会話における「こそあ」の使い方

会話における「こそあ」の使い方

指示語には大きく分けて、現場指示と文脈指示があります。以前、日本語文法の基礎でも:指示詞「こそあど」を取り上げましたが、今回は少し違った視点で指示語の「こそあ」を見ていきます。

文脈指示の「こそあ」は指す対象が目の前にはありません。基本、「あなたの話=そ」「私の話=こ」「どちらも知っている話=あ」で使い分けられれば十分です。

ただ、ときどき誤用が見られるので注意が必要です。例えば、学生と話していたときの話。「昨日、友だちと飲みに行きました。あの人は大学のとき、ルームメイトでした。」(私の心の声:ん、あの人って誰だっけ?そんな人、あたしゃ知らんぞ・・・。)「5年前、はじめて日本にきたとき、あんなことがあったんです。」(私の心の声:ん、私は5年前、まだあなたと会ってないけど・・・。)学生は、話し手と聞き手から遠くにいる人、遠い昔のことについて話しているので、「あ」を使ったのでしょうね。これらがよく見かける誤用です。

すんなり「あなたの話=そ」「私の話=こ」「どちらも知っている話=あ」ではいかないのが日本語ですね。

会話における「あ」の用法

「あ」を使うケース①

  • 回想の「あ」:話し手と聞き手が知識を共有している過去の出来事や事物の場合

A:この間食べたあそこのケーキ、おいしかったね。

B:あー、あれね。うん、おいしかった。

(Aの記憶にもBの記憶にもケーキが残っている。)

 

A:あのころが懐かしいな。

B:ほんと、よく朝まで飲んだよね〜。あいつ、元気かな。

(Aの記憶にもBの記憶にも若いころの記憶が残っている。おそらく三人組だったのでしょう。)

 

A:あの件、よろしくね。

B:あ、あれですね。了解です。

(以前AとBで話した案件。秘密の話をしているようにも見えますね。人に聞かれたくない言いにくい話の場合も「あ」を使うのかもしれません。仮説ですが・・・)

 

「あ」を使うケース②

  • 何かを思い出して、独り言を言う場合も「あ」が使われます。

あのワンピース、ステキだったな。あー、買えばよかった。」

 

  • 聞き手が知らなくても独り言っぽく「あれ」を使うこともあります。

A:「あー、なんだっけ? あれあれ、何て名前だっけ、あのお掃除ロボット・・・」

B:「あー、ルンバね。」

 

会話における「こ」の用法

  • 話し手のみが知っている情報を指す場合、「こ」を使います。

「中途で新しい社員が入ってきたんだけど、これが超ハンサムなのよ〜。」

「Aさん異動になるんだって。でも、このは誰にも言わないでよ。」

 

冒頭の誤用例、「× 5年前、はじめて日本にきたとき、あんなことがあったんです。」

私ははじめて聞く話なので、話し手・聞き手共通の思い出にしか使えない「あ」は不適切です。この場合は話し手のみが知っている情報なので「こんなこと」が正解です。

会話における「そ」の用法

  • 聞き手が話し手の情報を知らない場合「そ」を使います。

A:田中さん、来月、南さんと結婚するんだって。

B:え、それは本当ですか?そんなはずはないですよ。

 

冒頭に出した誤用例を改めて見てみましょう。

「× 昨日、友だちと飲みに行きました。あの人は大学のとき、ルームメイトでした。」

聞き手は話し手の指示対象を知らないので、この場合は「その人」が正解です。このようなケースの場合、学習者は「あ」と「そ」を間違えることが多いように思います。

 

「今日は忙しいんだ。エッセイ書かなきゃいけないのに、パソコンが壊れちゃったから、その修理もしなきゃだし・・・」

(これが「あの修理」だと、え?どの修理よ、あたしゃ知らんよ、となるわけなのです。)

 

会話における「こ」と「そ」の違い

相手との会話の中で、そのことが自分自身にとっても身近で、しかも関係が深いと感じたときは「こ」(心理的な共有の「こ」)が使われます。これは「そ」でもいいのですが、「そ」を使うと、他人事のように聞こえます。言い方にもよりますが、やや温度差があるのがわかりますか。

A:大雨で電車が止まっているそうです。

B:えー!それは大変ですね。

A:ええ。ちょっと前にネットニュースで見ました。

C:これはまずい!娘の保育園のお迎えに行けないかも・・・。

 

A:数学の試験、30点だった・・・。

B:いやいや、この点数はさすがにヤバいよね。

(自分の子供がこんなテストを持って帰ってきたら、きっとこう言います。とてもじゃないけど、「それぐらい大丈夫よ、気にしない、気にしない」とは言えません。笑)

 

いかがでしたか。会話における「こそあ」は現場指示の「こそあ」と異なる点があるのがわかりましたか。学生の誤用から色々なことを気付かされます。日本人は何気なく感覚で使っている「こそあ」、なかなか複雑な一面がありますが、ちょっと深堀りしてみると面白いですね。

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