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「~んだから」の文型は、どう使う?
はじめに
cotoでは不定期ですが、講師の皆様向けに「文型トレーニング」と言って、お題として提出された「文型」や「語彙」「表現」を使い、語彙コントロールなしの、思いついた文をとにかく書き出す、という練習を行っています。
今回、「~んだから」という文型を取り上げたところ、2週間ほどのうちに60個近くの文が集まりました。
そして、集まった例文を横断的に見ることで、文法的な制限、よく使う場面や文脈、醸し出すニュアンスなどがわかってきました。
講師が文型自体の意味を知るには、文型辞典など種々の文献に当たれば済みます。また、昨今はインターネット上の情報やAIを使ってしまえば、さらに短時間で検索することも可能です。が、「知る」より深く「理解する」には、やはり自分から生まれる文、ネイティブとしての感覚を大事にしておかなければならないことは言うまでもありません。
そして「教える」という意味で大事なのは、単に文型そのもものの意味や機能を知ることだけではないのです。使用する場面や文脈、誰に使用するかなど、「教える」ための道具を集めること。その道具を持ってはじめて、適切な導入文、汎用性のある場面を探り当てることができるのです。
文法についてわかったこと
では、今回集まった例文をもとにわかった文法的な事項についてまとめてみます。
①前件の制限
前件「~んだから」の情報は、話者・聞き手ともに共有していないとダメで、共通認識がないものもダメです。たとえ、モノローグ(独り言)にしても、自分(話者)が、もう一人の自分(聞き手)に話しかけており、もちろん話者も聞き手も同じ自分だから知っている情報ですが、そこには「念押し」や「確認」ときどき「言い訳?」の意図が隠れていることもうかがえます。
例:
(お母さんが小さな子どもに)「もう赤ちゃんじゃないんだから、自分で歩こうね。」
(自分が自分に)「毎日がんばっているんだから、今日ぐらいランチは贅沢しよう。」
②後件の制限
前件の共有情報をもって、後件に来るのは、
★モノローグの場合:自分の希望(ほしい、~たい、~ようetc)、意見や態度(べき、はずetc)など、意志的なもの。
★会話の場合:アドバイス(~たらどう?~たほうがいい、~なければいけないetc)・指示(~てください、~なさいetc)、誘い(~ようよ!、~ませんかetc)など、相手への働きかけがあるもの。
ということはつまり、後件には無意志的、自動詞的なものは出現しにくいとも言えます。
×この靴は大きすぎたんだから、脱げる。
×風が吹いたんだから、桶屋がもうかった。
③その他
また「~から」と「~んだから」も気になるところです。「ん」が入るだけで何が違うのでしょうか。①でも述べましたが、その違いは、聞き手が前件の情報を既知か未知かだと思います。
- a. 明日早いから、帰ります。OK
- b. 明日早いんだから、帰ります。NG
- c. 明日早いんだから、帰ったほうがいいよ。OK
bが不可なのは、「明日早い」という情報を聞き手が未知であり、後件の語彙が未来への意志的行動であるからだと言えます。
場面・機能についてわかったこと
後件の制限のところで述べたとおり、「~んだから」の後には「相手への働きかけ」が続きます。今回集まった例文は大きく以下の機能に分けられます。が、それぞれがはっきりわかれて自立している機能というわけではなく、相互補完的で、区切りはあいまいだともいえます。
- a) 提案・アドバイス:まだ若いんだから、なんでもチャレンジしてみたら?
- b) 励まし:今日までたくさん勉強したんだから、絶対合格できるよ!
- c) 注意・警告:明日学校なんだから、もう帰らないとだよ。
- d) 依頼:今勉強してるんだから、話しかけないで!
- e) 意見:大統領が替わったのだから、政策も変わって当然だ。
また、a)b)はポジティブ、c)d)はネガティブ、e)はニュートラルなニュアンスが感じられることお記しておきます。d)の依頼がなぜネガティブなのかについては次で述べます。
醸し出すニュアンス(呆れているの?、怒っているの?)
機能のところでも述べましたが、「~て(ください)」、「~ないで(ください)」など依頼の形をとっていても、そこに付随するニュアンスはネガティブなのは、なぜなのでしょうか。
それは、話し手と聞き手の両者に共有の情報・状況はあるものの、そこから期待する結果にはなっていない、あるいはならないかもしれないということに、話者がいらだっている、不満があるからだと言えます。
- 今日はお客さんが来るんだから、散らかさないで!
- 7時に出るんだから、急いで!
- お姉ちゃんなんだから、しっかりしなさい。
- 熱があるんだからちゃんと休んでよ。
- 今日は学校が休みなんだから、起こさないでよ。
- 何回も言ってるんだから、鍵持って行くのを忘れないでよ!
- 外は寒いんだから、マフラーしていきなさい。
- すぐお腹をこわすんだから、アイスを食べすぎてはだめよ。
- 自分でやると決めたんだから、最後まで頑張りなさい。
- まだ完治してないんだから、無理しないで。
- もうおじいちゃんは孫に甘いんだから、だめな時は叱って下さいね。
- 熱があるんだから、うちでおとなしくしておきなさい。
- 子:え〜、今日のご飯、またカレーなの?
母:何もしてないんだから、文句言わないでよね。
「~んだから」という文型で、すでに共有している条件・状況をリマインド(「わかってるよね?」)してからの依頼には、なかなかの迫力がありますね!
教え方
では最後に、集まった例文の活用法を、「導入」→「(応用)練習」というステージ別に考えていきたいと思います。
導入に使うべき汎用性のある場面はどれか。
まずは導入ですが、
会話形式で導入するほうがいい。:モノローグ(独り言)は個人的な文脈で、よりパーソナルな解釈もあるため。
そして、会話であるなら、励ましやアドバイス、提案などの機能がベスト。:一般論は同調しやすい。例えば、励ましであれば、面接や試験、スピーチ・プレゼンを前に、緊張している人に「今までがんばってきたんだから、大丈夫だよ!」というようなもの。
- たくさん勉強したのだから、今回の試験は大丈夫だよ。
- 毎日頑張って勉強したのだから、きっと試験に受かるよ。
提案なら、旅先で「せっかくだから」というニュアンスを用いて。
【旅先で】
A:朝ご飯、何食べようか?
B:う〜ん、あんまりお腹空いてないし、要らないかな…。
A:え〜!せっかくベトナムに来たんだからバインミー食べに行こうよ!!
理解確認の場面としては、親子間のやりとり(お子さんのいない学生に用いるかは注意が必要ですが、個人的な意見というより一般論として、だれでも、だれかの子どもだったことはある大丈夫かなとは思います)、親が子どもに注意を促すようなもの。後件をつくらせ、理解度を見ます。
- 明日は朝早いんだから、(早く寝たほうがいいよ)。
- 風邪がはやっているんだから、(マスクをして行った方が良いよ)。
- もうすぐテストなんだから、(少しは勉強したら?)。
練習方法
応用練習のやり方を二つ(ロールプレイ、文の作成)ご提案します。
1「ロールプレイ」
例えば
★緊張している人を励ます設定。
A:明日、面接なんです。今から緊張しています。
B:Aさんは日本で仕事の経験があるんだから、大丈夫ですよ。
A:緊張すると、日本語が変になっちゃう。
B:もうN1に合格しているんだから、日本語は問題ないよ。
面接の練習をいっぱいやったんだから、きっとうまくいきますよ。
★子どもがいる人なら、子どもに注意を促すタスク。
状況:明日はテストがある、早く起きなければならない、いまもう遅い時間(寝る時間)だ
現状:ゲームをしている、やめる気配がない、お風呂に入っていない、歯をみがいていない、明日の準備をしていない、宿題をしていない
会話例
親:~くん(~ちゃん)。
子:なに?
親:もう9時過ぎたよ。
明日はテストな(テストがある)んだから、早くお風呂に入ったら?
2「文作」
ここでは後件を与えて、前件をつくらせてもいいでしょう。また、会話だけではなくモノローグでもいいかと思います。
~んだから、日本人と日本語で話したい。(例:日本に住んでいるんだから、日本語を勉強しているんだから、あまりないチャンスなんだから…etc.)
~んだから、今日は無駄遣いしてもいいよね。(例:ボーナスをもらったんだから、遠くから友だちが来てくれたんだから、いつも節約生活なんだから…etc.)
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