日本語を学ぶ:中国語母語話者に立ちはだかる壁とは?

1 有標が多い言語に挑戦する感覚とは??~中国語母語話者が日本語を勉強する時~

1.1 中国語母語話者が日本語にチャレンジする時…

你好!

突然ですが、皆さんは中国語にどのような印象を持っていますか?

漢字という大きな共通点があり、そのおかげで街中の中国語も何となく意味が分かる時がありますよね。

昨今はインバウンドの影響もあり、日々の生活の中で中国語を耳にする機会も多いのではないでしょうか。

そんな、日本人にとってはとっつきやすいイメージがある中国語ですが、言語構造については大きな違いがあります。

一方中国語母語話者からしても、最初は「漢字は分かるし、学びやすそう!」と思って日本語を勉強し始めるのですが、様々な壁にぶち当たります。

日本語教育能力検定を受けたことがある方であれば、「有標・無標」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。

有標・無標・中和:対立する2つの形式がある場合、ある特徴を積極的に表す方を有標、より一般的で制約が少ない方を無標と呼ぶ。

<有標性差異仮説>

第二言語習得における第一言語の影響を説明したものに有標性差異仮説(有標性弁別仮説)がある。これは、第二言語に第一言語と異なる部分があり、それが第一言語より有標である場合は学習が困難となり、無標である場合は習得はそれほど難しいものにはならないという考えで、エックマンが唱えたものである。

ヒューマンアカデミー著『日本語教育能力検定試験 完全攻略ガイド 第5版』前者 P.109~110、後者 P327

外国語学習の文脈の中で、簡単に言うと、

・母語と同じ文法事項は無標(特に注意する必要がない。受け入れやすい)

・母語と違う文法事項は有標(注意しなればならない。受け入れるのに時間がかかる可能性あり)

ということになります。

中国語母語話者にとって日本語は、有標の文法事項のオンパレードなのです。

今回は、中国語母語話者にとって有標の文法事項、初級でつまづきやすい部分について見てみましょう。

1.2 中国語母語話者が日本語を学ぶときに立ちはだかるもの

1.2.1 SOV

中国語は英語と同じく、SVO(主語→動詞→目的語)の語順です。

日本人は学生時代に英語を学んで、日本語と違う語順の言語に触れていますが、中国語母語話者の場合、英語の語順は母語と同じなので、日本語が初めての語順が違う言語になることが多いです。

成人してから語順が違う、という新しい概念に出会うのは、自分事として考えると大変そうです。

1.2.2 助詞

中国語には助詞がありません。

他の言語の母語話者にも言えることかもしれませんが、助詞については本当に分かりにくそうにしていますね。

以前、ストレートに「助詞はなぜ必要なのか?」と聞かれたこともあります(笑)

中華圏には勉強熱心な方も多いので、助詞の使い方や違いについて、知りたがる方も多い印象があります。

勉強熱心な方や、アニメ等である程度助詞を知っている方であれば、助詞について質問された段階で、助詞の意味の一覧表等をお渡ししたり、一度助詞の解説の時間を設けてもいいかもしれません。

また、日本語には助詞が必要!と授業で言われるにも関わらず、日常会話では助詞を省略することもしばしばあるので、それについて質問されることも多いです。

助詞の省略については、コトハジメの別の記事にまとめられています。

助詞の省略について – 日本語教師応援サイト コトハジメcotohajime 

1.2.3 動詞の活用(特に過去形)

中国語には動詞の活用もありません。(それぞれの文法に合わせた漢字を動詞の前後に付け足します。)さらに、過去形については、過去を表す言葉(5年前、など)があれば、それはもう過去のことを述べているとみなされ、過去を示す文法事項等を改めて入れる必要はありません。なので、スピーキングでも、ライティングでも特に過去形は忘れやすいです。

動詞の活用についても、「活用する必要があるのか?」と聞かれたことがあります(笑)

また、活用の規則を覚えるのも少し時間がかかる人が多い印象があります。そして、「○○させられてしまった。」のように、使役受身+過去形等、色々な活用が重なると、どこからどこまでがどの活用に当たるか、判断するのが難しいようです。

1.2.4 敬語

中国語には敬語もありません。ビジネス向けの丁寧な表現はありますが、基本的には年齢の上下によって話し方を大幅に変える必要はありません。ですので、敬語があるだけでなく、さらに敬意のレベルがあり、相手によって使い分けるというのはかなり混乱するようです。

ですが、「いただきます。」や「よろしくお願いいたします。」等、今まで聞いたことのある表現の中に尊敬語や謙譲語があることに気づくと、喜んでくれるので、こういった例を積極的に紹介して、学生さんのモチベーションを保てるようにしていくといいのではないかと思います。

1.3番外編 「!」や「?」はいつ使う?

有標、無標の話とはちょっと違う話になってしまいますが、中国語母語話者にフォーカスした話題を取り上げているので、最近中国語話者の学生さんから受けた質問を一つ紹介します。

「ここに、「~ですか。」と書いてありますが、疑問文ですか?」

このように聞かれて、私は「文の最後に「か」とあるので、疑問文ですよ」と答えたのですが、少しして学生さんの意図に気が付きました。

中国語では疑問文や、強い感情が入った文には、「?」や「!」を付けるんです。文脈によっては、ビジネスメールでも使うことがあります。

私が大学で中国語の作文の授業を受けていた時にも、先生から「中国語では「?」や「!」を使うのは普通のことなので、作文でもどんどん使ってください」と言われ、とても驚いた記憶があります。

あまり知られていない文化の違いなのでは?と思い、紹介してみました。

1.4 中国語母語話者にとって、特に初級の内容は初めてのことだらけ!日本語教師側もそれに寄り添った指導を!

いかがでしたでしょうか?

中国語は漢字を使っているので、中国語母語話者は日本語学習もスムーズだろうと思われがちですが、初めのうちは結構落とし穴があるんですね。

ただ、漢字をたくさん知っているのは大きなアドバンテージで、中級以降になってくると、その強みが最大限に発揮されます。

初級でつまづかないよう、日本語教師としてしっかりサポートしていきたいですね。

 

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