レッスン中の急な質問、どうする?
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はじめに
皆さんは毎回のレッスン準備、どんな風にされていますか。ベテランの先生方はもう何度も同じ文型やテキストを教えられて現場経験もありますから、たくさん引き出しをお持ちのことと思います。私は対面でのグループレッスンを始めてちょうど3年目、まだまだ教えるのが初めての文型やテキストもあり、この文型をどうやって導入したら分かりやすく伝わるだろう、漢字はどう教えたら楽しく覚えてもらえるだろう、語彙は単体でなく似た言葉や助詞も一緒に伝えるとより使える日本語を身に付けられるかな…。カリキュラムに沿いながらも毎回自分なりに工夫し、何か一つでも頭に引っかかるものを持ち帰ってもらえたら…と思って準備するようにしています。
その準備の中で何より気を付けるようにしているのが、次回レッスンでどんな質問が来そうかを想定しておくこと。何せまだキャリアの浅い日本語教師ですから、これを考えておくだけでかなりの安心材料になるのです。
でもこうして自分なりに全方位固めたつもりで教室に入っても、まさかそんなところから…と驚くところで質問が来ることがあります。思いもよらない質問、その瞬間、頭の中は汗でいっぱい。どう答えようか脳がフル回転を始めます。きっと皆さんも同じ経験があるのではないでしょうか。
さあ、どうする?―日本語教師3年目の私の場合
思わぬところから不意に飛んできた質問。
こんな時まずすること、それは「ポーカーフェイス」です。焦りを絶対に悟られないように、初めての質問にどう答えようか考えているのが伝わらないように、普段どおりの表情でいることに努めます。すると不思議なことに、気持ちが落ち着いてきてどう答えようか冷静になれるんです。そしてこう言うようにしています。―笑顔で「いい質問ですね。〇○さんの質問は△△ですね」「みなさん、どうですか」これが私のファーストアクションです。 学生から見たら経験豊富かどうかに関わらず、「目の前に立っている私=ネイティブの日本語教師」。今までの私の経験だと、学生たちは『日本語学習中の私たちの質問にはどんなことでも瞬時に的確に答えてくれるはず。』―そんな期待感を持って、疑問に思ったことはその場で素直に「どうして?」と聞きます。
質問によっては学習者の勘違いや覚え間違い、英語で考えてしまうと分からなくなってしまうものなど、その場ですぐに解決できるものもあります。でも中には、某テレビ番組のように『なんで?』と、私がネイティブだからこそ気にも留めていなかったところを突いてくる質問があります。ボーッと生きてきたわけじゃないのに…。レッスンに向けて色々準備したのに…。
さあ、どうする?どうしたらいい?
ここからは、こんな時に私が行っている解決方法をいくつか紹介します。
解決方法A:持ち帰る・その1(自分で調べる&AIに聞く)
まず考えられる方法、それは「その場では無理に答えないで持ち帰る」こと。これは間違ったことを伝えないために何より安全な方法と言えます。私が調べる時はまず「コトハジメ」に同じ例がないか探します。それに加えて日本語教育の文法書を見たり、インターネットで類似の質問や回答例がないか調べたり、最近だとAI(ChatGPT、Claude、Geminiなど)に聞いたりすることもあります。それらを総合的に判断して、学習者の既習語彙や文型(時に補助的に英語少々)で回答できるよう準備します。
解決方法B:持ち帰る・その2(先輩に訊く)
「先輩の先生に聞く」―これもとても大事なことです。自分で調べるのもAIに聞くのもいいでしょう。ですが、同じ学校でたくさんの教務経験のある先生に聞くことは、その学校での教え方や回答方法を確認できますし、何より先生ごとにブレない回答をするためにも、とても重要なポイントです。自分でこうかな…と回答を準備した後、私は必ず先輩の先生方に聞いてから学生にフィードバックするようにしています。
解決方法C:持ち帰る・その3(なかったことにする)
もっともしてはいけないこと、それは一旦持ち帰った後、そのままにしてしまうことです。色々調べてみたけどちょっと手に負えなそう…という質問のこともありますが、聞かれたことに何も答えないのは学生との信頼関係づくりに良くない影響が出てきます。きちんとした回答を渡せなくても、せめて報告だけでもするようにする。最低限これだけは心がけようと思っています。
学生はその場じゃないと質問を覚えていない?
さあ、これで準備はととのいました。前回の質問に回答する日がやってきました。レッスン冒頭、あいさつとスモールトークに続けて「先週の質問ですが・・・」と切り出します。すると「?」「何のこと?」という表情。間違いなくその学生からの質問だったのに、何故か初めて聞いたような顔。聞いたその場で回答が出ない場合、学習者の中で質問自体が「ないこと」になっている、こういうケースが結構あります。それは決して「この先生に聞いても答えがもらえなかった」という失望でもなんでもなく、聞くほどの内容ではなかった、とか、今回のレッスンのポイントではなかった、と思ったとか、どうやら学生なりに自分で納得して収めているらしいのです。そんな時は「このあいだ、私にこう質問したじゃないですか。」と言ったりすることはせず、さらりと質問と回答を紹介してその日のレッスンに入るようにしています。質問した当の本人は忘れていても、クラスメートが覚えていることもあり、用意した回答は必ず誰かの役に立つからです。
解決方法D:その場で解決する
では持ち帰らない場合の解決方法、―それはその場で回答することです。「鉄は熱いうちに打て」の言葉どおり、何より納得感を得てもらいやすいのは即時回答です。
この「即時解決方法」については、私が普段しているやり方や、過去に何人かのベテランの先生方に聞いたやり方がありますので、それらを紹介します。
1)質問を板書する
文字化すると学生からの質問を俯瞰して客観的に捉えることができます。また、板書することでその質問がクラスメート全員で共有できるものとなります。いわゆる「見える化」。これが、ちょっとした時間稼ぎになって、この間に私たち講師も考えることができたりします。
2)一緒に考える
「OK」の例文と「NG」の例文を板書し、その違いがどこなのかを学習者に考えてもらいます。これで自分も含めたクラス全員で質問に向き合うことができ、自分自身も頭の整理ができ、冷静に回答するための準備ができます。その場にいる全員で「プロジェクト型解決」をするのです。
3)簡潔に回答を言う
質問が「見える化」され、答えに向けて「プロジェクト型解決」を採用したところで、結論となる「回答」を言います。このときはなるべく簡潔に言うようにしています。学習者もここまで一緒に考えてきたので、もう自分の中で十分理解はできていますから、すぐに「そうか!分かった!」となります。
上記の方法はグループレッスンに限らず、プライベートでも可能です。私の経験にはなりますが、この方法を採用するとほぼ100%納得してもらえます。
解決方法E:「あとで勉強します」と言う
教え始めたばかりの頃のこと、プライベートレッスンで教えていた初級の学生から質問を受けました。まだ今ほど教務経験も無く、既習文型や語彙について私の予習も足りておらず、良かれと思って回答したら、もっと混乱させてしまった…という苦い経験がありました。誰から言われた訳でもないのに、自分で勝手に「受けた質問はすべてその場で的確に回答しなければならない。」と思い込んでいたのです。
「余計なことを言って、申し訳ないことをしたな…。」と思って意気消沈しながら講師室へ戻り、その場にいた先輩の先生に打ち明けたところ、「初級の学生なら『あとで勉強します』で大丈夫ですよ。」と言われました。全く発想していなかったその回答にとても衝撃を受けました。そうか、その学習者の学習段階に応じたレベルが理解できていればOKで、それ以上のことは「今」は理解する必要がないのか…。それから時が経った今、このフレーズが学習者のモチベーションにつながることがあるという経験もしています。何人もの学生が、「じゃあこれはいつ勉強しますか。」「どのレベルですか。」と言うシーンを幾度となく目の当たりにしたんです。『あとで勉強します』は決して逃げ口上でも不誠実な回答でもなく、学習継続のきっかけとなるフレーズになるのです。
質問に回答する姿勢が信頼関係につながる
「クラス内で出た質問は、どんな小さなことでも受け止めて必ずリアクションする。」
これが私が心掛けている「自分との約束」です。私自身、趣味で続けている言語学習があるのですが、自分が学生の立場としてレッスンを受ける際、私がこの先生と学習を続けたい、と思える先生は必ずこれを実践しています。言葉は人と人が分かり合うためのコミュニケーションツール、だからこそ大切なのは「正しい答え」を渡すより以前に、私はあなたたにきちんと向き合っています、という「意思表示=リアクション」なのだと思います。
日本語教育は終わりのない旅
レッスンをしていると、時に自分の想像を遥かに超えて、斜め上どころか宇宙の彼方から飛んでくるような突飛な質問もあります。私が日本人であるが故に気付けなかったこと、学習者の国にその考え方や表現が無いから出てきたもの、日本語を学ぶ姿勢が真摯ゆえに疑問に感じたこと…など同じ文型を教えていても、「教える相手=学生」が違うと質問も様々で二回として同じレッスンはありません。でも、これだからこそ日本語のレッスンは面白い。こう思えたら、レッスンがよりインタラクティブで生き生きとした時間になると思うのです。私は常々、「レッスンは一種のエンターテインメント、クラスは一期一会のケミストリー」だと思っています。学生の「Enjoy Learning」をサポートする為、毎回どんなレッスンにしようかと考える―「日本語教育は終わりのない旅」―そう思えたら毎回のレッスンがよりアクティブなものになるのではないでしょうか。
*次回は実際にレッスン内で出た質問例を取り上げた「実践編」をお届けします。お楽しみに。



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