例トレ#7「〜たところ」はどんな場面でどう使うの?
本日の例文トレーニングのお題は「〜た ところ」です。
「たところ」を学習者に紹介すると、「これって『たばかり』と言い換えられますか?」「『たばかり』と『たところ』はどう違いますか??」とよく聞かれます。どちらも「〜てからすぐあと」という意味がありますが、まったく同じではないですね。
「たばかり」は、当該行為後の実時間の短さだけではなく、主観的に話者が長いと感じれば使える(例:去年結婚したばかり、買ったばかりのワンピース)文型である、というのがまあ日本語教師的定番ではあります。なので、「たばかり」のほうが万能というイメージがありますね。
じゃあ、いったい「たところ」をどんな場面でどう使うの???きっと「たところ」がもっともふさわしいという場面もあるはず!今日は「たところ」にフォーカスしてみたいと思います。
「たところ」を使った会話例
① 場面:駅で友達と待ち合わせ中、5分遅れで到着するもまだ友達は来ていない。と、そこに2分遅れで友達がやってきた・・・
友達:ごめ~ん!おそくなっちゃって。
私:大丈夫だよ。私も今ちょうど着いたところだから。
② 場面:遠く離れて暮らしている母と電話で・・・
母:今日、ワクチン3回目、打ってきた。
私:早いね。私の住んでるところなんて、やっと2回目が終わったところだよ~。
③場面:蕎麦屋の出前
客:すみません、注文したざるそば2つ、まだ来ないんですが…
蕎麦屋:すみません!今出たところです!!
④場面:ただいま7:00pm 自宅にて
息子:ママ、ご飯まだぁ?
私:ちょっと待ってよ。さっき仕事から帰ってきたところなんだから。
「たところ」をポライトネスの観点から分析してみた!
③の「そば屋の出前」。これって日本語母語話者だと99.9%(数字的根拠はないですが)「たところ」が出ませんか。お決まりのフレーズだからという刷り込みもあるかもしれませんが。でも実時間が短かければ「たばかり」「たところ」どちらも使えるとは言い難い、なぜでしょう。
「たところ」をpolitenessの観点から見てみましょう。
この場面でお客さんに対して「ばかり」を使うと不自然であるばかりか、ちょっと失礼な感じがしませんか。遅いと文句を言っている客に、「察してくださいよ、今出たばかりですよ」という感じになります。しかも、ここで「ばかり」を使うとより待ち時間がさらに長く感じるような・・・。この場面で「たばかり」を使うと、ちょっと無責任感が出てしまいます。
他方、「たところ」だと単なる状況描写、受注→制作→発送→お届けというフェーズの「発送」段階を終わってます!と伝えています。これだとさらなる待ち時間の長さについては相手の判断や感覚に委ねられているような気がしませんか。
私が思うには、お客さんへの言い訳とはいえ「たばかり」を使うのはちょっと主観がすぎる、だから礼節をもって「たところ」を使うという説を考えたのですが、皆さんはどう思いますか?
同様に、①のように待ち合わせに遅れてきて詫びる人にも「ところ」が出現しやすいのも、さもありなん?(例:わたしも今来たところだよ!)他方、④のように「今帰ったところ」のようなものだと「ばかり」で入れ替えてもさほど(あるいはまったく)違和感がない。これが可能なのは、主観でモノが言える相手や、場面(独り言的なボヤキも含む)からではないでしょうか。
「たところ」はいつ使う?
しかしながら、この「主観」という説明。学習者にするときは「主観」の感覚も人によって違ったりするので、ちょっと危険ですね〜。それを避けるために私が最近やっていることを紹介します。
それは、「たばかり」を説明するのではなく、「たところ」をいつ使うかという説明をすること!
「たところ」は、いくつかの段階やフェーズのある文脈のもので、私は今ちょうどこのフェーズに来たところ!という、現在位置の強調表現、時間的にすぐ後だとわかる例文を与えて気づかせるやり方です。
例えば、②のワクチンの話題(人によってはセンシティブな話題なので注意は必要ですが・・・)。4回目がすでに始まっている国もあるようですが、日本はまだ3回目が始まったところ、私はつい最近2回目が昨日終わったところですetc…。
「たところ」は、時をあらわす「今、さっき、ちょうど」などの副詞と呼応しやすいので、一緒に導入していくと良いですね。
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