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日本語教師の先輩体験談~青年海外協力隊でアフリカへ~
日本語教師の活躍の場の一つとしてよく挙げられるのが青年海外協力隊です。今日はアフリカへ赴任していたHさんに、協力隊について、アフリカの日本語教育事情について、そしてHさんの日本語教師としての活動について伺いました。
アフリカの日本語教育
アフリカにも多くの日本語学習者がいます。日本語教育を新たに始める国もあり、学習者数は増えています。日本語教育の担い手は、主に現地採用の日本人教師、元学習者の現地日本語教師、国際交流基金の日本語専門家、JICA海外協力隊、NGO団体です。また、在日本国大使館やJICA事務所、日系企業の方々との連携も重要です。国を超えた日本語教育会議や日本語弁論大会も開催されています。
JICA海外協力隊・日本語教育職種としてアフリカへ
私は学生の頃からアフリカに関心がありました。日本語教師養成講座修了後、海外で1年半ほど日本語教師として働き、その後JICA海外協力隊に応募し、タンザニア連合共和国(以下、タンザニア)に派遣されました。
派遣前訓練
JICA海外協力隊(長期派遣)は、派遣前に合宿型訓練があります。訓練では指定された言語を短期間で一定のレベルまで上達させることが求められます。スワヒリ語、クメール語など多くの隊員が全く初めての言語に挑戦しています。外国語教師陣たちの指導スタイルや教室活動は大変参考になります。
派遣国 タンザニア
タンザニアの概要
タンザニアは東アフリカに位置する自然豊かな国です。国立公園やキリマンジャロ山、ザンジバル島など有名な観光地が数多くあります。また、鮮やかなアフリカ布も外国人に人気があります。商業の中心都市はインド洋沿岸ダルエスサラーム、政治の中枢都市(首都)は内陸のドドマです。宗教は、キリスト教とイスラム教がそれぞれ40%ほどを占め、残り20%は土着宗教です。比較的治安もよいため、日系企業の進出も少しずつ増えてきています。
タンザニアの教育制度
教育課程は、初等教育7年、中等教育(前期4年/後期2年)、高等教育2~4年です(2019年時点)。節目ごとに国家試験が行われ、合格しなければ次のステージに進級・進学することはできません。また、昇給や給与アップのためcertificate やdiplomaを取得したり、休職して大学に進学したりすることも珍しくありません。
タンザニアの言語
国語はスワヒリ語、公用語は英語です。生活言語はスワヒリ語または民族語です。タンザニア人であれば大抵スワヒリ語が通じます。120以上の民族があり、それぞれに民族語を持っています。英語は公用語ですが、教育レベルによって理解・使用度は異なります。初等教育から英語科目が必修で、前期中等教育から全科目英語で授業が行われます。そのため、英語が理解できなければ他科目にも影響が出てしまいます。
タンザニアにおける日本事情、日本語教育事情
タンザニアにおける日本
タンザニアで日本と言えば、車。タンザニアを走る車や小型バスはその多くが日本の中古車です。車体に「〇〇幼稚園」と日本語がそのままのバスも見かけます。日本ブランドに対する信頼は厚く、それが日本人に対する良いイメージにも繋がっているようです。その他、教科書で学ぶ広島・長崎や首相の名前、プレミアリーグの日本人サッカー選手などは知られていますが、食文化やポップカルチャー、観光地など日本語の教科書に出てきそうな話題はほとんど知られていません。日本人が「アフリカ」と一括りに見るように、アジア各国の特徴を詳しく知っている人は少ないようです。
タンザニアの日本語教育
日本語教育は、2009年、ドドマにある大学の外国語文学科日本語セクション(3年制)で始まりました。公的な日本語教育機関は現在まで同大学一校のみです。 外国語選択科目の一つとして入門~初中級レベルの日本語科目が開講され、毎年100名近い学生が履修しています。現地に日本語教員はおらず、JICA海外協力隊員が唯一の日本語教員です。長年、現地採用の日本語教員誕生が望まれています。公教育以外では、ダルエスサラーム近郊で日本語を教えている方がいます。また、他職種の隊員が各配属先で日本文化や日本語を紹介することもあります。日本について情報を得る機会が少ないため、現地の日本人が伝える日本の情報や言動はそのままタンザニア人の知る「日本」に繋がります。
配属先での活動
大学は2学期制で1学期あたり約15週です。1科目につき1週間あたり講義2時間、演習1時間です。私は各学期3科目を開講していたので、授業時間数は1週あたり9時間でした。その他の時間は、授業準備や課題の添削、試験作成、評価、学生対応などを行っていました。また、ケニア日本語弁論大会に向けてスピーチを指導し学内予選会を実施したり、日本語教育会議に出席しタンザニア日本語教育事情を報告したりしました。その他、出前授業やソーラン節発表会も行いました。セクションの責任者、日本語教員、JICA海外協力隊という立場で様々な経験ができました。
日本語学習の動機
履修者数は入門クラスが一番多く50~100名で、レベルが上がるにつれて減る傾向です。学習3年目後期クラスでは3人~10名ほどです。学習開始動機は、就職や留学への期待、単位の取得、言語への興味、日本文化や日本人、日本のテクノロジーへの興味などです。強い学習動機というよりは、ちょっとした興味・関心や将来に繋がるincentiveを期待して履修するケースが多いです。3年間学習を継続する学生の場合は、就職や留学への期待はもちろんですが、それ以上に日本語そのもの、日本文化、日本人ゲストなどとのコミュニケーション、日本語学習者同士の連帯感や特別感を楽しんでいるように感じました。
タンザニアで日本語教師をして大変でも経験できてよかったこと
タンザニアは、日系企業への就職や国費留学の機会はもちろん、日本人と街中で出会うことも、日本へ旅行することも稀な環境です。日本語を勉強しても意味がない、モチベーションがあがらない、難しい…と学習を辞める人もいます。学生が異文化に触れ日本語や日本をもっと知りたい、面白いと思えるように、科目内容や教材の見直し、日本人との交流会など色々と取り組みました。大変なことも多々ありましたが、ボランティアだからこそ気負いすぎず挑戦できたと思います。
また、アフリカに対するイメージや国際協力に対する意識が変わったことは大きな収穫でした。女性の働き方や生活の知恵、教育の課題など新たな学びや気づきも多くありました。
タンザニアで日本語教師をして苦労したこと
一つ目は、スワヒリ語です。国内訓練言語は英語だったため、スワヒリ語はタンザニア到着後にざっと基礎を学び、あとは活動しながら身につけていきました。授業の媒介語と配属先との報連相は主に英語ですが、日常会話はスワヒリ語を使うようにしていました。スワヒリ語の使用が生活や活動、人間関係を円滑にしてくれたと思います。
二つ目は、時間や約束の感覚です。時間通りは稀で、約束はあって無いようなものです。情報は疑い、過度な期待はせず、なるべく核となる人と強気かつ陽気に直接交渉することの大切さを2年間通じて学びました。
JICA海外協力隊として海外の日本語教育に関わってみたい方へ
異文化に身を置き、「日本・日本語」を中心に幅広い活動・経験・出会いができるのがJICA海外協力隊日本語教育職種の魅力だと思います。派遣国や配属機関によって日本語教育の状況は異なるので、対象者や地域、帰国後の希望など幅広い観点で要請内容を見てみることをおすすめします。そして、派遣前も派遣後も「健康第一」、 あとは「Hakuna shida!(問題ないさ!)」の気持ちがあればきっと大丈夫です。
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