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「苦手」と「下手」の違いをどう教える?
「苦手」か「下手」か、誤用はどこから?
初級の学習者からよく「苦手と下手の違いは何ですか?」と質問を受けることがあります。また、「わたしは辛い食べ物が下手です」「わたしは勉強が下手です」といった誤用も耳にします。
英語に訳すと「苦手」も「下手」も「be bad at doing」や「be poor at doing」などになりますが、これだけだと説明が足りませんね。
また「〇〇さんは、人前で話すのが下手です」「同僚の△△さんは、英語が下手です」など、使い方を間違えると意図が伝わらないばかりか、相手を不快にさせてしまう可能性もあり、なかなかにリスキーな用法でもあります。
というわけで、今回はこの2つの使い方の違いや注意点について考えていきたいと思います。
「苦手」と「下手」、その意味と用法を考える
「苦手」とは?「下手」とは?
まずは辞書(明鏡国語辞典)でそれぞれの意味を確認していきましょう。
苦手
①性分が合わなくて、また、対処しにくくて嫌な感じを持つこと。また、そのような相手。例)苦手なチームと対戦する
②得意でないこと。不得手。例)英語の苦手な生徒
下手
①技術や手際が悪くて、物事が巧みに行えないこと。また、その人。また、物事を行った結果としての出来栄えが劣っていること。例)彼は商売が下手だ / 字の下手な人 / 素人だが下手な料理人よりはるかにうまい / 話し下手
②悪い結果を導くような、まずいやり方で物事を行うこと。また、その結果としての物事。例)下手なことは言うものではない / 下手な小細工はやめよ / 下手に動くと出血がひどくなる
というわけで、「苦手」と「下手」で意味のかぶりがあるのは、上記「苦手」の②と「下手」の①ですね。
両方ともスキルや能力が不足しているために、上手くできないことを表しています。
「下手」の②の意味は慣用的な使われ方をしているため、初級学習者が「苦手」と誤用することはなさそうです。
…ということは「苦手」の①「性分が合わなくて、また、対処しにくくて嫌な感じを持つこと。また、そのような相手」の使い方が、「下手」の使い方にはなく、誤用の原因になっているようです。
「苦手」にはあるが「下手」にはない用法は?
前述のとおり「苦手」も「下手」も、スキル的・能力的に問題があり、うまくできない・上手ではないという意味があります。
例文で確認してみましょう。
「わたしは歌を歌うのが下手です」と「わたしは歌を歌うのが苦手です」はほぼ同じ意味で、言い換え可能です。
「田中さんはピアノはうまいが、ドラムは下手だ」と「田中さんはピアノはうまいが、ドラムは苦手だ」も入れ替え可能で、スキル的に低いという意味となります。
一方で「苦手だ」には「①性分が合わなくて、また、対処しにくくて嫌な感じを持つこと」という意味がありました。つまり、「あまり好きではない」「嫌いだ」といった感情面の意味があるのがポイントです。
実際、「私はあの人が苦手だ」「私はピーマンが苦手だ」という文には、嫌だ!生理的に無理だ!といった感情的なものを感じますよね。
これらの文は、「私はあの人が下手だ」「私はピーマンが下手だ」と「下手」と入れ替えると意味が通らなくなります。
「苦手」は感情面にフォーカスするという点で、主観的な表現と言えます。
冒頭の例文「わたしは辛い食べ物が下手です」「わたしは勉強が下手です」も、スキルや能力面ではなく、感情面にフォーカスしているため、「苦手」というべきだったというわけですね。
「苦手」と「下手」を、違う角度から眺めてみる
「苦手」と「下手」の主語にフォーカスすると?
cotoのレッスンでも常連の『GENKI』の第8課に「上手です」と「下手です」の用法が登場します。
別に私はGENKIのテキストに文句を言いたいわけではないのですが、私はここのパートを教えるときにちょっと抵抗感があります。
テキストにはこのような例文が載っています。
「ロバートさんは料理を作るのが上手です」…OK。これはいい。
「たけしさんは英語を話すのが下手です」…文法上は何も間違っていないけど、なんか…たけしさんに失礼!
「わたしは英語を話すのが下手です」「わたしは料理が下手です」はまったく問題がありませんよね。話し手が主語の時は、謙遜した印象を受けます。
でも、「たけしさんは英語を話すのが下手です」「メアリーさんは料理が下手です」といった文からは、相手に対する不遜な印象を受けてしまいますよね。
そのため、私は学生さんには「文法上は間違っていないけど、相手が主語の時は『下手です』は使わないほうがいい」と補足するようにしています。
ここで「たけしさんは英語を話すのが苦手です」「メアリーさんは料理が苦手です」とすると、印象がたいぶマイルドになります。
これは「苦手」に心理面を表す意味があるためだと考えられます。スキルや能力ではなく、「性分が合わなくて」「心理的に嫌で」英語を話すのが上手ではない、料理が得意ではない、というニュアンスに感じられるからでしょう。
相手のスキルが低いことをどうしても言いたいときは「苦手です」を使ったり、「あまり上手じゃないです」や「不得意です」などに言い換えたり、または数値など客観的な評価基準を用いたりして伝えた方が良さそうです。
「苦手」と「下手」、一緒に使う名詞に特徴があるか
「苦手」の「①性分が合わなくて、また、対処しにくくて嫌な感じを持つこと。また、そのような相手」のケースにおいて、今度は一緒に使う名詞を確認したいと思います。
いくつか例文を見てみましょう。
・たけしさんは辛い物が苦手です
・私は声が大きい人が苦手だ
・私はピーマンが苦手だ
・メアリーさんは寒いのが苦手です
・母は騒がしいところが苦手だ
・父はスマホなどのデジタル機器が苦手だ
やはり心理的な特徴がここでもうかがえますね。
例に挙げた苦手の対象となっている名詞(辛い物・声が大きい人・ピーマン・寒いの・騒がしいところ・デジタル機器)は、人によっては好きなものだったり、得意なことだったりと、主観が大きく関わる名詞がくることが多いようです。
「苦手」「下手」の英語訳は、「be bad at doing」?
今回は「苦手」と「下手」の違いと注意点を見てきました。
この2つは初級学習者からよく質問を受ける表現ですし、誤用も散見されます。
「苦手」と「下手」は意味上・用法上の共通点があるものの、「苦手」だけが持つ感情的なニュアンスを押さえないと誤用につながってしまうことがあります。
また、「下手」は主語によって、相手に良くない印象を与えてしまうリスクがあります。
「be bad at doing」や「be poor at doing」の意味のほかに、それぞれの意味や使い方について補足説明ができると安心ですね。
「苦手」と「下手」の違いを学生に聞かれたら、学生にはこう答える!
おさえるべき4つのポイント
- 「苦手」「下手」ともにスキルが低いことを言う。
- 「苦手」にはスキルが低い以外に、心理的ハードルがあり「いやだ」「すきじゃない」の意味がある。
- 「下手」は自分以外の人について言及すると失礼になる(あえて悪口を言いたいなら別ですが…)。
- 「下手」はスキルにフォーカスのない名詞(勉強、文法、理科・数学などの教科など)には使わない。
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