日本語教師が病まないために:日本語教師のメンタルヘルスを考える

日本語教師は「心」を使う仕事?!

みなさま、日々のレッスンお疲れ様でございます!いきなりですが、みなさま心身ともにお元気でしょうか?今回の記事は、日本語教師の「メンタル」についてです。

俗に仕事は3つに分かれると言います。肉体労働、知的労働、感情労働です。もちろんきれいに分かれるわけではありませんが、日本語教師という仕事は、感情労働の比重が非常に大きいと感じています。

感情労働は相手の心に向き合う仕事であるため、働くやりがいや喜びが大きい一方で、精神的に疲れやすいという側面もあります。

実際、次のようなお声を耳にすることがあります。

「これだけ一生懸命教えているのに、なかなか上達しない…」

「準備が大変すぎ!また今週末も準備でつぶれちゃったよ!」

「学習が遅れているんだから、せめてちゃんと宿題ぐらいはしてほしいのに…」

「実はこの学生さんちょっと苦手なんだよね…。レッスン気が乗らないなぁ」

「あんなに頑張って勉強してきたのに、またJLPTに落ちてしまった…。申し訳ない…」

「ずっとレッスンを受け続けていたのに、パタっと予約が入らなくなってしまった…。何が悪かったんだろう…?」

「…なんかもう疲れた…」

思い当たるわ~という方がいらっしゃるかもしれないですね。というわけで今回は、日本語教師が燃え尽きずに、長く働いていくためのマインドセットについて考えていきたいと思います。

燃え尽き症候群になりやすい人はどんな人?

燃え尽き症候群とは、責任感を持って仕事に取り組んでいた人が、急激に意欲や熱意を失くしてしまった状態をさします。別名「バーンアウト」とも呼ばれますよね。

以下のような人が燃え尽き症候群になりやすいと言われています。

・報われ感が得られていない人

・共依存の人(人からの感謝・賞賛・評価で自分を満たそうとする人)

・喪失感がある人(例:家族との別れ、引っ越し、子供時代のトラウマ、期待の喪失など)

・「私はこんなに一生懸命やっているのに」と感じている人

・新入社員かベテランの人

・誰かの役に立ちたいと思っている人

・成功したい、結果を残したいと思っている人

・誰かから与えられた夢や目標のために頑張ろうとする人

・休みたいけど休めない人

・男性性が強くなっている人

・自分と他人を比べる人

・仕事依存の人

・心理的援助職(例:カウンセラー)の人

日本語教師は広く括ると心理的援助職だと思います。また、準備に追われ休みたいけど休めないことが多いですし、学生の役に立ちたいと思っている人も多いので、気を付けないといつの間にか燃え尽きている…という危険が潜んでいますよね…。

燃え尽きの傾向をチェックしてみよう

水澤都加佐著『仕事で燃えつきないために 対人援助職のメンタルヘルスケア』に、燃え尽きやすい人の思考のチェックリストが紹介されています。「そう思う」「私の考えに近い」という項目をカウントしていきます。「私は大丈夫!」と思っている人も、ぜひ正の字を書きながらチェックしてみてくださいね。19項目中、何項目当てはまるでしょうか?

□ 失敗をするのは自分の評価を下げることだ

□ 人に必要とされる人間にならなければならない

□ 私がやることに間違いがあってはならない

□ だれかに助けをもとめるのは、自分の力のなさの証明だ

□ だれかにたよられたら、自分をなげうってでも助けなくてはならない

□ 人になにかをたのむのは、借りをつくることだ

□ 意見がちがったときには、自分のほうが正しいことを証明しなければならない

□ つらく苦しいことをのりこえるのが人生だ

□ いつも前向きで明るくしていないと、人にいい印象をもってもらえない

□ いつも積極的に行動することがいいことだ

□ きげんが悪い人がいたら、きげんをよくしてもらうようにすべきだ

□ 意見が対立したら、中に入ってうまくとりもたなければならない

□ とりかかった問題は途中でなげだしてはいけない

□ あまり気乗りしないことでも、根気よくとりくむべきだ

□ 私が正しいことを、だれかに同意してもらわなければならない

□ だれからも好かれて、みとめられるべきだ

□ 私を理解できる人などいない

□ みんなにたよられる人にならなくてはならない

□ なんでも一生懸命やることがいいことだ

いかがでしたでしょうか?この書籍によると、上記の5項目以上にチェックがついた人は「燃え尽き」に要注意だそうです。

ちなみに私は若かりし頃、このチェックリストの項目のほとんどに当てはまっておりました。上司や先輩からも「頼りになるけど、ポッキリ折れないか心配」「もっと肩の力を抜いて」というようなことを何度か言われたことがあります(苦笑)。実際に、凄まじいストレスに晒されていましたし、周りに対して「なんでもっと頑張らないのよ!」とイライラもひどかったです。

病まないためのポイント2つ

では、燃え尽き症候群にならないためにはどうしたらいいのでしょうか?

「自分なりのリラックス法をもつ」や「オンとオフのメリハリをつける」や「誰かに話を聞いてもらう」などいろいろな対策がありますが、今回はマインドセットに関するポイントを2つに絞ってご紹介したいと思います。

①「~べき」が強くなっていないか観察する

仕事で燃え尽きやすい人は、正義感や責任感が強い傾向があります。仕事熱心なのは素晴らしいことですが、以下のような思考のクセは時に自分を苦しめます。

  • レッスン準備は万全にすべき
  • 教師として学生からの質問にはすべて正しく答えるべき
  • 常に楽しく、一生懸命に仕事すべき

また、この「~べき」が他者に対しても働いてしまうことがあります。

  • 学習進捗が遅れているなら、予習復習や宿題をすべき
  • レッスンは集中した環境で受けるべき(たまに移動中や料理中の人がいますからね!笑)
  • 途中で投げ出さずに学習を続けるべき

…など、知らず知らずのうちに他者に要求してしまっていることがあります。

まずは「今、自分を縛っている『~べき』はなんなんだろう?」「この苦しい感じはどんな信念から来ているんだろう?」と、自分を観察するだけでもだいぶ違うと思います。

ちなみに私自身はもともと「~べき」が強烈だった人間なので、今でも自分をときどき縛る「~べき」を観察する習慣があります。

最近「~べき」が強く出たのは、本業の仕事のある新人研修でのこと(あ、言い忘れていましたが、わたしは日本語教師は副業でしております)。研修の最後に、受講者のみなさんに今後の目標や抱負を話してもらいました。

そのとき「プライベートを大切にしたいです」「残業しないで帰ります!」といった発言がチラホラ(笑)

「オーーーイ!税金で研修を受けてそれかよ!」と一瞬怒りのようなものが沸きましたが、「ああ、これは私の中の『~べき』がまた強く出ているな」と客観視することができました。そして価値観の違いとして面白がる余裕が出てきたのでした。

②心の境界線を引く

心の境界線のことを心理学用語でバウンダリーとも言います。「燃え尽き症候群になりやすい人はどんな人?」で前述したように、共依存の傾向がある人は要注意です。人の問題を自分の問題としてしまうので、心の境界線を引くことが大切になるのです。

以下は、相手との間に心の境界線がうまく引けていない状態の例です。

仕事で

  • 自分も余裕がないのに、他者が大変そうだからと仕事を引き受けてしまう
  • 「自分でやった方が早いから」と他者の仕事を取ったり、取られたりする
  • 相手がイライラしていたら、「私、何か怒らせるようなことをしたのかもしれない」と心配になる

夫婦間で

  • お金の使い方を相手だけが決めている
  • 相手が夫婦2人だけの時間をとろうとしてくれない
  • 相手が家事や育児をしてくれない

友人間で

  • 聞いてもいないアドバイスをしてくる
  • 自分を利用しようとしてくる

親子間で

  • 親から価値観を押し付けられた
  • 子供のためになんでもやってしまう

相手の問題は相手の問題であって、あなたの問題ではありません。そして、あなたの問題は相手の問題ではないのです。(これはもちろん他者に関わるなとか、他者を手伝うなということではありませんので念のため)

最後に…

私の知り合いのカウンセラーは「マインドセットは歯の矯正のようなもの」と言っていました。最初は違和感があっても、自分の考え方や言動を意識して調整しているうちに、少しずつだが変わってくる、ということです。

①の「~べき」が強い人が、マインドセットを変えていこうとすると、まるで自分が怠け者になってしまうかのような恐怖心が出てくることがあります。

また、②の「心の境界線を引く」を意識的に行うと、さも自分が冷たい人間になってしまうかのような寂しさを覚えるかもしれません。

これは、歯が一番いい位置に動いていく矯正時に感じる痛みのようなものなんだとか。

「~べき」が強すぎたり、境界線が上手く引けていないと、他者が解決すべき課題に自分から踏み込んでいったり、逆に自分の課題を他人に解決させようとしたりします。

あるいは、周囲の人の感情がネガティブに振れるたびに、自分の感情もネガティブに振れてしまいます。

これではなかなか生きづらいですよね…。これらのマインドセットはメンタルを健康に保つために重要な概念となります。

今回はコトハジメの記事には珍しく、教師のメンタルにフォーカスしてみました。

この記事が心身ともに健康で長く働いていくために、ご自身のマインドセットについて一度振り返ってみる機会になったらうれしいです。

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