初級文法「~たり、~たり」は難易度の高い文型なのか?

「~たり、~たり」は難易度の高い文型なのか?

はじめに

「たり、たり」は日本語では日常的に使用頻度の高い文型の一つです。

例)
①休みの日は、たいていジムに行ったり、散歩したり、のんびりすごすことが多い。

A:日本のお正月って何するの?
B:おせちを食べたり、近くの神社に初詣に行ったり、テレビをみたり…かなあ。
③今日は子どもの行事で学校とうちを行ったり来たり忙しかった。

上記の例文にもあるように、「たり、たり」の機能は、ある時間や限定的な状況・イベントで行う動作や行動から典型的なものを列挙するのが一つ。また、そこから派生して、やることの多さからくるせわしなさを表現するときなどにももうってつけの文型で、学習者がこれを理解し、使いこなすと、会話はより生き生きと自然に聞こえます。

が、学習者にとっては「たり、たり」は、学生にとってわかりにくい文型のひとつでもあります。それはどうしてなのでしょうか。また理解したとて自然に使いこなすのが難しい文法のようにも感じます。今回は、そういった学習者が難しく感じるポイントを探ることで、講師にとっては適切な導入時の注意点を探っていきたいと思います。また適切な例文が何かについても見つけていきたいと思います。

難しいところ(学習者の混乱の原因)

学習者のスムーズな理解を妨げるものとしては以下の3つが考えられると思います。

1)既習文型「~て、~て」との違いがわからない。

「げんき」では6課の「て形」の活用の導入と同時に、「て形」を使用した文型の一つとして「て形接続」が導入されます。この文型との違いがわからず混乱する学生は少なくないです。混乱の原因は母語干渉が多いのかなと思っています。というのも、例えば英語でいうと、どちらも「AND」でまかなえてしまうからだと思われます。

今日はジムに行って散歩するつもりだ。Today I’m going to the gym and then plan to take a walk.
休みの日はジムに行ったり、散歩したりする。On my days off, I go to the gym and take a walk.

日本語では、「~て、~て」と「~たり、~たり」には大きな違いがあります。
それは「~て、~て」は時間軸に沿って行う行動、「~たり、~たり」は時間軸を無視して、ある時間の中の行動をただ列挙するという違いです。これは、学生からもよく聞かれる質問なので学生向けに簡単に説明するときには、以下のようにするとよいでしょう。

「~て、~て」
私は毎朝6時に起きて、シャワーをあびて、7時半に会社に行きます。
※具体的な時間を上げ、時間軸にそって順番にその行動を行うことを明らかにします。

「~たり、~たり」
私は朝からジョギングをしたり、庭仕事をしたり、podcastを聞いたりします。
※時間軸は関係なく、朝の時間にすることを列挙します。行動の前後や重要性なども問わずフラット、ただの例示です。

また、英語がわかる人には各文型の機能を理解する英語語彙として、「~て、~て」timeline、「~たり、~たり」listingというと理解しやすい場合があります。お試しください。必ず聞かれる既習文型との違いについて、以上のように適切に回答できれば学習者は理解文型から使用文型にまで引き上げることができます。

2)「た形」を「過去形」と理解することで混乱する

「た形」は活用形の一つであり、「た形」=「過去形」ではありません。もちろん、casual speech styleや書き言葉において「過去」をいう時制を反映するものではあります。が、それがすべての「た形」の機能ではありません。「た形」は文型を構成する要素の一つとして用いられることが中級以上ではとくに増えてきます。初級のこの段階で「た形」=「過去形」という考え方を払しょくしておく必要があります。(例えば初級でも「~たほうがいい」「~たらどうですか」「~たことがある」など必ずしも時制とは関係のない文型が出てきます)

「~たり、~たり」は分解するとta-form+り、ta-form+り、であり、「列挙・例示」の機能として、活用形の「た形」を文型構成要素として使っているに過ぎないことをまずは理解させる必要があります。そして「~たり、~たり」の時制は必ず文末に現れることを早い時点で出すといいです。
Q 昨日の晩、何をしましたか。
A 昨日の晩、うちで宿題をしたり、テレビを見たりしました。
Q 今晩、何をしますか。
A 今晩、うちで宿題をしたり、テレビを見たりします。

3)使用場面がわかりにくい

「~たり、~たり」の機能は「例示」である、と言われても学習者にはピンと来ないときが多いです。その説明だけで使用場面を想定できる人は稀です。なので、導入時に適切な場面と例文を考えることが学習者の理解を助けます。「例示」をすべき、したくなる、しなければならない場面はどんなときでしょうか。それは当たりまえですが、列挙するいとまがない、たくさんの例がありすべて全部挙げるのは(時間的にも知識などの能力的にも)困難だと感じるものがよいです。

たとえば一番いいのはイベントごとです。例えば、クリスマス、お正月、結婚式など。しかし、ここには罠があって、それは語彙の難しさ。イベント系語彙に文化依存の語彙が多く、例文が理解しづらいことが多いです。日本のお正月を説明しようとすると「おせち」「初詣」「年賀状」などの語彙から説明しないといけません。他の国の文化的行事や宗教的行事も同じですよね。だから、導入や練習にはあまり向かないことが多いです。

大事なのは、夏休み・冬休み・ゴールデンウィークなどの長めの休みか、旅行などのイベント、一般的かつ普遍的なイベントにすること。典型的で、語彙の難易度が低く、文化差が小さいジャンルが良さそうです。

また典型的な週末を説明するのもいいかと思います。週末にはおそらくみなさんはいろいろなことをするかと思うのですが、その中でも典型的な週末の行動について話してもらうのです。まずは講師が例を出すといいでしょう。

先週末、ディズニーランドに行きました。子どもの誕生日でしたから。→特別であったことを伝える。
でも、たいてい週末は、うちでごろごろしたり、本を読んだり、散歩したりします。

まとめ

「たり、たり」は難しい文型か、と問われたら、学習者からは「はい」でしょう。基本文型としては使用頻度も高く、必須ですが、概念的難易度は中級寄りかと思われます。
理由は、学習者が理解時に複数の認知プロセスに同時アクセスしなければならないからです。

(1)列挙の概念理解(網羅的でなくてよい)

(2)時間軸を外すという発想

(3)「た形」を中立的な形として捉えるメタ的理解

(4)「全部言わない」=例示 の文化的・語用的理解

これらが重なるため、初級後半で導入されるわりに、自然運用までに時間がかかる文型と言えます。

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