日本語文型「~ていく」が動画メディアで多用される訳

動画メディアによって見えてきた、日本語文型「~ていく」の機能!?

いま使われている言葉を注視する

私は言葉の移り変わりを観察するのが好きです。いいとか悪いとか、正しいとか正しくないとかを見るのではなく、語彙にしても文法、文型にしても、「お、なんだこの使い方、新しい~☆彡」と気づくことに喜びを見出しています。そのような意味でも、YoutubeやInstagramは、新しい表現の宝庫です(今のところ、私にとっては)。

以前、コトハジメの記事でも、終助詞「よ」の機能について、SNS内のインフルエンサーと呼ばれる人たちが盛んに「よ」を使う現象のWHYを解明していくことで見えてくるものについて書きました。→コチラ

今回も同じ文脈にのって、N4文型「~ていく」の用法を観察していきたいと思います。これはここ最近、Instagramなどのリール(動画)ではとくに耳に残るフレーズの一つだなと感じています。例えば、料理の作り方を説明する動画における「野菜、切っていくよ」「切ったらすぐに茹でていく」「調味料と合わせていく~♡」などのキャプションやナレーションは、みなさんも聞き覚えがあるのではないでしょうか。

日本語文型「~ていく」の機能おさらい

ではここで、まずは「~ていく」の基本的な機能についておさらいしてみます。日本語教育においては、大まかに以下の3つを扱います。

継続/変化

2040年をピークに人口は減っていくだろう。

ワンさんは、どんどん日本語が上手になっていくね。

漢字は毎日少しづつ覚える努力をしていこうと思う。

付帯

夏、出かけるときは、サングラスをかけて行ったほうがいい。

子どもたちは、うちから水着を着ていった。

「つれていく」「もっていく」のような複合動詞、すでに一つの語彙になっているものも、ここにはありますね。

付加行為(順番)

コンビニに寄って行くから、先に行ってて。

友だちのうちにケーキを買って行こう。

営業しているかどうかわからないから行く前に電話をかけて行ったほうがいい。

以上が、学生に「~ていく」って何ですか?と聞かれたら、当座説明すべき3つの機能です。

SNSで使われる日本語文型「~ていく」の機能

では、インスタの動画で散見される「ていく」は、基本3機能のどれに当たるのでしょうか。

「野菜、切っていくよ」  

「切ったらすぐに茹でていく」

「調味料と合わせていく~」

どれにもズバリではないが、どれにもかすっている…、そう思いませんか。

行為の進行描写であるし、順番でもあるし、付帯(with)っぽくもある…

解明に向けて、まずは、場面や文脈にフォーカスしてみましょう。例文の場面は、「料理の作り方」という「プロセス」の説明です。その「プロセス」を中継しています。ここには動作の「継続」感、「進行」感、まだまだ途中だよ、続くよ、見ててくださいね~という制作者側からのエンカレッジメントがあります。一番強い機能は「継続」であることは確かなようです。

ではなぜ

「野菜を切る」

「切ったらすぐに茹でる」

「調味料と合わせる」

というように、一つの動詞だけで言わないのでしょうか。ひとつ前のマスメディアであるテレビの料理番組や、紙媒体の料理本であれば、そういう表現を使っていたはずです。

YoutubeやInstagramにおいて「~ていく」という進行・継続の文型を多用する背景には、動画というメディアの持つ特徴、インプレッションを稼ぎたい(最後まで見るのを止めさせない)という表現者側の強いモチベーションが感じられます。視聴者との「一体感」や「協働感」のようなものの演出が見えます。

この文型に「一体感」という機能があることは、動画メディアでこの現象を観察するまでは、気が付かなかったことです。表層(言語表現)があって初めて、その下にあるもの=意味の認識が可能になるという好例かと思います。

そして何よりも「ライブ感」、いつなんどきでもいまそこでコトが起きているという演出も感じられますよね。

また、忘れてはならないのが複合動詞を担う「行く」という動詞の役割。当たり前のことで忘れていましたが、「行く」はゴールへ向かって進むというとても強い意思がある動詞です。そこには必ず終点がある。そして視聴者は、その終点が必ずや幸せな結末であることを期待してみています(どれほど美味しそうな料理ができるか、そしてそれがどれだけ簡単なプロセスですむのかetc)。「ていく」を多用されれば、見る側のわくわくは止まらず、むしろ加速していくのではないでしょうか。

まとめ

動画メディアで使う日本語文型「ていく」のまとめです。

☑場面:プロセスの説明、指示

☑トピック:料理の作り方、ボディメイクの仕方、メーキャップ指南、掃除の仕方、ヘアスタイル、着こなし術などなど(明確なゴール、ハッピーエンドが保証されているもの)

☑用法: プロセスの進行

手順やプロセスが段階的に進んでいくことが強調される。視聴者に対して、今から行う行動や作業が連続して進行していくことが伝えられる。ゴールへの意識・期待が高まる。

例:

ここに洗剤を塗っていきます。(ほほぉ~、直接塗るのね)

次に、5分おいていきます。(なるほど、時間をおくのか)

最後に、水で流していきます。(お、汚れはとれているのかな、ワクワク)

☑文型機能の特徴

  • 進行感の強調: 作業や手順がこれから順番に行われることを明確にし、視聴者にその流れを理解させやすくする。
  • 親しみやすさ: 手順を丁寧に説明しながら進めることで、視聴者との距離感を縮め、動画の内容を身近に感じさせる効果がある。一体感。協働感。
  • 最後まで見せ切る:プロセス内の一つ一つのアクションよりも最終ゴールが最重要マター。制作者は見るのを止めてほしくない(インプレッションを稼ぎたい)。

 

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