第2回:大人のレッスンと子どものレッスンの違い

第2回:大人のレッスンと子どものレッスンの違い

日本語の大人レッスンと子どもレッスンの違い

前回、第1回の記事では日本語レッスンの対象となるキッズやそのニーズ、そして日本語のキッズレッスンの現状についてお話ししました。今回はもう少し具体的に日本語の「大人のレッスン」と「子どものレッスン」の違いについて紹介していきたいと思います。

大人が使う日本語―社会生活に必要なコミュニケーション

ではここで大人や子どもが誰かと話をする時、それぞれどんなシーンでどんなことを話すか、ちょっと考えてみましょう。

まずは大人から見てみます。大人は家族や友人など、自分の近しい人と話す時間に加え、日中は社会生活を送っていますから、他人と話す機会が多く、その内容もビジネスだったり、街中のお店や施設のスタッフとだったり、時にはドクターや公的機関の人と話したりします。

そういったパブリックなシーンで必要となる日本語は自分のことを相手に伝えるプライベートな会話とは違い、インフォメーションギャップを埋めるためのもの、交渉して何かを得るためのもの、相談するなどしてより良い状況にするためのもの・・・など、ある何かの目的を持って話すことが多いですよね。

例えばお店で何かを買う時、それがいくらなのか、いくつ欲しいのか、袋は要るのか要らないのか、ホテルやレストランに電話するシーンでは、いつ、何人で、どんな部屋やコースを予約したいのか、ドクターとだったら今どこが痛いのか、いつから始まった症状なのか等、とにかく相手とのやり取りの中で自分の望んだ状況を得るために行われる会話がかなりあります。

ですから大人向けの日本語レッスンでは、旅行や生活をする上でとにかく最短距離で効率よくゴールにたどり着けるよう、場面別(空港で、ホテルで、レストランで、スーパーで等)だったり、機能別(依頼する、謝る、許可を得る、誘う等)だったり、想定される語彙やフレーズを会話形式でまとめて導入し、繰り返し練習していくスタイルが多かったりします。Cotoで大人向けに行っているのもまさにコミュニケーションのための日本語です。

子どもが使う日本語―身近な世界でのやり取り

子どもはどうでしょう。子どもは大人のように誰かと交渉したり、買い物したり、自分の具合についてドクターに直接話したりするでしょうか。たいていの場合、一人でそんなことはしませんよね。

子どもは自分のまわりにいる大人に何かを伝えたり、自分の興味のある世界のことについて話したりすることが日常のほとんどで、他人と直接何かを得るための会話はほとんどしません。

大人が「すみません、この商品の在庫確認をお願いできますでしょうか」と丁寧に言う横で、子どもは「ママ、あれほしい!」の一言で済む。この違いが、本来はレッスンの違いを生むはずなんです。

でも実際のキッズレッスンは…?

ところが、実際の日本語業界を見てみると、子ども向けのレッスンや教材の多くは、大人への日本語学習のテキストをベースに、語彙だけを子ども向けに変えたものがほとんどです。

「〜てもいいですか」「〜てはいけません」「〜たいです」といった文型を、「トイレに行ってもいいですか」「走ってはいけません」「ジュースが飲みたいです」と子ども向けの語彙に置き換えただけ。

でも、ちょっと待ってください。子どもは本当にそんな文型を練習したいと思うでしょうか。

子どもにとって大切なのは、文型を正しく使えるようになることではなく、「日本語って楽しい!」「もっと話したい!」と思えることなのではないでしょうか。

そんな子どもたちに大人レッスンでするような日本語レッスンをそのまますることはあまり意味がありません。子どもたちには子どもたちの世界で必要な日本語というものがあります。

それでは、今度は子どもが日々どんな時に言葉を使うのか考えてみましょう。

ちょっと一緒に子どもの一日をのぞいてみましょう。

子どもの日本語

では早速、毎日の生活の中で子どもの使う日本語、これを時間を追って見てみましょう。

子どもの一日で使う日本語

まずは朝起きて家族にあいさつをします。「おはようございます」。

そして、あさごはん。「いただきます」「ごちそうさまでした」、学校に行くときは(「いってらっしゃい」)「いってきます」学校に着いたら、お友だちや先生に「おはよう」「元気?」「元気!」、帰るときには「さようなら」「また明日」、帰ってきたら「ただいま」(「おかえり」)

これらのあいさつを中心に、身近な相手とのやり取りで必要な「ありがとう」「ごめんね」、少し範囲を広げて自分の知りたいことを知るためのフレーズ「これ、なんですか。」、自分がしたいことを伝えるためのフレーズ「トイレに行きたいです」「行ってもいいですか」、相手が自分に対してリクエストしているときのフレーズ「行ってはいけません」「行かないでください」などなど。必要なフレーズはかなり限られていますね。

子どもの世界で必要な語彙―半径1メートル以内のことば

では今度はキッズの世界をちょっとのぞいてみましょう。子どもはまだまだ行動範囲が狭いですから、まずは身の回りの生活用品-「はし」「コップ」「おべんとう」「はぶらし」「タオル」や、日々触れるもの—「おもちゃ」「ほん」「ぬいぐるみ」

そして、自分の興味のある生き物や乗り物-「いぬ」「ねこ」「きんぎょ」「とり」「はな」「さかな」「きょうりゅう」「くるま」「ひこうき」「バス」「でんしゃ」や、色-「あか」「あお」「きいろ」・・・等

家の中にあるものか半径1メートル以内の名詞が分かって、聞いたり言えたりすれば十分。動詞も「たべます」「のみます」「おきます」「ねます」など、自分の一日を言えるだけのものがあれば事足ります。

あとは、「したい」「ほしい」「すき」「楽しい」「うれしい」など自分の気持ちが伝えられたらいいかもしれませんね。

子どもの成長に合わせた日本語学習

これらを入り口として自分の母語と日本語の違いを覚えたり、母語と同じレベルで相手とやり取りできたりすれれば、たいていスムーズに1日を過ごせます。

こうやって考えるとキッズの日本語レッスンは子どもの母語レベルと合わせた範囲のものから取り入れて、彼らの興味を引きながら子供たちの母語の成長にあわせて段階的に学習を進めることが大切。そして何より、子どもたちが「楽しい!」と感じられるアプローチが必要なんですよね。

次回、第3回では、導き出した仮説から私たちが一体どうやって実際のキッズレッスンを作っていったか、それについてご紹介したいと思います。次回もどうぞお楽しみに!

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