切り分ける(break down)と、見えてくる! <シンプルな学習方法のススメ>

切り分ける(break down)と、見えてくる!

<シンプルな学習方法のススメ>

はじめに

みなさんの担当している学生さんの中で、極端に覚えられない、読めない、聞けない、話せない などいろんな「できない」で困っている方はいらっしゃいませんか。人にはそれぞれ生来の能力(ポテンシャル)というものがあり、その濃淡や高低はある程度仕方がないことなのかもしれません…が、幸運なことに、あるコツをつかみさえすれば、「できない」を少しでも「できる」に変えられる方法があると私は考えています。それは何か、さして目新しいことではないかもしれませんが、すべてのものを意味ある最小単位まで「切り分けて(breakdown)」覚えるというやり方です。

今回は以下3つのケースについて、個別に「切り分け」の術(?)を使って、具体的な学習法を提示していきます。

  1. 語彙がおぼえられない
  2. 漢字が覚えられない
  3. 文が読めない

①語彙がおぼえられない

語彙はそれ自体が言語学習の最小単位、文脈があれば単語を言うだけて通じてしまう、それくらいパワフルな道具です。そういった意味で、語彙が増えることは非常に大きな力となります。
1)どうやって語彙を増やせるか(覚えられるか)
まずゼロを1にするにはどうすればいいのでしょうか。それには絵カードなど視覚的な情報、音と絵を一致させて口からスムーズに出るように何度も繰り返すという練習が大事です。しかし、その段階であっても、切り分けというアイデアが使えることもあります。
例えば曜日を覚えるとき。月曜日を「月」「曜日」と分けて導入するやり方です。「曜日」にはdayという意味機能があり、その頭に曜日を峻別する記号(月・火・水…)がつくということを教えるのです。

語彙の成り立ちには、こういう一定のルールがあることを知っておくと、語彙学習に一つの光がさすものです。曜日に関していうと、まずは月曜日・火曜日・水曜日ととりあえず切り分けをせずに導入し、あとで実は…と「月」と「曜日」に語彙の成り立ちが分かれることを示したほうが効果的です。初めに長いな、難しいなと思わせておいて覚えるヒントを与えるほうが効果が上がります。

漢字圏の学習者であれば、漢字で書くと意味の切れ目と音の切れ目がすぐにわかるので漢字は語彙学習には極めて便利なツールです。そういった意味でも、非漢字圏の学習者も漢字を並行して学習していくのは、「急がば回れ」、決して時間の無駄ではなく最終的には語彙学習への労力や負担を減らすので大切なことです。

初級の段階で以下のよう語彙パーツが、切り分け学習法に寄与します。
~屋、~館、~場といった場所のことば:パン屋、花屋、美術館、映画館、駐車場、野球場
朝・昼・晩など、ときのことば:昼ごはん、昼休み、昼寝
残念なのは、和語由来の動詞は、この切り分けというアイデアが使えず、とにかく覚えるしかないことでしょうか。

教える側が意識すべきは、その日に導入する語彙を並べて、切り分けができそうな語彙、そうでない語彙をしっかり見極めて、強弱をつけておしえることです。

②漢字が覚えられない

漢字の指導方法については以前書いた記事があります。記憶のフックをつくるための工夫がいくつかあります。ぜひこちらをご参照ください。

「非漢字圏の学習者へ、漢字をどう教えよう?」https://cotohajime.net/kanji-learning/

③文が読めない

文章ではなくあえて「文」が読めないとしたのは、いうまでもなく「文」が「文章」ひいては記事などのまとまった読み物に至る最小単位だからです。「文」の理解には、まずその構成要素を大きく「語彙」「助詞」「文型」に切り分けられる発想が必要です。

1)虫の目と鳥の目を同時に持つ

語彙や助詞は、虫の目(絞ってみる視座)で見ます。一方、文型は鳥の目(引いてみる視座)でしか見えません。そして大事なのは、その両方の目を共時的に使わなければならないことです。共時性を可能にするのは、文型を覚えるときに、その文型の意味機能を理解することです。また、接続する活用の形や付属する助詞についても頭に叩き込んでおく必要があります。そのようなことを、まずは講師側がその指導のなかで、意識的に触れていくことが大切でしょう。

2)文を読むのが苦手な人がつきあたること

先ほどの文型を見つける視点に関わるのですが、文を読めない人に共通していえるのは、
・名詞修飾節を読み解けない
・語彙を語彙としてでなくコロケーションとしてインプットしていない
・日本語の統語構造(膠着語)を理解していない
以上の3つが大きな要素としてあげられます。

例えば英語話者に多いのですが、彼らは前から順売に語彙をひろって読み、それが名詞修飾節という大きなかたまりであることを見逃すことが多々あります。それで、どれが主語(主題)で、どれが述部かを見失い、迷路にはまり抜け出せなくなるようです。

例:学生のころ、何度も往復した、アスファルトのあちこちがひび割れた生活道路を歩きながら、私はポケットの奥で冷え切った鍵の束を指先で、もてあそんでいた。

このような長い文のおいて、「~ながら」という文型の前件・後件は主語が同じであるという知識、「~を歩く」「~を もてあそぶ」という助詞と動詞との構造(コロケーション)の理解、日本語の統語構造(「私は ~ていた」が大事な情報)をつかめるかが大事になってきます。

まとめ

「切り分け」の最大の効用は、学習者の心理的な負担を減らすことにあります。「覚えられない」「読めない」という壁は、多くの場合、対象が大きすぎて全体像がつかめないことから生まれます。しかし、意味ある最小単位まで切り分けてしまえば、一つひとつのブロックは決して難しくありません。小さなブロックを一つずつ積み上げていく——その積み重ねは、誰にでもできることです。教師の役割は、その「切り分け方」を学習者に気づかせてあげることではないでしょうか。

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