日本語の教え方:中級以上こそ基礎練習を!

中級以上こそ基礎練習を(日本語中級話者以上を教えるときに注意しておきたいこと)

日本語の中級レベルとは

日本語は中級に入ってからが道が長い、停滞が起こりやすい言語だと言われています。それは、語彙の多さ、文法の機能の細分化、接続の制限の多さ、など気を付けなければいけないことが急に増えるのが一因とも言えるでしょう。

そういう現実にも関わらず、中級以上になると講義式の授業になることがほとんどです。漢字や語彙などに注力しなければならず、その過程でアウトプット練習がおろそかになりやすい。また試験対策など知識量や理解度を測るチャレンジをするので、会話力の向上はないがしろにされがちです。

学生からのリクエストで気が付いた

講師側も、このような初級とは明らかに異なった授業の組み立てに異論を挟まなくなるのですが、あるとき学生にこう言われました。「私は、活用が弱いんです…」、だから「新出語彙があるたびに、実は活用の練習もしておきたいんです」と。

たしかに、中級以降の文型は、活用形との結びつきが強いもの、活用形とのセットで覚えるべきものがたくさんあります。能力試験にしても、出題されるべくは結局そういう所です(言語知識が問われている)。

練習のさせ方

ということで、中級以上の学生のクラスでも(こそ?!)、活用練習を含むパターンプラクティスをできるだけ取り入れるべきではないか。そういう思いから、以下、中級のクラス内でも扱ったほうがいいのではないか練習リストを作ってみました。中級ともなると、1回でこなさなければいけない指導項目のボリュームがありすぎて、時間的に厳しいこともあるかと思いますが、講師側の意識さえあれば、少しづつでもカリキュラムの中に潜り込ませるチャンスがあるのではないかと思っています。

①語彙チェック

今日授業中に使う予定の語彙については、音読のリピートだけでもいいので面倒くさがらずにやってみましょう(「本日の語彙」として、学習者の意識の遡上にあげることが大事です!)。

また、新出語彙を導入する場合は、漢字の意味から語彙の意味を推測させるなど、漢字と語彙の親密度について認識を深くするよう促します(とくに非・漢字圏の学生)。

動詞に関しては、活用練習も行うこと、とりわけ「本日の文型」で使う活用形にフォーカスして言う練習をさせておくのも大事です。

②コロケーションの確認

文型も語彙も、その前後にどんな性質の語彙(自・他動詞、意思・無意志動詞など)がくるか、また丁寧度やかたさ(話し言葉なのか書き言葉なのか)と同時に、使う状況や文脈、話し手・聞き手の立場や正確に釣り合うものなのかどうかも意識させることが非常に大切です。中級の肝はここだと言っても過言ではないです。初級では誰がどのように使っても、機能という面では誤解されようのない表現にフォーカスがあるものが多い(言語学習過程において、最低限必要なものから学ぶというのは現代では当然のことだから)ですが、中級以上はそこに大事なニュアンスという調味料が加わってきます。spicyに言いたいのかsweetに言いたいのか、dryで攻めるか、話者が選択できるのです。

③復唱練習の大切さ

教師のあとに続いてリピート(単純復唱)する、声を出す練習は、初級では必須の練習方法ですが、中級以上になるとなかなかやるチャンスがないし、その意義や必要性も忘れ去られがちです。しかし、中級以上でもこの練習が持つ意味を思い出していきたいと私は思います。それはこの練習こそが、流暢さ、高低、適切なポーズの置き方などより自然に「話す」ことを目指す練習だからです。

美しい発音、聞きやすい発音、つまり正しい音とモーラで話すことは、日本語のネイティブスピーカー(どの年齢でも、性別でも、関係なく)に誤解をされないためには必要です。定期的に意識したり、直していかないと、間違いが化石化してからではなかなか直せないので数分でいいので必ず入れていきたい練習方法です(ただし注意すべきは「深追い禁止」という点。発音はすぐには直せません。母語干渉の問題もある。しつこく言い直しをさせることは学生の心理的負担になります。講師にとって違和感がある音があれば、シンプルに違う点を指摘し、一度復唱させるにとどめましょう。)

④リプロダクション(言い換え練習)

「会話上手」というのは、言語の知識より、運用力など技巧に長けていること、という意味でもあります。その中でも「言い換え上手」であることが、会話上手と言えるのではないでしょうか。外国語を話すときには忘れがちですが、私たちも母語で話すときは、とどのつまり相手の話をかみ砕いて自分の言葉にして言い換えることで、相手への理解や同意、あるいは反論などの態度を示します。「言い換え」は、会話運びの一つのテクニックなのです。

中級以上では似たような意味・機能を持つ文型が出てきます。初級では直接的にしか伝えられなかったことを美しく、ときには修辞的に、あるいはもっと詳細に、あるいはぼかして、繊細なニュアンスを伝えることが、中級になると可能になるというわけです。

ほかの言い方に変える練習をする、違う角度から物を見てみる、表現する練習ができるようになるのは中級以降の大きな魅力の一つです。ぜひクラスでやってほしいです。

例えば「ものの」という文法。

うちでも勉強しなければいけないとは思っているものの、できないんです。

言い換えると…

うちでも勉強しなくちゃとは思っているんですが、できないんです。

思っていても、できないんです。

思っているのに、できないんです。

頭ではわかっているけど、できないんです。

以上のように初級文法を交えて言い換えることが可能です。学生によっては「ほかの文法で言い換えてみましょう」というキューだけではできない場合もあります。そのときは、講師から「『~んです』というパターンで言い換えてみましょう」といった誘導も必要です。

⑤ロールプレイやディスカッションなどの応用練習

文型の意味や機能、接続のルールは一通り理解したとして、次により深い理解と定着、使える自信につながる練習はロールプレイ(自分の意見ではないが演じる)やディスカッション(自分の意見を言う)が有効です。

しかしながら、ロールプレイなどを一からつくるのはなかなか骨が折れる作業です。日々のレッスン準備に追われるなかでは現実的なことだとは思えません。そのときは既存の教科書を使うのがおススメです。「中級日本語文法を教えるためのアイデア集」には、授業をアクティブにする活動やヒントがたくさんあります。グループ、プライベートレッスンともに使えます。必要な語彙は適宜導入しつつ、よりアクティブなクラスに展開していってみてください。

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