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アニメやマンガを日本語の授業で使うメリット&リスクとは?
学生のモチベーションUPのためにアニメを授業で使いたいが…
先日、コトハジメ編集部にこのようなご質問が届きました。
ご質問(要約)
モチベーションに関する記事(モチベーションは上げるな⁉ ~日本語学習者のドロップアウトを防ぐために~【後編】)を読んで、メールしてみようと思いました。
わたしは現在、海外の公立学校で日本語を教えています。カリキュラムやコマ数の制限もあり、基礎的な段階で挫折してしまったり、興味を失ったりする生徒が多いのが現状です。
こういった状況を打開するために、マンガやアニメを使ってツボにハマるようなレッスンができたらと常々思っておりますが、やり方が分からないでおります。
何かお勧めのマンガや、教授法がありましたら、ぜひ教えていただきたいです。
まずは、ご質問ありがとうございます。書き手といたしましては、読者の方から何かしらの反応をいただくというのはとても嬉しいことです。こんな風に記事を捉えているのか!と新鮮な驚きがありました。また、質問者の文面から、日本語を楽しく勉強してほしい!上手くなってほしい!という熱意を感じました。
さて、今回はこちらの質問に答えていきたいと思います。
私の個人的な見解を大いに含みますので、ご参考程度に…。
アニメやマンガを授業で使うメリット
私自身は、時々プライベートレッスンの文型導入などに、アニメやマンガを使うことがあります。
ただ、アニメやマンガというものは、もともと教材用にあるわけではないので、教授法と言えるほど確立されたものはないんじゃないかと思います。
アニメのような生教材をどのように使うのかは、教師の力量や個性、また使用する目的によって大いに変わると考えられます。
私の個人的なやり方になりますが、学生の好きなアニメやゲーム(今は声優さんの音声&字幕付きのゲームがたくさんあります)でターゲット文型・表現を含むシーン(漫画ならコマ)を一緒に見ます。その後、その文型や表現のformや意味・使い方を確認していきます。
例えば、最近わたしは『SLAM DUNK』が大好きで映画も見に行ったという学生に、このようなレッスンをしてみました。
主人公がヒロインと出会い物語が始まるシーン。ヒロインである赤木春子が主人公の桜木花道に「バスケットは…お好きですか?」と尋ねます。文型としては非常にシンプルですね。
では、なぜ「好き?」ではなく「好きですか?」と聞いたのか。「好き」の前に「お」がつくと、どのような印象になるか。バスケット「が」お好きですか?と言うことはできるか。なぜバスケット「は」と聞いたのか。この時の春子の気持ちは…など、いろいろな切り口で質問し、答えてもらいました。
ストーリーやこの時の二人の関係性、性格をよく知っているので、一生懸命&楽しそうに答えてくれました。
このあと、好きなキャラクターやシーン、推しのチームなどで話が盛り上がり、エラい方向に話が脱線してしまいましたが…。
アニメやマンガをレアリアとして使うこともありますが、いずれにおいても学生が好きなものをさりげなくヒアリングしておくことが必須です。
アニメ等を生教材として使用するメリットとしては、以下の点が挙げられると思います。
- 学生が好きなアニメを使うと、ものすごく喜んでくれる
- 実際に使われている表現だと実感してもらうことができる
- 声優さんの音声付きの場合、リスニングの練習にもなる
- アニメによっては、日本独特の文化・価値観・マナー・季節の行事・学校生活など、言語以外の理解が深まる
- やり方次第では、初級から上級まで対応できる
- アニメやゲームが好きな学生から好かれる
このように、上手くハマるとメリットはかなり大きいです。
アニメやマンガを授業で使うリスク
ここでは「デメリット」ではなく「リスク」という言葉を使いたいと思います。デメリットというより、潜在的なリスクを多く含んでいて、取扱注意なのがアニメやマンガだと思うからです。
以下に考えられるリスクを挙げてみます。
- 学生が知らないアニメだと、背景がわからないのでかえって混乱する
- 楽しさに偏りすぎて、教育的意図とズレが生じやすい
- 実生活ではあまり使われない表現が多く、教材選定に時間がかかることが多い
- 教師・学生ともに、どのような場面で、どのようなキャラクターが、どのような相手に対して話しているかを深く理解している必要がある
- なかなか学生全員が知っているアニメがない。そのアニメを知らない学生が混ざっている場合は、疎外感が生まれる可能性がある
- 教師がアニメに疎い場合は、準備が大変(最低でも何巻に載っているとか、何シーズンに放送されたものかなどを知らないと探せない)
- 著作権など、取扱いに気を付けるべきことが多い
- 教師がアニメ好きじゃない場合は、すぐ学生にバレてかえって場が冷める
一言でアニメといっても…
例えば、「歴史好き」と言っても、いつの時代のどの地域の歴史に興味があるのかは、人によって違うでしょう。
また、同じ「音楽好き」でも、クラシックが好きな人と流行の音楽が好きな人とでは、話が合うとは思えません。この記事を書くにあたって、音楽のジャンルがどのくらいあるのかちょっと調べてみたのですが、なんと1000種類以上にジャンル分けできるそうです。
アニメやマンガも同様で、アニメと一言で言っても、好きな領域が非常に細分化されており、そもそも嗜好という大きなバイアスがかかる分野のものなので、グループレッスンで扱うのはかなり難しいと思います。
私はグループレッスンでアニメを使ったことがありますが、たまたま全員が同じアニメが好きだったから、という条件がそろっていたからでした。
そういえば、私が高校生だった時、英語の先生がスヌーピーの四コマ漫画を授業で使ったことがありました。最後の一コマ(オチ)を想像して英語で言う、という授業だったと記憶しています。誰でも知っているスヌーピーだから授業ができたのでしょう。
ただ、質問者が授業でマンガを使いたい目的は、学生のモチベーションアップということでしたので、このような方法がその目的にかなうのか…ちょっとわかりません。
アニメを授業で使う条件
繰り返しになりますが、授業でのアニメの使用は、上手くハマるとメリットは本当に大きいです。
アニメに限りませんが、好きなもので話が合うと、「もっと知りたい!」「もっと話したい!」「もっと聞きたい!」と意欲も増し、相手への親近感もアップします。
ただ、私は教師が「オタク」であることがアニメを教材に使う条件かなと思っています。逆に言うと、教師がアニメに疎い場合はやめたほうがよいかと…。
アニメを使うレッスンは制限が多いので万人向けじゃないですし、リスクが大きいので軽々しく手を出さないほうが無難だと考えます。
日本語のレッスンはまず文型ありきですが、その文型を使っているマンガのシーン(あ~、たしかあのシーンであのキャラクターがあんなことを言っていたなぁ…)ということを知らないと、そもそも探すことすらできません。
学生が持っているぬいぐるみや、スマホに貼っているステッカーを見て、「それ、〇〇というアニメの◇◇だよね!」とすぐにわかったり、アクションもののアニメに出てくる登場人物の決めポーズをすぐその場でできるぐらいじゃないと、アニメを教材に使うのは大変すぎると思います。
興味がないものを生教材に使うと、授業準備がただの苦行になってしまうでしょう。「あの学生さんは〇〇が好きだと言っていたから、次の文型導入であの決め台詞を使ってみよう!絶対喜んでくれそう!ウフフ」と心躍るのなら、おそらく向いていると思います。
教師がEnjoyできなければ、学生もEnjoyできません。生教材を使うなら、教師側の心もときめいたり、ワクワクするようなものを選んでみてはいかがでしょうか。
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