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「と」「たら」「ば」「なら」どう違う、への応急対応<First-Aid Kit>
短時間に網羅的な説明は難しい…
日本語の条件節は、初級で学ぶものでも「と」「たら」「ば」「なら」と多様で、その違いを説明しようとすればするほど、沼にはまった先生も学生も多いことでしょう。それぞれの文型の差異を明らかにするには、どのような状況の下でそれが成立するのか、その前提となる条件が微細になりがちで、たとえ理解したとしても、それを「使う」というレベルまで持ち上げるには、かなりハードルが高いと感じます。
今回は、学習者が恐れることなく「使える」という言語学習最大のゴールにフォーカスするには、4つの文型を同じ土俵で網羅的に比較するのではなく、文末のルールや場面、機能の違いなどで説明を試みてみよう、理解を促してみようという主旨のもと、条件節4文型の分類を試みました。学生から突然「と」「たら」「ば」「なら」の違いは何ですか、と聞かれた時の応急処理的(First-Aid)教授法のご提案です。
4つの条件節を、その特徴から分類してみる
「と」
注目ポイント:文末の制限!
「と」の後件は、無意志で恒常的なものが来る
►お酒を飲むと、顔が赤くなる。
►春になると、桜が咲く。
NG! お酒を飲むと、運転しません。(⇒「運転しない」は意志をもった行為なのでNG)
「たら」
注目ポイント:文型の意味・機能!
「たら」には
①仮定(if)と、②「とき(when)」の意味がある
①いま100万円あったら、何がしたい?
②あさ起きたら、(まず)窓を開ける。
①は非現実な条件を挙げる(あなたが鳥だったら、サッカー選手だったらetc…)
②は前件の行為後、次にする・起こること(「たらすぐ」構文)
「ば」
注目ポイント:後件が成立のための絶対条件を提示する構文。
►他店よりも安ければ、ここで買う。
(反対条件「安くなければ、買わない」も成立)
注)「ば」は条件節の中では、状況や文末などの制限が少ないため、他の条件節で置き換えが可能な場合も多い(「安かったら買う」、「安いなら買う」、どれも言える)が、ここは主観的ではあるが「絶対条件」という言葉を使うことで、逃げきりたい。
「なら」
注目ポイント:文脈・場面が大事!
①特定の条件や状況を挙げ、意見をいう。(おススメを聞かれてアドバイスする:即時返答機能)
A:漢字がなかなか覚えられないんだよね。
B:それなら、このアプリがおススメだよ。
②限定条件を出す(スケジューリングや面接時の能力提示の場面)≒「~だけ」
►日曜なら手伝えますよ。
►日常会話なら話せます。
③代替条件を出す(同じようなカテゴリーに属し、類似するようなものを提示、譲歩案を出すような場面)
►そばはダメですが、うどんなら食べられる。
►今週なら参加できるかもしれない。
「と」「たら」「ば」「なら」の違いって?学生が質問したくなるわけ
そもそもなにゆえ学習者が条件節を難しいと思っているのか。第一には、たとえば英語では”if”一つで担われている条件節が、日本語だと「と」「たら」「ば」「なら」複数の文型に分散されているためだということが考えられます。しかも、4文型の意味や機能の境界線が、あいまいでシームレスで主観的でもあるため、講師側にはルールとしてクリアな説明がしにくい、同じく学習者側にも理解しにくい。でも、もちろん意味があって日本語には条件節が4文型あるのだから、学生はその使い方をちゃんと知りたい!と感じているのだと思います。
英語のifを考察してみる
そこで、己を知るには敵を知れ(敵、ではないのですが…)ということで、英語のIfの意味・機能について簡単ですが調べてみることにしました。すると、とてもおもしろいことがわかりました。それは、Ifの意味は一つではなく、条件節の内容によって分類があるということ。そして、その分類ごとに、日本語のある特定の条件節文型が出現する傾向が少しだけですが見えてきました。
インターネット上の辞書「ケンブリッジ英英辞典」(無料版)でIfを調べると、以下のような定義および例文が出てきました。なお、英語の例文に併記してある日本語訳は①翻訳アプリのDeepLが出してきたものに加えて、②他の条件節でも言えそうである場合、私の翻訳が追加されています。
If: conditions 条件節
We often use if to introduce possible or impossible situations or conditions and their results.
⇒可能または不可能な状況や条件と、その結果を言うとき使う。
The situations or conditions can be real, imagined or uncertain:
⇒その状況や条件には、1)現実、2)想像(非現実)、3)不確定、なものがある。
1)現実条件
I usually make a sandwich to take to work if I have enough time. (real)
①時間に余裕があれば、いつもサンドイッチを作って職場に持っていく。
②時間に余裕があるときは、いつもサンドイッチを作って職場に持っていく。
If you don’t book now, you won’t get good tickets. (real)
①今、予約しないと、いいチケットは取れないよ。
②今、予約しなければ、いいチケットは取れないよ。
③今、予約しないなら、いいチケットは取れないよ。
④今、予約しなかったら、いいチケットは取れないよ。
2)非現実条件(過去仮定)
They’d have got the job done quicker if they’d had more people working on it. (imagined)
①もっと人手があれば、もっと早く仕事が終わったのに。
②もっと人手があったら、もっと早く仕事が終わったのに。
3)不確定条件
Will you bring my glasses down if you go upstairs? (uncertain)
(2階に行くかどうかわからないが)2階に行ったら、私のメガネを持ってきてくれない?
英語のIfを分析して
英語のifを分析してみてわかったこと、以下4点。
①英語のIfにも、大きく3つの意味機能があること。1)現実、2)想像(非現実)、3)不確定。
②しかし、残念ながら、どの場合も文末制限、機能、場面、話し手の心性によって、「と」「ば」「たら」「なら」いずれの条件節も現れる可能性がありそうなこと(one-on-oneで訳語の決定ができないこと)、また英語の3)不確定条件で、今回たまたま提出されている文だと「たら」だけが訳として出ましたが、必ずしも不確定条件=「たら」とは言えません。例えば「5時になったら、出かけない?」という確定条件(地球が回り続けていれば5時には必ずなる)も「たら」が使えます。
③Ifの例文を訳しても訳語の中に「と」の出現はまれなため(今回検証した例文は少ないのですが)、条件節とはいえ、「と」はIfとは切り離して考えたほうがいいかもしれないということ。(おそらく「と」の訳はwhen, wheneverなど?が現れやすい?)
④ひとつだけone-on-oneのルールがあるのは2)非現実条件(過去仮定)の場合。ここでは日本語では「たら」「ば」という条件節だけが現れることはどうやら確かだということです。日本語では過去の終わったことを振り返ってああだこうだいうことを「たられば」で語る、というように、やはり非現実条件、とりわけ過去仮定条件の場合は「たら」「ば」を使う。これは学生にしっかり伝えていいのかなと思います。
まとめ
►日本語の条件節は、英語のIfよりどうやら複雑に枝分かれしている(だから4文型「と」「たら」「ば」「なら」が存在する)。
►英語のIfにも複数の意味・機能があるが、英日one-on-oneで対訳できそうなのは非現実条件の「たら」「ば」のみ。
コトハジメのインスタでは、より簡潔に(簡略化して?!)「と」「たら」「ば」「なら」の違いを学生に説明する方法(First-Aid Kit)を載せています。こちらもどうぞ参考になさってみてください。(⇒コチラ)
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