JLPTが「チケット争奪戦」になった日:2026年7月試験、N4・N3早期締切が私たちに問いかけるもの
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はじめに――締切前に締め切られる試験
2026年度第1回日本語能力試験(JLPT・7月5日実施)の願書受付は、3月17日(火)に開始。主催者である日本国際教育支援協会(JEES)は、受付開始の時点ですでにウェブサイト上に異例の注意書きを掲示していました。「近年、応募者数の急増に伴い、試験会場の確保が極めて困難な状況となっています。そのため、2026年度の日本語能力試験は、試験会場の制約により、受付期間中であっても申し込みを締め切る場合があります。お早めにお申し込みください」という内容でした。
公式の締切は4月7日(火)17時。しかし実際には、N4は3月25日、N3は3月27日午前9時にそれぞれ定員オーバーのため受付が終了しています。受付開始からわずか8日と10日。cotoでも「早めに申し込んでください」という呼びかけを、学習者と担当講師に伝えていましたが、締切は予想以上に早かったように思います。
というわけで、今回は、とくに告示校以外でフリーランスとして日本語教育に携わっている先生方に向けて、今回の事態の背景と問題点、そして私たちにできることを考えていきたいと思います。
学習者の戸惑い――これはもはや人気アーティストのチケット争奪戦
「先生、申し込もうとしたらもう締め切られていました」
coto講師の中にも、このような学習者からの報告を受けたという話を聞いています。チケット争奪戦に敗れたファンのような戸惑いと落胆。しかし、人気コンサートのチケットならば「次のツアーを待てばいい」で済む話ですが、JLPTは年に2回(7月と12月)しか実施されず、次のチャンスまで半年待つことになる。1年前から今年2026年のN4受験に向けて学習者とともに歩んでこられた先生からも落胆の声を聞きました。
在留資格の更新や就労ビザとの兼ね合いで「この7月に受からなければならない」という事情を抱えた学習者にとって、半年の遅れは人生設計に直結する問題になりかねません。試験を「受ける権利すら得られない」という状況は、単なる不便さを超えて、深刻な機会損失にも思えます。
なぜN4とN3だけが早々に締め切られたのか
育成就労制度という「締切加速装置」
今回の急速な定員オーバーの背景には、2027年4月1日に施行される育成就労制度の存在があると思われます。
2024年6月、国会で改正入管法が可決・成立し、60年以上続いた外国人技能実習制度が廃止されることが決定。これに代わる新制度として創設されるのが育成就労制度です。その最大の特徴は、従来の技能実習制度では原則として求められなかった日本語能力の段階的取得が義務化される点です。
出入国在留管理庁の公式資料によると、制度の流れとJLPT要件は次のとおりです。
来日前:日本語能力A1相当以上(JLPT N5等)の試験合格、または認定日本語講習の受講
就労開始1年後:A1〜A2相当の試験合格(分野ごとに設定)
特定技能1号への移行時:A2相当以上(JLPT N4等)の試験合格
特定技能2号への移行時:B1相当以上(JLPT N3等)の試験合格
つまり、
「働き続けたい」→ N4合格が必須
「さらにキャリアアップしたい」→ N3合格が必須
という構図が、2027年以降の外国人就労者にとっての現実となります。これは技能実習制度での「2号良好修了者には試験免除」という運用からの大転換であり、対象分野は農業・漁業・建設・製造・介護・飲食料品製造など17分野に及んでいます。
N4はもともと学習者の数および受験者のボリュームゾーンとして最も多いレベルの一つでした。そこへ育成就労制度施行を見据えた「資格取得のために受けなければならない層」が一気に流入したと言えます。その結果、N4は受付開始からわずか8日で定員に達しました。
ところてん現象――N4難民がN3へ
さらに問題を複雑にしているのが、N4に申し込めなかった人たちの行動です。JLPTは「1レベルしか申し込めない」というルールがあるので、N4の受付が締め切られた翌日以降、本来N4を受験するはずだった人が、「とりあえずN3に出願する」という行動をとったとも考えられます。その玉突き効果で、N3もわずか2日後の3月27日に締め切られたのではないでしょうか。
実際に、私が担当している学習者の中にも、受身・使役・敬語などN4レベルで習得すべき活用形がまだ未習にもかかわらず、N4が取れなかったためにN3に出願した者がいました。語彙数でいえば、N4は約1,500語、N3は約3,750語が目安です。準備が整わないまま上位レベルを受験することになった学習者の心理的負担と、合格率の低下、そしてもちろんそれを指導しなければいけない講師側の教える工夫など労力や心理的負担も想像に難くありません。
現状へのアクション
<学校・教師側にできること>
① 早期かつ具体的な情報提供
今年の経験を踏まえれば、来年度(2027年7月試験)の受付は、おそらくさらに競争が激しくなりそうです。2027年4月に育成就労制度が施行されれば、「N4を取らなければならない」学習者はさらに増加するでしょう。受付開始日・開始時刻を学習者全員にプッシュ通知で伝える体制を今から整えておくべきだろうとも考えています。「ウェブサイトに書いてあった」では情報は届かないかもしれません。
② 中長期の学習計画を一緒に立てる
「ペラペラになりたい」という漠然とした目標では、試験のタイミングに学習が間に合わないです。たとえば「3ヶ月で買い物・レストラン・病院などの日常場面では自信を持って話せるようになる」「6ヶ月でN4の文法項目を一通り習得する」といった、Can-doベースの具体的な短期目標を積み重ねる形で、N4・N3合格という中期目標につなげる設計が重要だと思います。フリーランスの教師だからこそ、学習者一人ひとりのペースや事情に合わせた計画を一緒に立てられる強みがあるとも言えます。
<主催者側へのリクエスト>
① 試験回数を年3回以上に増やしてほしい
現行の年2回という実施体制は、2027年以降の需要増加に明らかに対応できていないと思わざるを得ません。英語のTOEICが年に数回以上実施されていることを考えれば、JLPTが年2回しか実施されないことの「希少性」は、もはや試験の品質の証明ではなく、制度上の課題だと感じています。
年に2回の実施をマンパワー不足の理由とするならば、たとえば「直近5ヶ月以内に同一レベルを受験した者は出願不可」という制限を設けることで、リピート受験による座席の独占を防ぎつつ、年3〜4回の実施への移行が現実的になるのではないでしょうか。真に必要な受験機会を、必要な人に届ける制度設計を求めたいと思います。
② リモート受験・CBT化の検討を
コロナ禍以降、多くの資格試験がオンライン受験やCBT(コンピューター・ベースド・テスト)に移行しています。JLPTもこの流れを真剣に検討すべき時期に来ているのではないでしょうか。試験会場の確保が「極めて困難」であるならば、会場に依存しない受験形式への移行は、問題の根本的な解決策となりえます。不正対策は技術的に克服できる問題であり、「難しい」は「できない」ではないはず、というのは厳しすぎる指摘でしょうか。
まとめ――誰のための試験であるべきか
政府が定めた在留制度の要件として「N4合格」「N3合格」が義務付けられるならば、その試験は、受験したい人が受験できるという最低限の条件を満たしていなければなりません。試験そのものへのアクセスは、いつでも公平であるべきです。
一方で、忘れてはならないのは、JLPTを受ける人の中には、就労要件とは無関係に、純粋な自己研鑽として、あるいは日本語・日本文化への愛着から勉強を続けている人たちがいるということ。資格取得の義務感ではなく、学ぶ喜びから挑戦している学習者にとっても、試験が「受けられて当然」のものであってほしいと願っています。
参考:育成就労制度は2024年6月21日公布の改正入管法・育成就労法に基づき、2027年4月1日施行予定。JLPT2026年7月試験のN4は3月25日、N3は3月27日午前9時にそれぞれ定員オーバーにより受付終了(公式の締切:4月7日17時)。
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