た形は「過去形」?
学習者から「先生、た形は過去形ですか?」と聞かれたとき、どのように答えるべきでしょうか。
結論は 「条件付きのはい」 です。
その条件とは、カジュアルな文体で、過去の動作・行動・状態を述べる場合 です。
例)
A:週末、何した?
B:特に何もしなかったよ。ずっと家にいた。Aさんは?
A:私は友だちに会って、ごはん食べたよ。
このように「た形」は時制として“過去”を表す使い方があります。しかし、文型をつくるための文法要素(部品)として現れる場合は、必ずしも時制とは関係しません。
そのときの「た形」は、相(aspect:動作がどの状態・段階にあるのか) の一部として働いたり、非現実・仮定 を表すための形式として使われたりします。
初級(N4〜N5)における「た形」を使う文型
ここでは、**時制ではなく「文型を構成するための要素」**としての「た形」を分類します。
① 相(aspect)に関連する文型
「動作が完了した」「結果が残っている」「経験がある」といった、動作の状態を表す文型。
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〜たところです(完了)
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〜たあとで(完了→次の動作へ)
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〜たばかりです(直前完了)
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〜たとおりに(完了)
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〜た場合は(条件だが、前件は完了が前提)
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〜たことがあります(経験)
※相は「完了・結果・経験」などを含む概念で、純粋な時制とは異なります。
② 非現実・仮定条件に使う文型
現実から距離のある状況を述べるときの形式。
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〜たら(仮定・順接の時)
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〜たほうがいいです(助言/忠告)
③ 列挙・例示の文型
上記①②のいずれにも含まれないが、文型構造上「た形」を必要とするタイプ。
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〜たり、〜たりします(例示・並列)
指導のポイント(相と時制を混同させないために)
いわゆる日本語学校の学習者においては、外国語を学んだ経験の有無や濃淡などから、言語概念に対するリテラシーの高低はさまざまです。人によっては、相と時制という文法概念を理解するのが難しい場合も多くあるでしょう。では、そのような学生たちをどのように指導していったらよいでしょうか。ここでは、「相」「時制」などと言った文法用語を使わない方法を考えてみたいと思います。文法用語を使わずに「た形」を「時制」と「文型の部品」に切り分けて理解させていきます。
ステップ1:た形は“文型を作る部品”でもあると伝える
<場面>日本語クラスで
例)
教師:みなさん、私が書いた/とおりに、/書いて/ください。
(※「書いた」は部品として使われていて、時制の“過去”を表していない)
ステップ2:相の文型は“後件を非過去”で導入する
「学生は、先生が書いたとおりに書きます」
「学生は、先生が言ったとおりに言います」
→ 動作Aが完了し、その結果に合わせて動作Bを行う、という相の意味を自然に理解させる。
ステップ3:時制は文末に現れることを示す
例:
学生は、先生が書いたとおりに、書きました。
(文末「書きました」=過去 / 「書いた」は文型の部品)
学生は、先生が言ったとおりに、言いました。
(文末「言いました」=過去 / 「言った」は文型の部品)
相の理解は「〜とき」の習得にも有効
「〜とき」では動作の完了/非完了の違いが大きく影響します。
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食べるとき(まだ食べていない):食べるとき、「いただきます」と言います。
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食べたとき(食べ終わった時点):食べた(食べ終わった)とき、「ごちそうさまでした」と言います。
「た形」を使った文型ではありませんが、相(動作の状態)を理解していると、この違いがスムーズに理解でき、混乱が減ります。







