説明しにくいコトバが出てきたら、どうする?

説明しにくいコトバが出てきたら、どうする?

今回は、例文トレーニングでお馴染み、左先生によるワークショップのまとめ記事です。皆さんは、説明しにくいコトバに出会ったとき、どう向き合っているのでしょうか?どのようなプロセスを経て学習者に伝えているのでしょうか。左先生の脳内をちょっと覗いてみましょう。

例文をたくさん作る!

「使い方がわからない、使い分けがわからない」「どんな導入が学習者に刺さるのか」このようなシーンにに遭遇したら、まず日本語教師がすべきことは、できるだけ例文をたくさんあげることです。この時点では、なるべく日本人が使う自然な日本語の例文を出します。特に語彙のコントロールをする必要はありません。

例文を観察する

例文をたくさん挙げたら、次にすることが例文を観察することです。

日本人に説明するように辞書に載っている定義(意味)をそのまま学習者に提示するのは非常に危険です。私たち日本語教師はもちろん辞書も使いますが、学習者の立場に立って、もう一歩踏み込んで、また少し多角的に俯瞰的にコトバと向かい合う必要があります。

例文を観察する際には、切り口がいくつかありますので、一緒に見ていきましょう。

① フォーマル ⇔ カジュアル

<例>「変更する ⇔ 変える」

漢語だと、かたい印象がありますね。これはスピーチレベルや文脈によってどちらを選択するかが変わってきます。

② 古い ⇔ 新しい

<例>薬局・薬屋⇔ドラッグストア

「薬」は買うことがあるだろうし、「〇〇屋」も汎用性が高いから覚えていたほうが便利だよね、と日本語教師としては紹介したい語彙ではありますが・・・昨今は業態がかわり「薬局」「薬屋」派が次第にマイノリティとなりつつあります。また学習者にとっての覚えやすさ、使いやすさ、言いやすさなどから総合的に判断すると「ドラッグストア」になるのかなと思います。

③ 文語的(書き言葉)⇔口語的(話し言葉)

<例>浜辺 → ビーチ、海岸、海

先日、初級の学習者が「週末、いい天気だったから、浜辺に行きました」と言っていました。ちょっと違和感がありますね。この場合は「ビーチ」または「海」が自然です。学習者が自分で辞書で調べて使用している場合、まちがってはいないけど、なにかがおかしいというケースがよくあります。辞書に出てきたどの言葉を選択すべきか、これを学習者が選択するのはハードルが高いので、ここが日本語教師の出番になります。

 

④ 客観的 ⇔ 主観的

<例> シンプルな服 ⇔ 地味な服

文脈にもよりますが、「地味ですね」と言われたら、あまりいい気はしません。なぜでしょうか。それは、「地味」には華やかさがなく控えめで目立たないという話し手のややネガティブな主観が入っているからです。一方の「シンプル」はデザインなどに無駄がない、または簡単、わかりやすい、機能的だなどという客観的な事実を表す言葉です。

 

⑤ 他動詞(的)⇔自動詞(的)

「もっと日本語をimproveしたいです。”improve”って日本語でなんですか?」と聞かれた時、皆さんはどのように答えるでしょうか。きっとパッと思いつく対訳は「上達する」だと思います。でも、「もっと日本語が上達したいです」はちょっと変ですね。この場合は「もっと日本を上達させたい」と他動詞文の使役表現である「させる」を使ったほうがより自然です。また、「毎日勉強したので、日本語が上達しました」も違和感がありますね。この場合は、「日本語が上手になりました」と言わせたいです。

 

⑥ 意志⇔無意志

<例> する ⇔ なる

人の意志で行動や状況をコントロールできるかどうか、動詞を分類するときの分け方の一つです。語彙レベルでもそうですが、日本語では意志性が大切になる文法が多いので、意志動詞・無意志動詞の区別を知っておくと便利です。こちらに関しては過去のコトハジメのブログ記事をご覧ください。

 

⑦ 継続⇔変化

<例>日々 ⇔ 日に日に

「日々」と「日に日に」と意味・用法が重なる部分もありますが、、、「日々努力する」はOKでも「日に日に努力する」とは言えません。「日に日に」は「日に日に上手になってきた」のように、「なる、増える、進化する、〜ている」のような変化を伴う語彙との相性が良さそうです。

 

教え方のTips

例文を駆使する

日本語教師としてはこれが正解です!

日本にしかなさそうな概念の語彙の場合、学習者の知っている語彙・表現で例文を作り、場面や例文から意味・ニュアンス・使い方を学習者に類推してもらいます。ここで学習者自身が使うシーンをイメージできるような例文を提示できる教師が、いわゆる「デキる日本語教師」です!

<例>工夫、やりがい、きっかけ、楽

 

パッと直訳!

学習者の母国語がわかる場合、日本語であれこれ説明するより簡潔でわかりやすいという場合があります。レッスンの流れを止めたくない時に、この方法でパッと済ませることもあります。

<例>本:book、説明:explanation

 

パラフレーズ

使い方やニュアンスが異なることもありますが、簡単な日本語へのパラフレーズ(言い換え)を提示するという方法です。知っている語彙を駆使してシンプルに表現する(言い換える)という技術は、日本語教師だけでなく、学習者にとっても必要なスキルです。日本語では書き言葉と話し言葉の文体差があったりするので、それにあわせてパラフレーズの技が必要になってきますね。

<例>食事する≒食べる

 

コロケーション

一緒に使う語彙、および状況・文脈を提示する方法です。どの語彙とどの語彙が一緒によく使われるか学習者自身が判断するのは非常に難しいです。先日、ある学習者が「眠い時、強いコーヒーを飲みます」と言っていたのですが、これは英語で味が濃いときに “strong” を使うからです。でも、日本語にはこの組み合わせはありませんね。

<例>(マンション・土地・資産を)売却する≒売る

「アイスクリームを売却する」とは決して言いません。「売却する」にふさわしい名詞があります。

コロケーションを知っておくことは、日本語学習においてとても重要です。日本語作文支援システム「なつめ」のような無料で日本語のコロケーションを調べられるサイトもありますので、ぜひ使ってみてください。

 

 

コトハジメニュースレター登録しませんか?

Invalid email address
会員向けのワークショップや、日本語レッスンのヒント、
会員向けの求人情報など様々な情報をニュースレターでお届けしています。

Customer Reviews

5
0%
4
0%
3
0%
2
0%
1
0%
0
0%

    Leave a Reply

    Your email address will not be published. Required fields are marked *

    You may use these HTML tags and attributes: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>

    Thanks for submitting your comment!