N3文型:「~ことは~が」はどう使う?

日本語が「話せないことはない」と「話せることは話せる」は同じか?

はじめに

N3文型を教える準備をしていたときのこと。

「~ないことはない」は【ない】✖【ない】だから「ある」、つまり肯定。だから「日本語が話せないことはない」とはつまり「話せる」って説明すればいいか。と思ったあとすぐ、じゃあ「話せることは話せる」とは何が違うんだ?!というおそろしい疑問が自分の中に沸いてきました。

例えば読解の中で「できないことはない」という一文が出てくれば、つまり「できる」ってことねと、一言で片づけて次へ進むことができるでしょう。しかし、学生がこの文型を自分の意志をもって使おうとするとき、どんな場面で文脈で、どんな気持ちでニュアンスで、これを言うのかを考えると、【ない】✖【ない】=「ある」というロジックだけで、この文型を乱暴に説明&教えることはできません。

というわけで、場面と例文を出しながら、検証してみることにしました。

検証ポイント

★「論点の広がり」

場面:服屋で試着中

前提:フリーサイズと書いてあるが、サイズがどうも自分には合わなそう(小さそう)に見える、サイズを確認したくて試着室に入る。


店員:「サイズ、大丈夫でしたか?」

客:

①「入ることは入るんですが…」の場合

a)「入ることは入るんですが、動きにくいですね。」

→ サイズはクリアしたけど、別の問題がある(履き心地・フィット感など)

b)「入ることは入るんですが、デザインが思ったよりタイトですね。」

→ サイズの問題ではなく、デザインの印象の話にシフトしている

②「入らないことはないんですが…」の場合

 a)「入らないことはないんですが、かなりギリギリですね。」

→ サイズの話にフォーカスし続けている(論点がサイズに固定)

b)「入らないことはないんですが、ファスナーを閉めるのが大変でした。」

→ 「入る or 入らない」の問題として話している(サイズのギリギリ感)

①と②の違いについてまとめると、

「入ることは入る」は、話題がサイズ以外のことにも広がる余地があり、「入らないことはない」はサイズの話にフォーカスしたまま、と言えそうな感じです。

  • 学生に教えるときは、「どういう流れの会話にしたいか?」で使い分けるよう指導することが鍵。

✔ サイズの話を超えて、履き心地やデザインにも話を広げたい →「入ることは入るんですが…」

✔ サイズがギリギリかどうかに集中して話したい →「入らないことはないんですが…」

  • 違いは何?と聞かれたらここにフォーカス

✔ 「肯定ことは肯定(入ることは入る)」 は、ある事実(入る)を認めつつも、別の視点や問題に話を広げる余地がある。

✔ 「否定ことはない(入らないことはない)」 は、あくまでその事実(サイズ的に入るか入らないか)にフォーカスしたまま。

★「前件と後件の距離感・関係」

次にちょっと他の角度から例文を比べてみましょう。

検証例Ⅰ

①おいしいことはおいしいが 量が少ない。
②おいしくないことはないが 量が少ない。
①と②だと、①のほうがより自然で、②は非文とは言えないまでもおさまりがわるい気がしますが、みなさんはどうですか。

ではどうして②には違和感を感じるのでしょうか。

後件「量が少ない」は、話者の評価、しかも否定的な評価です。否定的な意見や不満などを述べる場合前件ではexcuseを入れ、円滑な人間関係の保持したいという心理が働きます。強い意見を言う場合は、クッションのような役割。「いい人はいい人なんだけど、協調性に欠けるよね」「楽しかったことは楽しかったけど、疲れた」など。つまり元来ポジティブなニュアンスのある【肯定】✖【肯定】のほうが、若干ネガティブなニュアンスを含む【ない】✖【ない】より、後件に厳しい意見がくるときはなおさら適切なんだと思います。

もう一つ②は論点が一つ(前件が「味」に関することなら、後件も「味」に関することであるべき)という前述のルールから外れているのも変に感じる理由だと思われます。なので、「おいしくないことはないが、(味に)特別感がない」のような、味という同一の論点の文なら違和感がないのではないでしょうか。

検証例Ⅱ

①おいしいことはおいしいが、次はない。
②おいしくないことはないが、次はない。
この場合だと、私は②が自然に感じるのですが、これはどう説明できるでしょうか。

それは①の前件(おいしい、とは言っている。肯定の度合いが高め)が、後件のその結論(次はない。二回目はない、他へ行く)を出すには論理が飛躍しすぎているということが考えられます。「おいしいことはおいしいが、この値段なら、他のところに行くかな」というように、もう一つ論点を挙げて(この場合は「値段」についての言及)があれば、可能な文になるでしょう。「【肯定】ことは【肯定】」は話を広げる余地があるが、その広げ方が不十分だと後件との不和や違和感が生まれやすいのかもしれません。

まとめ

「【肯定】ことは【肯定】」の特徴および注意点

  • ある論点をいったん肯定した上で、別の問題に話を展開できる。
  • 前件は「言い訳」のニュアンスが入りやすい(後件の強めの批評を緩和する)。
  • どちらかというと肯定的なニュアンスである。
  • 結論のためのクッション(エクスキューズ)にはなりえるが、理由にはなりえない。

<参考>

cotoの先生方からも「【肯定】ことは【肯定】が…」の例文を募ってみました。例文を横断してみると、どれも論点が広がっていたり、あるいはわざとずらしたり?しているのがわかるかと思います。文によっては、結論のためのクッション機能があることもわかりますし、結論に結び付けるには理由を挟んでいるのも見てとれます。

夫:カレー用のお肉買った?
私:買ったことは買ったけど、300gで足りるかな?

夫:早めにいきたいから、8:30に出られる?
私:出られることは出られるけど、ホントはもう一回洗濯機を回したい。

あのレストラン、美味しいことは美味しいけど、量が少ないのよね。

弟:ただいま〜。お姉ちゃん、お母さん、いる?
姉:いることはいるけど、風邪ひいて寝てるよ。

A:(部屋でギターをみつけて)
すごーい!ギター弾けるんだ!
B:弾けることは弾けるけど…下手だよ。

彼はJLPTのN1に合格したことはしたんだけど、会話の上達がまだまだ必要です。

A:Bさん、ピアノ弾けますよね。
B:弾けることは弾けますが、バイエルのレベルですよ。

ドラえもん:え?テストの答えが見える眼鏡?う〜ん、あることはあるけど……って、のび太くん!それカンニングだよ!ダメダメ!

子:ねぇ、うちって電動ドリルある?
母:あるにはあるけど、ずっと使ってないから動くか分からないよ。

耳鼻科でもらった花粉症の薬、よく効くことは効くんだけど、眠気が強くて困る。

今度配属された新入社員、優秀なことは優秀なんだけど、融通がきかないんだよね。

英語の勉強、続けることは続けるけど‥学校を変えようか悩んでいるんだ。

この商品、素晴らしいことは素晴らしいのですが、予算に合っておりません。他に安価なものはないでしょうか。

A: この間お願いしたやつ、どんな感じ?
B: んー、できたことはできたんだけど…ちょっと見てみてくれる?

仕事があることはあるんですが、どれもギャラが安いんですよね…。

読んだことは読んだんだけど、内容をよく覚えていない。

言ったことは言ったけど、(相手が)ちゃんとわかってくれたかはわからない。

おもしろいことはおもしろかったが、聞いていたほどではなかった。

彼って、優しいことは優しいんだけど…なんかそれだけでつまんないんだよね。やっぱ女性はギャップに惹かれるじゃん?

A:会社の飲み会、行く?
B:うん、行くことは行くけど、顔だけ出して帰ると思う。

A:携帯新しくした?
B:うん、新しいからいろいろな機能があることはあるけど、前のほうが使いやすかったかも。

子:ねぇ、お金借りれる?
母:え?なんで?貸せるには貸せるけど、この間お小遣い渡したよね?

友人:ねぇねぇ、渋谷から恵比寿って歩けるかなぁ?
私:歩けるには歩けるけど、結構距離あるよ。電車に乗った方が早いよ。

 

 

 

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