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「動詞て ある」の文作から文型の意味と機能を探る
例文作成トレーニングで例文脳を鍛える
cotoでは先生方のための「例文作成トレーニング」という勉強会を月一で開催しています(1回50分)。そもそも、どうして例文作成トレーニングをやるか。それは、もちろん例文の引き出しを増やすため!ということもありますが、何より文作への瞬発力を養う!というのが第一義の目的なのかもしれません。
勉強会では、その場で「今日の文型」を提示するので参加者は事前の準備ができません。いわゆる大喜利スタイルなので、頭をいかに柔軟にしてささっと文がひねり出せるかが試されます。そういう脳トレは、実際の授業に大きく役立ちます。例えば準備した導入文がまったく学生にささらないとき、またその日の文型ではないものから質問がきたとき、あるいはこの文型とこの文型とは何がどう違うかと急に聞かれたときなど、やわらかい脳はそこでの柔軟な対応を可能にしてくれます。
というわけで、今回は実際の勉強会のフローを体験しながら、そこで実際にとりあげたお題「動詞て ある」を使って、文作から文型機能の分析、ふさわしい導入場面や導入文について一緒に考えてみましょう。
「例文作成トレーニング」勉強会のフロー
まずは5分間でその日のお題について語彙や文法・スタイルなど関係なしに例文をつくってもらいます。できれば10個。そして出してもらった例文をみんなで見ながら、以下の項目について、例文分析をしていきます。
<分析内容>
①一緒に使う言葉の傾向
②どんな場面で使うことが多い? 会話のなかでどう使う?
⇒前提となる質問について考えると見えやすい
③その文型の意味や機能
④活用の確認
⑤(余力があれば…「ここは触れないほうがいいかも」ポイント)
まずはみなさんも、「動詞て ある」を使った例文をいくつか考えてみてください。
当日、実際に出た例文は以下のとおり。
<例文リスト>
ノートに名前が書いてある。
ビールって買ってある?
お父さんに連絡してあったっけ?
ドアが開けてある。
あ、妹にビールをお願いしてあったのに、私も買っちゃった。
おやつがテーブルに置いてあるよ。
お風呂掃除ってしてあったっけ?
メニューは決めてある。
駐車場って予約してある?
庭に洗濯物が干してある。
ごみも出してあるよ。
牛乳は買ってある。
洗濯物しまってあったら助かる。
今日の予定も伝えてあるよ。
最近のカステラは、切ってあるから便利だね。
コピーを取ってある。
予約してあるから、ゆっくり行っても大丈夫だよ。
電車の時間も教えてあるし、道も教えてあるし、きっとお父さん1人で来られるよ。
サービスエリアにトイレットペーパーがたくさん用意してありました。
トイレの使い方が説明してありました。
かべに落書きがしてあった。
4か国語で説明が書いてありました。
夕飯のメニューは決めてある。
バスを降りる時、集合時間も伝えてあります。
教室には地図とかな50音表が貼ってあります。
お弁当も買ってあるので、渋滞しても大丈夫だと思います。
飲み物も用意してありますから、お気軽にお越しください。
食べ物もたくさん用意してあります。
できた例文を分析してみる
さて、みなさんは文がいくつできたでしょうか。さっそく分析に入りましょう。
分析①<一緒に使う言葉の傾向>
書く・買う・連絡する・開ける・お願いする・置く・掃除する・決める・予約する・干す・ごみを出す・しまう・伝える・切る・コピーを取る・教える・用意する・説明する・落書きする・貼る
以上の語彙からわかるのは、
★すべて他動詞である。
★日常語(日常生活に関する語彙:掃除・洗濯・買う・予約するetc)が多い。
分析②<使用場面や文脈について>
★パーティなどの準備過程と作業完了の確認(完了アピール?)である。
★状況描写(準備してあることへの感動?)である。
分析③<文型の意味や機能>
★「他動詞て ある」には、アクションの完了(テンス)+継続(アスペクト)+意志(モダリティ/ムード)の多層構造機能がある
★単なる状況描写に収まらず準備完了な状態を表している
分析④<活用の確認>
他動詞て形+ある
分析⑤<今はここには触れないでおいたほうがいいかもポイント>
★ておく・ているとの違い
げんき学習者は「ておく」がすでに「準備」の意味であることを学んでいるので、そことの違いを聞かれたら、フォーカス(視点)と時間の前後の違いについてだけは言及してもいいかもしれない。
例)
場面:冷蔵庫にすでに牛乳がある
昨日買って「おいた」(アクションにフォーカス)。だから、いま「ある」(買ってある:描写にフォーカス)。買うというアクションをしたから、いま牛乳がある。時間の流れでいうと「おく」がまず起こり、次に「ある」になる。
導入にふさわしい場面や例文とは
分析後のまとめとして…
「てある」の機能は
1 状況描写(誰か意図的にしたという含意あり)
2 準備が整っている(利便性のために意図的にその状況になっている)
教科書(cotoでは「げんき」を使用中)では、1,2が混在していますが、導入文はまず2からがわかりやすそうです。2であれば、会議やパーティの準備場面などが適当でしょう。
1で導入をやるなら、お気に入りの場所(カフェ)、自分がすてきだと思ったところ(友だちの家)などの描写などで、運用できるかもしれません。
また当日勉強会に参加してくれた先生がお持ちだったのですが、実際に授業で導入時に使ったという「サービスエリアのトイレの写真(トイレットペーパーが積み上げてある、トイレ使用の注意などが書いてあるもの)」など、レアリアがあれば、学生の理解をもっと促すことができるのかなとも思います。
最後に
いまは便利な時代でchat GPTに、[文型「てある」を使った文を教えて]というプロンプトを書いて指示を出せば、すぐにいくつかの例文を提示してくれますし(しかも、その精度は悪くはない!)、また各文型についてもいろんなブログやサイトでいろんな人が論じたり、書いたりしてくれているので、自力で例文を考えるというタイパ・コスパの悪いことはなかなかしないことが多いのかもしれません。
しかし、授業準備のときに毎回とはいかないかもしれないですが、ここで論じてきたフローで文作し、分析してみるということは、違う脳の回路が開ける感覚があります。一人でやるのもよし、先生仲間を集って一緒にやって考えてみるのもよし、準備!仕事!となると気が重い作業になってしまいますが、例文をつくるというのはちょっとやっぱり私にはおもしろい作業だなあと感じています。日本語教師をやっている人、やろうとしている人はみな、少なからずそんな作業が好きだと思います。どうぞお試しください。
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