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【素朴な疑問】なぜ日本語の授業でロールプレイをやるの?あたらめて考えるロープレの意義
頭では分かっているのに…
個人的な事になりますが、私がキャリアコンサルタント養成講座を受けていた時の話をさせてください。その講座の期間は約3ヶ月だったのですが、毎回のように…飽きるほど…もうイヤになるほど…ロールプレイをさせられました。
まずは理論を学び、ロープレで練習をし、その後で自己分析をし、仲間からフィードバックを受けたり、スーパービジョン(指導者からの助言)を受けたりする…、というサイクルを繰り返すのです。
…しかし!ロールプレイをしてみると、頭でわかっているはずの理論が全然実践できない!
理論だけでは現実世界では太刀打ちできない!と実感したのでした。
また、ロールプレイをすると講座のメンバーやロープレの相手と回を重ねるごとに仲良くなることや、ロープレの後では他者からのフィードバックがぐんぐん入ってくるのにも気がつきました。
さて、日本語のレッスンでもロールプレイはよくやりますよね。教案の後半に設定されていたり、教科書や教材にロープレの記載があったりするので、「そういうもんだ」と特に疑問にも思わずロープレを取り入れてきました。
ですので、ロールプレイを授業のどのタイミングで入れるのか、何度ぐらい行うのか、どのような点に注意するのか、学生へのフィードバックはどうするのかなど、「やり方」については多少なりとも学んできたつもりです。
ただ、「なぜロールプレイをするのか?」とあらためて問われると、なかなか答えにくいのではないでしょうか。
というわけで、今回はロールプレイの意義・目的について考えていきたいと思います。
ロールプレイの意義は?
①文型が定着しているか確認できる
特に初級の授業の場合、文型導入→意味や使い方の確認→変換・代入などの練習→発表やロープレなどで練習、という流れが一般的かと思います。ここでのロープレで、教師は学生にちゃんと文型が入っているか、使えるレベルになっているかをチェックすることができます。文型がわかっている≒使えるレベルになっている、ですからね。
ある程度のレベル以上になりますと、授業の冒頭でロールプレイをするのもアリかと思います。使いたい表現が使うべきシーンで使えているかをチェックすることができるからです。
ちなみに、私は別の仕事で接客やクレーム対応系の企業研修をさせていただくとき、顧客対応に慣れているベテランの従業員さんには、いきなりロールプレイをしていただくことがあります。そして、ロープレ後にメンバー同士で対応を検討していただき、講師の立場としては、理論的な補足をするのみとなります。初心者の場合とは、逆のアプローチをとるわけです。
②ソーシャルスキルが身につく
文型や表現だけ知っていても、会話ができるとは限りません。実生活の中で行われる会話には当然相手がいるため、適切な返しやリアクションが大切となります。会話中に「えーと…」「うーんと…」と、言いたいことを考えている暇はありませんから、言葉が瞬時に出ないケースも含めて、瞬発的な会話の運び方を磨く必要があるんですね。
適切な返しでいうと、敬語の使い分け、依頼・断り・同意などの言い方の調整など、「場面や相手に応じた適切さ(pragmatics)」を体験的に練習できます。
リアクションとしては、沈黙の使い方やあいづちの打ち方など、日本語特有の会話のリズムを実感できますし、声のトーン、アイコンタクト、身振り手振りなど、言葉以外の部分も含めてやり取りすることができるのは大きな学びとなります。
さらに、役を演じることで、「こう言われたらこういう気持ちになるのか」と、他者の気持ちを想像することができます。役割行動を通して、自己発見や他者理解も期待できるわけですね。
③学習者の満足度が上がる
日本語に限らず、多くの語学学習者は「自由に会話ができるようになりたい!」「自分の思っていることをスラスラ相手に伝えたい!」と思っていることでしょう。
ロープレは、この思いを満たしやすいアクティビティだと思います。自分のことを表現したり、相手に聞きたいことを聞いたりして、会話できる楽しさを実感することができます。
「役をどう演じるか」を学習者自身が考えますから、自分なりの表現や工夫を見つけることができ、教師主導の授業から、学習者主体の学びへの橋渡しにもなります。
そういえば、特に対面でのロープレを見ると、自信がないのか、ずっと自分の書いたメモを見ながらロープレをする学生を見かけることがあります。自分の話すことばかりに集中し、相手の発言を聞く余裕もない、といったところでしょうか。
ここまでの、①文型が定着しているか確認できる ②ソーシャルスキルを身につける ③学習者の満足度が上がる、の意義から考えると、この「メモを読むだけのロープレ」はあまり意味がないように思われます。
まずは口を慣らして…ということならわかりますが、やはり実生活で使えるレベル(カンペを見ずに相手の目を見て、自然なリアクションをする)をゴールにしたいですね。
④クラスの仲が良くなる
グループレッスンの場合、ロープレをするとクラスメートとの仲間意識を醸成しやすくなります。1人ではできないロールプレイをすることで、共感性や支え合いの雰囲気が作られるからだと思います。
どうしても授業では、教師が質問をして学生が答えるということが多くなりますが、他者を知り、関係を深めていくには、相手に興味を持ち、自分から訊く(=質問する)ことがとても大切です。
ロープレにはこの「質問する」が自然に組み込まれています。役割を与えられ、自分とは別の人格になることで、他者との交流が苦手な人でも、役割を通して自然と他者と交流が図られます。
⑤心理的な安全が守られる
役割を与えられ自分とは別の人格を演じることのもう一つの側面として、「これはあくまでも役であって、私自身ではない」という心理的な防衛線を張れることが挙げられます。
つまり、ロール(役割)があることで、心理的な負担や抵抗が少なくなる、ということです。役だから「意地悪な人」や「悩んでいる人」にもなれるわけですね。
冒頭で触れたキャリアコンサルティングの訓練でも、必ずクライアント役の設定(例:上司と折り合いが悪いことに悩む20代男性、予期せぬ離婚により働かざるを得なくなった40代女性、定年退職後も収入がないと困るが就職活動を何からやっていいかわからない60代男性)があり、クライアント役がその人になりきって役を演じます。
架空の人物とはいえ、役があるから困りごとや悩みを相談できるわけで、もし「自分自身のことをコンサルタントに話してください」と言われたら、心理的負担はかなり大きかったことでしょう。
⑥教師が介入しやすい
学生同士のロープレでは、教師が一歩引いたところから観察ができるので、学生のことをより知ることができると感じます。
「ああ、この学生さんは〇〇が好きなんだな」「この学生さんは長く話続けて会話を支配する傾向があるな」「この学生さんは自分からはあまり話さないけど、相手の言うことをよく聞いているな」など、冷静に観察できます。
この観察を元に教師がフィードバックすることも多いと思いますが、例えば「〇〇が好きな人には、こうリアクションするともっといいですよ」「店員さんの役だから、もっとお客様のリクエストを聞くといいですね」「相手はボスなので、ここは尊敬語がいいですよ」といった役にからめたフィードバックをすることもできます。
⑤の「心理的な安全が守られる」にも通じますが、役という枠組みがあることで、フィードバックをする方もされる方も、心理的なハードルが下がるように思います。
とはいってもテクニックも大事
というわけで、今回はロールプレイの意義・目的について考えてきました。
この記事を読んで「やっぱりロールプレイってすごい!どんどんレッスンに取り入れよう!」と思った方…ちょっとお待ちくださいませ。残念ながら、世の中に「万能」はないのです。
私の経験になりますが、「ロープレのペアを組ませたら、対立した派閥の学生同士だったため(知らなかった)、やりたくない!と騒ぎ始めて授業が中断」「そもそも学生にロープレができるほどの実力がなかった」「ロープレをやらずに私語をしていた」など、落とし穴がたくさんあります。
ロールプレイに限らず、日本語のレッスンにおけるアクティビティの意義について考えることで、より目的に合わせたレッスンができるのは間違いないと思います。
ただ、上手く授業を進めるためには、その目的を達成するためのテクニックも大切だな、と思っている次第です。