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「楽しさ」と「楽しみ」の違いはなんですか?
この2つ、まったく意味が異なるのでびっくりします。学習者は形容詞を名詞にするときに「さ」を使う、と習うのに、サラッと「楽しみ」がテキストに登場するので???となるようです。
「重さ、甘さ、痛さ、うれしさ、新鮮さ、大変さ」など、い形容詞・な形容詞に「〜さ」をつけると名詞になりますが、形容詞の名詞化は「〜み」でもできます。たとえば、「重み、甘み、痛み、あたたかみ、苦しみ」などが挙げられます。
本日は「〜さ」と「〜み」について深堀りしてみましょう。
「〜さ」と「〜み」の特徴
「〜さ」の特徴⇨定量的・客観的
「長さ、重さ、広さ、高さ」のように数値化できるもの、「つらさ、うれしさ、美しさ、大変さ、便利さ」のような程度を表すものを表すときに用います。ほとんどのい形容詞・な形容詞につくことができます。もちろん「シンプルさ、スマートさ、ユニークさ」などのようにカタカナ語でも使えます。GENKIのテキストには「暮らしやすさ」なんていうのも出ていました。
「〜み」の特徴⇨定性的・主観的
「重みのある言葉」「暖かみのある色」「地獄のような苦しみ」「甘みのある塩」「おもしろみのないヤツ」「痛みを感じる」など実際に感じることができる感覚を表すときに用います。「〜さ」と違って、「〜み」には主観的な性質があるようです。「〜み」はどんな形容詞でもOKというわけではありません。ちなみに、レッスンで出てきた時は語彙として覚えましょうと伝えています。
「楽しさ」vs「楽しみ」
さあ、以上のことを踏まえた上で本題の質問に戻りましょう。
たとえば、「スポーツの楽しさを多くの人に知ってほしい」は、「楽しみ」に置き換えると不自然ですね。「仕事のあとの一杯が唯一の楽しみです」も「楽しさ」に言い換えることはできません。
「楽しさ」は多くの人が共通して感じることができる客観的な尺度です。一方の「楽しみ」 は個人的な経験に基づいた主観的評価です。(あれ、そもそも「楽しみ」は動詞「楽しむ」の連用形が名詞化したものですね。「苦しみ、悲しみ、憎しみ」なども仲間です)
でも、これはあくまで「楽しさ」と「楽しみ」の場合で、「重さ」と「重み」など他のことばだったら、また説明が変わってきます。「重さ」は数値化できますが、「重み」は「父の言葉には重みがある」のように心情的なニュアンスがあります。
また、甘味、苦味、辛味などのように飲食物の味を表す場合は「味」と表記することもあります。「〜み」がつく言葉は少ないのに、ニュアンスは色々あってちょっと厄介ですね。
日本人は何気なく使い分けているので、急に聞かれたら戸惑ってしまいます。「〜み」は使える語彙が限られている上に、使い方もニュアンスも難しいです。実感を伴った形容詞の名詞化が「〜み」なんて説明しても「は?」ですよね。わけがわかりません。教えすぎは禁物!前述したように「〜み」がテキストなどで出てきたら、語彙として覚えると伝えるくらいでちょうど良いでしょう。
若者言葉の「うれしみ」「つらみ」「わかりみ」は日本語の乱れ?
若者言葉の「うれしみ」「やばみ」「つらみ」「さびしみ」「しんどみ」、品詞まで変わちゃった「わかりみ」。これらは話し手の心(個人的感情)を言葉で端的に表現したくて、共感・親密感のような意味を込めて使われているような気がします。
若者言葉で一見新しいようだけど、従来の「〜み」の意味用法とさほど違いはないような・・・。そういう意味では、若者の造語力のセンス、感覚でこのようなことばを生み出しているのですから、すごいですね。自分が使うかどうかは別として、日本語の乱れと言って、バッサリ切り捨てるのはもったいないような気がします。
若者言葉の「〜み」を観察したり分析したりする分には面白いのですが、外国人に日本語を教える場合は「感覚で〜」というわけにはいきませんね。余談でした。笑
どうして「どのくらいの短さにしますか」って言わないの?
またまた余談が始まることをお許しください。どうぞゆるりとお付き合いを〜
ある日の雑談@クラス。「英語でも”How big is it? How tall are you?” ですが、どうして小ささ、短さ、狭さ・・・で質問しないのでしょうね。例えば、美容室などでも『かみの長さはどのくらいにしますか』と聞かれますね」
うーん、なんでだろうねと話していたら、他の学習者が「”positive side”だからですか」と。ほぉ・・・これは日本語の質問とはちょっと趣きが異なりますが、興味深いやりとりですね。皆さんも気になりませんか?
学習者とそんな面白いやりとりがあったことを講師室で話したところ、
床屋:どのくらいの長さにしますか?
客 :五分刈りくらいの短さがいいかなぁ。
自分にとっての”positive side”であれば、このような答え方もありですね〜。でも、依頼するときは「五分刈りぐらいの長さにしてください」って言いますね。そういう意味でも、「それは”positive side”だから」と答えた学習者の視点、なかなか鋭いです、と。
ふむふむ。こういう議論ができる仲間がいるというのはありがたいことです!
日本語に限らずですが、話し手は聞き手にとってより有益であると考える語彙を自然に選ぶようです(*ポライトネスの観点から?)。ですから、たとえば聞き手がショートヘアの女性で「短さ」に価値があると話し手が思えば、「今日はどのぐらいの短さまで切ろうか?」となってもおかしくないのです。
わたしも前髪の短さにこだわりを持っています。あ、トイレの狭さも時に落ち着きますよね〜。笑 こうやって自分に落とし込んでいくと納得できます。皆さんもぜひやってみてください。
*ポライトネス(politeness): 人間関係を円滑にするための言語ストラテジー(Brown & Levinson 1987)
それにしても、よく登場するポライトネス、言語はこのポライトネスの観点なしには何も語れませんね〜。
Update 3/10/2023
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