「Vているところ」と「Vています」って同じ!?
作ってるとこ!
日常での一コマ(1)
子「ねー、ママー、ごはんは?」母「今、作ってるところ!」
日常での一コマ(2)
上司「〇〇君、報告書できた?」部下「今、やってるところです!」
日常での一コマ(3)
彼女「(スマホで)ねえ、今どこ?もう映画始まっちゃうよ!」彼氏「今、向かってるところ!」
このように日常の至る所で「〜ところ」が使われているのがわかりますよね。
上記の場面はそれぞれ「今(ごはん)作ってるよ」「今(報告書)やっています」「今(キミのところへ)向かっているよ」でもいいはずですよね?
でも「今、作ってるところ!」「今、やっているところです!」「今、向かってるところ!」と言いたくなるのはなぜなのか…。この「〜ところ」、なにやらニュアンスがありそうです。
というわけで、今回はこの「〜ところ」を考えていきたいと思います。
「〜ところ」を使った例文
例文トレーニングのチャットでは、cotoの先生方から以下のような例文が挙げられていました。
<例文>
- 元カレがデートしているところに遭遇してしまい、気まずい雰囲気になった。
- 部屋を片付けていたところ、見覚えの無いノートを見つけた。
- 会話例 母:「宿題は?」子:「今やろうと思ってたところ」
- A:「先方から何か連絡ありましたか?」B:「いいえ、再度お伺いしているところです」
- 洋服売り場店員: 「お客様、いかがですか?」客: 「今着ているところなので、少し待ってください」
- 客:「 いつまで待たせるんだ!」店員:「今パンを焼いているところですので、もうしばらくお待ち下さい」
- A:「〇〇(ドラマ名)見てる?」B:「あれ面白いよね!今シーズン3を見てるところ」
- 親:「勉強してるところ悪いんだけど、ちょっと手伝ってもらえない?」子:「いいよー。ちょうど終わったところ!」
先生方からは会話例が多く挙がりました。つまり2人以上の会話の中でよく使われるということだと思います。では、なぜ「〜ところ」は会話でよく使われるのでしょうか?
ここでの「〜ところ」の用法は?
「〜ところ」を辞書(明鏡国語辞典)で調べてみたのですが、用法があるわあるわ…。では、今回の「今やろうとしていたところ!」の「ところ」はどのような用法なのでしょうか。再び辞書で確認し、一部抜粋したものがこちらです。
<連体修飾句を受け、時間的位置を規定する>そのような場面・状況・事態・場合などの意。
(中略)
《「・・・(ようと)するところだ」「・・・ているところだ」「・・・(てしまっ)たところだ」などの形で、現在または現在に近い過去を表す語を伴って》動作が、直前・最中・直後にある意を表す。
例「今手紙を書いているところだ」「書き終わったところでベルが鳴った」
ここで私は気づいてしまったのです。辞書の例文からは先生方が挙げてくださった例文ほどイキイキとした感情や情景が伝わってこないことを。
どうやら「〜ところ」から話し手の感情が強く感じられるのは、会話文での特徴のようです。
「〜ところ」は辞書に説明があるように、動作を行っている「まさにその時」にフォーカスがあたります。話し手の感情を強調する用法はないのですが、「時」にフォーカスされる分、結果として話し手の感情がより生々しく感じられるようなのです。
現在進行形との違いは?
「現在または現在に近い過去を表す語を伴って、動作が直前・最中・直後にある意を表す」というのなら、現在進行形「〜している」と何が違うのでしょうか。
子「ね〜、ママー、ごはんは?」母「今、作っているところ」
なぜ母親は「今、作っているよ」と言わず「今、作っているところ」と言ったのでしょうか?「〜ところ」と、通常の現在進行形「〜している」のニュアンスを前述の例文で比較してみます。
母:「宿題は?」子:「今やろうと思ってるところ💢」(「言われなくてもわかってるわ!うるさいなぁ」という苛立ちが伝わる)
子’:「今やろうと思っているよ」(ただの状況報告)
洋服売り場店員: 「お客様、いかがですか?」試着中の客: 「今着ているところなので、少し待ってください😣」(「だから開けないで!今急いで着ているから!」という気持ちが伝わる)
試着中の客’:「今着ているので、少し待ってください」(ただの状況報告)
彼女「(スマホで)ねえ、今どこ?もう映画始まっちゃうよ!」彼氏「今、向かっているところ🙏」(「だからもう少しだけ待って!ゴメン」という急いでいる様子や申し訳ない気持ちが伝わる)
彼氏’「今、向かってる」(ただの状況報告)
「〜ているところ」は話し手が言外で言いたいこと・気持ち・状況などがイキイキと伝わってきますよね。これに対して現在進行形「〜している」は、「〜ているところ」ほど話し手の気持ちは伝わっては来ず、淡々と状況伝えている感じがします。もちろん聞き手が受ける印象も違いますね。
日本語は高コンテクスト文化を持つ言語だと言われますが、この「~ているところ」はまさにその典型例だと思います。「〜ているところ」を使うことで、「だから、ちょっと待ってよ」と相手に自分の状況や気持ちを察してもらおうとする意図が感じられるからです。
もしかしたら「~ところ」を多用すると、「なんでわかってくれないの?」「言わなくてもわかるじゃない!」というミスコミュニケーションの原因になったりして!?…というのは半分冗談ですが、うーん、日本語のニュアンスって難しいですね。
written by Matsubara
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