の子どもたちは学校でSDGsを学んでいるので、非常に敏感です。イデオロギーが先行して、なんでもかんでもジェンダーバイアスだと言われてしまうのもどうなの?と思う今日この頃ではありますが。このご時世、NGなのは確かですね。
そのほかでNGなのは、よく聞くジャイアンの言葉(18)ではないでしょうか。直に人を攻撃するような物言いですからね。
それ以外の例文、以下のようなケースはギリOKでしょうか。
- 下手の横好き系、しかも自虐ネタとしてなら日本語教育界のコンプライアンス違反にならない!?
- 使用場面は独り言、心の声、家族間の会話
いや家族だったとしても「親しき仲にも礼儀あり」。直に言われたら心が折れちゃう!? - 明らかに相手に非がある場合は文句を言われても仕方がないとする!?
「〜くせに」は話し手のバイアスがかかっている表現で、どうしても人を非難したり侮辱したりする感じが出てしまうので、使わないにこしたことはありません。例外的に6、7、8のようなほっこり系もありますが、これはニュアンスも含めて学習者が理解するのは困難です。
レッスンで取り扱うのであれば、講師が後件を提示するなどコントロールした状態で練習をするといいでしょう。ある程度人を不快にさせるような文になることを避けられます。上の例文なら、どの場面のものが使えるでしょうね。
「男のくせに」「女のくせに」
人に言われてカチンとくるものの代表選手はやっぱり「男のくせに」「女のくせに」でしょうか。日本人なら一度は言われたことがあるでしょう。
「男のくせにもう諦めるのか!」はがんばりが足りないときに、「もうちょっとがんばれるでしょ!」と叱咤激励のために使われることばです(ポジティブな見方をすれば…)。この文は女に置き換えるとしっくりきません。また、「女のくせに生意気だ」なんて言われたら、がんばりすぎを咎められているような気さえします。「女のくせに料理が下手」「男のくせにパックなんかして」なんて非難されるのも不愉快ですね。
もっとも通常は「まったく男のくせに、、、」と最後まで一文で言うことは少なく、いざ例文を作るとなると口に出すのが憚られるものばかりが出てしまいます。
先日、校内講師に「女のくせに」「男のくせに」を学習者に紹介するかどうかアンケートとったところ、「紹介しない派」圧倒的多数でした。一方、Twitterで問いかけたところ正反対の結果に。なかなか興味深い結果です。まだまだ「女のくせに」「男のくせに」が一般に使われているということですかね。このような表現を日常生活で聞く機会があるのなら、知識として、日本文化の一つとして伝えるべきなのでしょうか。
ジェンダーをはじめとする差別に関する問題については、クラス内で学習者から学ぶことも多いです。正直なところ、日本人はこのような問題について鈍感な人が少なくありません。日本語学習者は多様化しており、価値観も背景もさまざまです。クラスでこういった表現を教える前に、タブーだからと思考停止せずに、ぜひ一度同僚の講師と話してみたり、自分なりに考えをまとめてみてはいかがでしょうか。
<おまけ> レッスンで気をつけたい表現
文法表現:「〜らしい」「〜っぽい」など
皆さんはバイアスのかかった表現で学習者に指摘されたことはありませんか。いろんな考え方があるから気にしないという学習者も多いですが、これらが褒め言葉で使われていたとしても違和感を感じる人もいます。思い込みは危険です。
たとえば、例文6はからかっているニュアンスですが、これも人によって受け取り方は異なります。例文8などはお年寄りへのリスペクトを感じますが、そのニュアンスを理解できる学習者はまれでしょう。日本語は話し手の気持ちが含まれた文末表現が多くありますので、その行為や言動が相手に及ぶ時は注意が必要です。
語彙表現:「女性〇〇」「〇〇男子」など
女性だと「女性起業家」「リケジョ」「女子力」など、男性だと「イクメン」「料理男子」「男気〇〇」などと言われるのはなぜか。話し手はポジティブなニュアンスで使っていても、受け取る側は必ずしもそうではありません。これもよく目にしますので、質問されるかもしれませんね。
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