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例文トレ#12 本日のお題「ちゃんと」
今月のMs. Hidari’s Eye、例文トレーニングのお題は「ちゃんと」です。これまた一言では英語にしにくい、というか英語だと色々な言い方が考えられる言葉ですね。
「ちゃんとちゃんとの味の素」なんてコピーもありましたね。これって「きちんと」じゃないんですよね〜。今月も講師の皆さんから日本人が普段使っている自然な言い方の文(日本語教育用にコントロールされていない文)を集めました。まずは“鳥の目”で例文を見てみましょう。
「ちゃんと」を使った例文
- ちゃんと座りなさい。
- ちゃんとしなさい。
- ちゃんと目覚まし、かけた?
- ちゃんと鍵持った?
- 忘れ物ない?ちゃんと準備した?
- ちゃんとご飯食べている?野菜もちゃんと食べてね。(親が一人暮らしを始めた子どもに)
- そろそろ結婚のこと、親にちゃんと話さなきゃ。
- 寝ながらスマホ見たりしないで、夜はちゃんと寝たほうがいいよ
- あの業者はちゃんとした業者だし、大丈夫じゃない?
- ある程度ちゃんとした格好しないと、入り口で断られるよ(レストラン等で)
- あの子、ほんと、ちゃんとしてるわぁ〜すごいな・・・
- 日本の電車ってちゃんと時間通りに来るからすごいよね。
- いつもはてきとうな料理ばっかりだけど、今日はちゃんと作った!
- 毎日コツコツ勉強したら、ちゃんと結果がついてくるんだから、がんばって。
- 教材は番号通りにちゃんと入れてください。(講師室で)
- ちゃんとフルセンテンスでお願いします。(日本語のクラスで)
- ちゃんと窓を閉めておかないから、濡れちゃった…
- ああ、いつの間にかソファで寝落ちしてた。ちゃんとベッドで寝なきゃ。
- 洗濯マーク、ちゃんと見ないで洗ってしまったため、縮んでしまった・・・ガーン。
- 娘:やばっ。明日提出のプリントがないっ!ちゃんとやったのに〜
母:え〜、またぁ?机の上、ちゃんと見た?いつもちゃんと片付けないからそうなるのよー
・・・ガサゴソガサゴソ・・・
娘:あったー!
母:あーもう、ちゃんとしてちょうだい!!!
『会話作文英語表現辞典』より
語彙の定義に関して考察する方法はいろいろありますが、外国人への日本語教育という観点に立って考えた場合、私がよく参考にするのは他の言語(ここでは英語)に何と訳されているかという視点です。
今日はここで、私が愛用しているその手の辞書『会話作文英語表現辞典』*を見てみましょう。そこでは「ちゃんと」が以下3つの意味に分けてありました。
①「確かに(確実に)」ex.)ちゃんと準備した。手紙はちゃんと届いた?
②「きちんと」ex.)へやをちゃんと片づける。ちゃんと座る。
③「立派な」ex.)ちゃんとした職業、ちゃんとした病院
これに習えば、「きちんと」は「ちゃんと」という語彙の一部の意味を担っているということがわかります。
「ちゃんと」についてちゃんと考えてみた
いやあ、みなさんの例文の「ちゃんと」色々なニュアンスがありますね。以上をもとに、今度は“虫の目”で見てみます。みなさんの文作から気づいた考察を付け加えると以下のようなことが言えるのではないでしょうか。
ちゃんと
「ちゃんと」の使用場面は、例文の前半にたくさん見られるように子どものしつけであることが多いです。親が言う「ちゃんとしなさい」は世間体を気にしたものなのでしょう。話者がこの語彙を使う背景には、「~べき」論、つまり社会的・観念的模範に見合った行動や態度を「しなければいけない」という考え方がありそうです。
きちんと
その中でも「きちんと」を使えば、その「~べき」状態が目に見えるもの(質量のあるもの)、「部屋をきちんと片づける」→「あるべきものをあるべきところに」、「きちんと座る」→「まっすぐな姿勢で」、「日本の電車はきちんと時間通りに来る」→「定刻通り、正確に」「きちんとした格好」なら「ジャケットとネクタイで」といった具合に、状態が少し具体的に想像できますね。
しっかり
「しっかり」は重量や強度を形容する副詞であるように感じますが、いかがでしょうか。「登山に行くならしっかりとした格好でね」→「防寒対策バッチリのイメージ」、「しっかり者」→「頼れる人」、「しっかり準備」→「ぬかりなく」、「しっかりとしたつくりの机」→「丈夫で立派な机」。「しっかり」には、ぬかりなくやった上での信頼感と安心感が感じられます。
「きちんと」も「しっかり」も「ちゃんと」で済まそうと思えば済ませてしまえます。「ちゃんと」ってざっくりとした感じの言葉なんですよね。それゆえ、けっこう都合よく使ってしまいがち。「みなまで言わせるな、わかるよね、私の言いたいこと」といった感じで、ハイコンテクストで日本語らしい表現です。そもそも「ちゃんと」の中身は人・家庭・国によって違うもの。中身をちゃんと(具体的に)言ったほうがミスコミュニケーションは避けられそうです。
<参考>
『会話作文英語表現辞典』*(朝日出版社 ドナルド・キーン/羽鳥博愛 監修)
通訳者が必ず持つ(と言われている)辞書の一つで、私が昔々、同時通訳者を養成する学校でアルバイトをしていたときに教えてもらいました。これがあると、英語話者の語彙に対するとらえ方がわかるし、語彙をどうやって説明するとわかってくれるのか、という視点も培われます。大変重宝な辞書ですのでオススメです。
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