二項比較文をどう教えるか
はじめに
「比較」という概念は、どの言語にもあって、さほど難しくないのでは?と考えがちなのですが、
例えば、
クリスはケンより背が高い。
という文が発せられたとき、その情報価値はどこにあるのか?あえて比較して伝える意味は何なのか?
と、ふと思ったことはありませんか。
比較文こそ、文脈がないと、この文を言われたところで、聞く人は「だからどうした?」になってしまう。言語がコミュニケーションの手段であるとすれば、比較文を使う文脈や意図がクリアでなければ、学習者が使いたいとは思わないのではないか。
というわけで、今回は「導入時の注意点」と「応用練習のアイデア」、「指導のtips」について、まとめてみます。
導入時に注意するべき2つの点
2項比較を導入する際の注意点は、以下2点だと考えます。
①客観的であるか
たとえば以下のような文を導入文として扱うことはNGです。
✕すいかのほうが マンゴーより おいしい/好きです。
「おいしい」「好き」は感情・感覚形容詞であり、この文は話者の主観的な意見です。
前提や文脈のないところで、いきなりこの文を提出するのは混乱のもとになります。というのも、2項比較文のような構文として若干複雑な(英語とは「~より」の入れる場所が異なる:A is taller than B)ため、意味が反対に伝わる可能性があるからです。客観データもないため、文の意味を学習者が正しく理解しているかの検証をできないことが、主観文を導入で取り上げる際の問題点となります。
②情報価値があるか
では、属性描写の形容詞(大きい、小さい、多い、少ないetc)のような客観的な事実を述べるだけの文が導入にもっともふさわしいか、というと比較文においてはそうとも言えないのがややこしい(講師の本領が発揮される?!)ところです。これは、わざわざ比較文を使って何かを表現しようとする話者の心理や意図を考えると明らかです。
北海道のほうが、東京より 大きいです。
東京のほうが、北海道より 人口が多いです。
以上の文は事実にほかなりませんが、そこに情報価値があるか?と言われると、ある程度日本の地理や都市の特徴などの知識があるであろう大人の学生には情報価値(=聞き手にとっての新情報)がないため、少々退屈かもしれません。そしてこの「情報価値」というのは、学習者が今から習うこの構文を「自分も言ってみたい!使ってみたい!」と思わせる、学習の動機付けにつながる大切なものですから、導入時には講師側が大いに配慮すべき点になります。
実際、どう導入する?
というわけで、以上2点を考慮しつつ、どういう導入場面や導入文をつくったらいいのかを考えてみましょう。
私ならたとえば…定番ではありますが「旅行計画」という文脈で
Aさんと、Bさんは、はじめて東京に来ました。明日のプランを考えます。
スカイツリーと東京タワーのウェブサイトを見ています(タワーの高さ、値段、設備、アクセス等々客観データが目の前にある)。
A:明日、スカイツリーか、東京タワーに 行きませんか?
B:いいですね。
A:スカイツリーが634メートル、東京タワーが333メートル。スカイツリーのほうが高いから、おもしろいと思います。
B:ええっ、634メートル!!私は高いところが、あまり好きじゃありません。チケットもスカイツリーのほうが高いですね…
A:でも、いま浅草のホテルにいるから、スカイツリーのほうが近いですよ。アクセスは便利ですよ。
などなど、平行線をたどる議論で展開していく。自分の意見を言う、主張をするという目的のために、客観的データをもとに、比較をすることを見せるのです。
応用練習では、あえて主観を入れる
導入後、いくつかのパターンプラクティスで文型に慣れたあとの応用練習では、主観文も多く入れたほうがアクティブな練習になります。主観・判断・感情がこもり、「わざわざ言いたくなる」主張のある文、自然な発話動機がある文をつくらせるような設定をすることが大事です。事実であっても予想を裏切るものや、主観的意見が混ざると聞き手を引き付けるという体験を学習者にさせるのです。
以下、応用練習向けのトピック、活動およびその際に期待される例文を挙げておきます。
<家族紹介>
性格や特性、身体的特徴などを入れつつ、家族の構成員同士を比較することで、一段階上の家族紹介を目指してみる。
- 妻のほうが、私より、頭がいいです。
- 子どものほうが、私より、背が高いです。
- 私のほうが、夫より、おもしろいです。
- 私のほうが、兄より、かっこいいです。
<ディベートやディスカッション>
趣味・思考などをテーマに主観的な意見を述べる、「好み」はどちら?というような議論をしてみる。
YouTubeのほうが、テレビより、おもしろいです。
- リモートワークのほうが、オフィス(で仕事する)より、べんりです。
- Instagramのほうが、写真の本より、きれいです。
- トムクルーズのほうが、ブラッドピットより、かっこいいです。
- ディズニーシーのほうが、ディズニーランドより、たのしかったです。
- 大阪の人のほうが、東京の人より、おしゃべりが楽しいです。
- ラーメンのほうが、うどんより、すきです。
- コンビニのコーヒーのほうが、スタバのコーヒーより、おいしいです。
- ひらがなのほうが、カタカナより、かんたんです。
さいごに
2項比較を教えるときに注意したいこと(tips)について参考までに記述しておきます。
①導入の会話のあと、パターンプラクティスに入る際には、文型の語順を決めておく(動かさない)
Xのほうが、Yより 形容詞
一旦、上記の順序を基本と定め、主張したいことは「Xのほうが、形容詞」であり、その比較対象として「Yより」があることを認識させます。
②口頭(口慣らし)練習は、まずここから
比較構文は、たとえば英語の構文とは語彙の並びが異なる(A is taller than B)ため、学生によっては、難しく感じるようです。言いたいことと逆の意味を伝えてしまっているという場合も少なくありません。その対策として有効なのは、導入後に行うパターンプラクティスではまず「~のほうが 形容詞」だけにフォーカスして練習させることです。
パターンプラクティスにおいては、イラストや数字など、話し手・聞き手両者に共通認識が持てるデータと形容詞(属性を形容するものが好ましい)も与えておきます。その際、キュー出しとして、不等号の記号「>」「<」を使ってもよいですが、学習者によってはピンと来ない人もいるので注意が必要です。
「~のほうが 形容詞」は質問文の答えとして、また何と何を比較している話し手・聞き手が共有できている場合によく産出される文です。比べるものがわかっているときに、「~のほうが ~より 形容詞」のような完全な文を言う必要がありません。そして「~のほうが」の「ほう」をmoreと認識しておくと、学習者にとって理解が(ある程度は)スムーズになります。