気になる学生の口癖 日本語教師としてどう捉える?

気になる学生の口癖 日本語教師としてどう捉える?

周りの日本人…何やってたんだ…

コメント:「日本のラーメンおいしいってばよ!」

私:「なんじゃ〜!その日本語は(笑)」

…これは、以前わたしが気まぐれにやってみたライブ配信に寄せられたコメントの一つ。

アニメで覚えた表現をとりあえず使ってみたようです。

ライブ配信をしていると、アニメやドラマで覚えたと思われる表現を使ったコメントがどんどん来るのは面白いのですが、「それ、日常では全然使わないからね?!」「それは、実際に使うと相手を怒らせるからね?分かってる?」というものもあります。

さて、日本語教育の場でも、学生さんの口癖が気になることがあると思います。

言葉が詰まった時に同じ言葉を繰り返す、日本語ネイティブが使わないような口癖を使う、癖が強くて会話が疲れる…このような日本語非ネイティブに出会うと、「これまで彼/彼女の近くにいた日本人は何やってきたんだ!なんで注意しなかった?!」と言いたくなることもあるかもしれません。

しかし、このような口癖は日本人にもあります。といいますか、「なくて七癖」というぐらい誰にでもあるものです。お調子者の私は若かりし頃、朝礼時の上司やお偉いさんの癖を真似して同僚たちを笑わせていました。そういうものまねができるもの、強いか弱いかの違いがあるだけで、誰にでも癖があるからでしょう。

口癖はあって当然!とはいえ、学生さんの中には口癖が化石化してしまい、コミュニケーションを阻害する一因になっているケースがあります。

また、良かれと思って使っていた口癖が、実は相手に悪い印象を与えてしまっている場合もあります。日本語教師としては、黙認できませんよね。

というわけで、今回は学生の口癖をどう捉えるかについて考えてみたいと思います。

口癖は話し始めと語尾に現れる

私は日本語教師の他にも仕事をしておりまして、時折コールセンターの品質調査やコンサルの依頼を受けることがあります。

調査において、オペレーターさんに口癖があったからといって、すぐさま減点対象になることはありません。特に「あの〜」「そうですねぇ…」といったフィラーは、発話者の考えている様子を聞き手に伝えたり、相手の注意を引いたり配慮を示したりする役割もあるため、上手く使えば会話の潤滑油にもなりえます。

ただ、口癖が必要以上に多い、あまりにも単調、耳障りとなっているといった事象が確認できると、会話のリズムが悪くなる、聞き手に負担をかける、といった理由から減点対象となります。

また口癖は、ネイティブであれ非ネイティブであれ、話始めと語尾に現れる傾向があるようです。

日本人の場合、話始めでは「まあ」「あっ」「あの〜」といった癖が多く、語尾では「〜ですね」「~かね」「〜ので」「(伸ばす)」が多く確認できます。

これらが会話の邪魔をし、説明を分かりにくくし、場合によっては相手を不快にさせます。

そもそも口癖は直すべきなのか

根本的な問いになりますが、そもそも癖は直すべきなのでしょうか。直すことの弊害はないのでしょうか。ちょっと考えてみましょう。

①直すのチョット待った!のケース

普段はあまり癖が出ないのに、緊張すると癖がひどくなるなら、直すのはちょっと待った方がいいかもしれません。口癖を出さないように出さないように…と強く意識するあまり、スラスラと言葉が出なくなったり、頭が真っ白になってしまう恐れがあるからです。話すことに恐怖心を抱いてしまったら、本末転倒です。

実際にプレゼンテーションのトレーニングで、口癖を指摘された人を見てみると、良くなるどころか悪くなることの方が多いと感じます。

手でリズムをとりながらHey!You!とパーティーを盛り上げるラッパーは、あの手の動きが封じられると、うまく韻を踏めなくなるそうです。緊張しているときに出る口癖は、この「手でリズムをとる」行為に似ているのかもしれません。

②直すべきケース

会話やプレゼンには、必ずその人の話を聞いている相手がいます。その相手を不快にさせる可能性がある場合は、その口癖は直すべきだと考えます。

また、不自然な癖がいつの間にか化石化しており、本人が気づいていないケースもやはり直すべきでしょう。

具体的な訓練法は?

「なんでもかんでも語尾に“ね”をつけないで。同意を強要されている感じになるから」

「“まぁ”を使いすぎないで。偉そうに聞こえるから」

このような指導は、ほぼ効果がないと思われます。なぜなら、言われた本人に自覚がないからです。

コールセンターでの訓練では、まず自分の通話を聞いてもらい、その後ご本人に課題点を挙げてもらうのがセオリーです。時間的に余裕があれば、ご自身の発話を書き起こしてもらうなど、見える化を行います。

「これはマズイ…こんなにひどかったのか…」と気づいてもらい、自覚が生まれればこっちのものです。どうすれば口癖を減らせるか、どんな言葉に言い換えたらいいかを一緒に考えます。

なお、プレゼンテーションの場合は、録画をとって自分の話し方や立ち振る舞いを見てもらいます。体を揺らして話す、手元の物をいじって話す、といった口癖以外の癖も見つかります。

日本語のレッスンでも、オンラインならクリックひとつで録音・録画できますし、対面レッスンでもスマホさえあえればできるので、労力はそれほどかからないと思います。

日本語教師だからこそできること

これを書いている私自身、自分の話している録画映像を見ると、いろいろな癖が目につきすぎて、記憶を消したくなるくらいです…。

ですから、他人様の口癖を指摘するなんて…と尻込みしてしまいますが、これは日本語教師しかできないことだと思います。

あなたはこれまで自分の口癖を、周りの人から指摘されたご経験はありますか?

おそらくほとんどないと思います。でも、癖は誰にでもあります。「面倒くさい」とか「気まずい」などの理由で、周りの人が指摘しなかっただけのはずです。

口癖を直さなくても、意味が通れば会話自体はできます。でも、「まあ~、意味は分かるから…」と教師がスルーし続けたことで、「なんで教えてくれなかったの!?」と、学生さんからの信頼を失ってしまうかもしれません。

日本語教育のプロとして、学生さんが日本語ネイティブと気持ちの良い会話ができるように、そして関わる日本人と良い関係が築けるように、サポートできたらいいと思います。

今回は、そもそも癖をどう捉える?日本語教師の役割は?ということにフォーカスしてきました。

「じゃあ、具体的に日本語学習者に多い口癖って?」「レッスンの中で気をつけたほうがいいことは?」「学生の口癖を直すときの心理的抵抗を下げるには?」といったもう一歩踏み込んだ内容については、また別の機会にお伝えしたいと思います。

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