可能動詞と「Vことができる」の違いって何?

可能動詞と「Vことができる」の違いって何?

ある講師からこんな相談を受けました。

この講師、学習者から『「食べられる」と「食べることができる」の違いはなんでしょうか』という質問を受けたそうです。

この2つ、学習者から違いの説明を求められたとき、皆さんなら、どのように答えますか。

主要テキストではどのように扱われているのか。

可能動詞の授業って楽しいですよね。学習者間のコミュニケーションを深めることができる活動がいろいろあります。学習者同士、今まで知らなかったクラスメイトの能力や、学習者の国の話ができ、色々な発見をすることができます。自分のことを知ってもらえたという喜びも大きいものです。

わたしたちの学校でメインテキストとして使用している『げんき』では第13課で可能動詞(Potential Verbs) がでてきますが、「Vことができる」は学習項目としては取り上げていません(簡単な説明がちょっとだけあります)ので、あまり問題になることがありません。

ただ、過去に『みんなの日本語』などで勉強したことがある人や、JLPTを受ける人は「あれ?」と思うことがあるようです。

たしかに、JLPTのN4では可能動詞も「Vことができる」も出てきます。ですから、どちらも知っておいたほうがいい文型なのかもしれません。ちなみに、『みんなの日本語』では第18課で「ことができます」、第27課で可能動詞がでてきます。

文型シラバスのテキストだと、辞書形を学習したから、その練習で「V辞書形+ことができる」を導入したいんだろうな。便宜上、作り方の練習に重点を置くために出てくるのかな。だから、『みんなの日本語』よりコミュニカティブな『げんき』には出てこないのかな。

というのが実態なのかなと・・・。ただ、これはあくまでの教師側の都合で、学習者には関係のないことですね。

 

可能動詞と「Vことができる」の違いは何?

初級の段階であれば、意味の上ではどちらも同じで、とくに区別しないと言っても大丈夫かと思いますが、やはり2つのパターンがあるということは何かしらの違いがあるということです。

もし、学習者に違いはなにかと聞かれたら、

ことができる・・・書き言葉的(硬い表現、フォーマルに聞こえる)
可能動詞・・・・・話し言葉的(話すときは短い方が言いやすい)

と答えればいいのではないでしょうか。一緒に例を挙げるのもお忘れなく!

 

可能動詞は話し言葉で使われる

子どもは「ママ、ピーマン食べられたよ」とは言っても、「ピーマン、食べることができたよ」とは言いません。

ピアノの練習をしていて、苦戦していた難しいフレーズができるようになった時は「できた!弾けた!!」と言います。「弾くことができた!」とは言いません。

 

状況可能の場合は「ことができる」を使う

「こちらのスペースは7時まで使うことができます」「ラウンジでは軽いお食事も楽しむことができます」

「ことができる」を使うと、少し響きがフォーマルになると思いませんか。これは「ことができる」は個人的な能力(ピーマンが食べられる)の意味より、状況可能、許可の意味で出現することが多いからです。主語が無生物の場合も「ことができる」が多いように思います。

 

また、次の例文を見てください。

A「立てなくなってしまった」
B「立つことができなくなってしまった」

Aの場合はその理由が「酔っぱらった」とか「疲れた」からだけかもしれませんが、Bは事故の状況などを想像してしまいます。よりシリアスな感じがするのは、「ことができる」の硬さゆえでしょう。

 

さらに、

「今日は仕事が立て込んでいて、全部のメールを細部まできちんと読んで(○返信することができなかった/△返信できなかった)」

のように、否定が「全部のメールを細部まできちんと読んで返信する」という全体にかかる場合、どちらかと言うと「ことができる」を使う傾向はあるかと思います。長さは文の硬さ・フォーマルさにも通じます。

 

日本語教師として知っておきたいプラスαの知識

評価を表す可能動詞

可能動詞は評価を表すときにも使います。

「なんてできた人だ」「あの部長は話せる人だ」などです。

これらは「ことができる」では言い換えることができません。初級レベルで紹介することはありませんが、念のため。

「ら抜きことば」

「ら抜き言葉」についても学習者から質問されることがよくあります。こちらに関するコトハジメの記事がありますので、あわせてご覧ください。『ら抜き言葉ってダメですか?

 

『可能動詞』という言い方は正しくない!?

今回、私は「可能動詞」という表現を使いました。この「可能動詞」という表現に「むむっ」と思われた方もいるでしょう。私たちが学んできた国語文法では「られる」は助動詞で可能・受身・尊敬・自発などをあらわします。そして、五段活用(1グループ、U-verbs)の動詞を下一段活用に変化させたもの「飲む→飲める」を可能動詞としています。

ただ、日本語教育ではそのような分け方をすると学習者は混乱します。そこで、日本語を母語としない人が日本語を学ぶために、それぞれの学校やテキストが学習者に理解しやすいように工夫しています。

日本語教育においては、「れる・られる」だけをはずして可能の助動詞という捉え方はせず、「飲める」「食べられる」「できる」「来られる」を一つの動詞の可能形としています。

ただ、「可能形」は、「飲める」が「飲めます(ます形)」「飲めて(て形)」「飲めない(ない形)」などに変化します。そうすると、「可能形のます形」のようなおかしな呼び方になってしまいます。このような事情から、便宜上「可能動詞」を使っています。他にも、学校・テキストによって可能表現、可能態、英語話者にはPotential Verbsなどの言い方もあります。

 

 

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