「キモっ!」からわかった?!【気分】と【気持ち】の違い

「キモっ!」からわかった?!【気分】と【気持ち】の違い

 

最近、韓国人の学生から次のような質問を受けました。

日本語のYouTubeなどを勉強のために見ているが、よく「キモイ」という言葉が出てきますね。それが「気持ちが悪い」の意味だということは調べてわかったけど、じゃあ「気分が悪い」と「気持ちが悪い」の違いは何ですか?

彼女はいま「げんき」13課を勉強していて、そこには「気分が悪い」という表現が出てくるのです。

「気分」と「気持ち」はどう違いますか?この質問を受けることが多いのは圧倒的に韓国人の学生からです。ゆえに誤用も、韓国人の学生が多いと思います。私が韓国語がわかれば、その混乱の理由がわかり、適切な指導や説明ができると思うのですが…(それはかなわず無念)。というわけで、今回は学習者の母語が何であれ、「気分」と「気持ち」がどう違うか、「キモイ」の用法をきっかけにして探っていきたいと思います。

キモイ!orキモっ!の例をみてみよう

「あの人、ずっとこっち見ててキモ!」→知らない人にじっと見られて気持ち悪い
「虫の動画とかキモすぎて見れない…」→昆虫などが苦手で(気持ち悪くて)映像が見られない
「あの人の笑い方、ちょっとキモくない?」→独特な笑い方が気持ち悪い
「自撮り100枚とかキモすぎ(笑)」→友達の極端すぎる行動が気持ち悪い
「そのポーズ、アイドル気取りでキモいよ〜」→友達の自意識の強さが気持ち悪い
「彼氏のラブレター、甘すぎてキモかった(笑)→恋人の手紙がむず痒い(気持ち悪いは照れ隠し?)「そのセリフ、ドラマの見すぎでキモいって!」→友達の言動がドラマチックすぎて気持ちが悪い

例文を横断的に見ていくと、「キモイ」は、対象の言動、外見、状態、状況などを不快に思うときに使うことがわかります。

また感覚や感情表現には使える様態の「~そう」が使えないのにも注目したいところです。

〇彼女は悲しそうだ
✕彼女はキモそうだ →〇彼女は「~をキモイ(気持ち悪い)」と思っていそうだ。

「気持ちが悪い」の意味範囲をみてみよう

「気持ちが悪い」から派生した「キモい」については前項でみたとおり、対象の言動、外見、状態、状況などを不快に思うときに使われます。では、「キモい」と「気持ち悪い」は同じように使われているのでしょうか。

さっそくですが、以下に挙げる「気持ちが悪い」の例文では、どうやら「キモっ!」が使えないようです。

二日酔いで気持ちが悪い。(吐きそうなど、フィジカルな不調)
くつの中もびしょびしょで気持ちが悪い。(皮膚にあたる感触などの不快感)
だれもいないのにへんな音がする。なんだけ気持ち悪いね。(第六感)
レイアウトなどを考えていて、デザインや空間のおさまりが悪くて気持ち悪い(感覚的なもの)

これを見ると、「気持ちが悪い」から派生した「キモい」ですが、両者は完全に同じではありません。つまり「キモい」のほうが意味が限定的なのです。「キモイ」は不快のトリガーが見た目や行動など目に見えるものが多いです。それに対して「気持ち悪い」は体調や感触などの感覚、第六感もカバーしています。

また、「キモい」では不適用だった様態の「そう」が「気持ち悪い」には使えることもここに違いとして記しておきたいと思います。

〇彼女は二日酔いで気持ちが悪そうだ。

「キモイ」からわかる「気持ち」と「気分」の違い

「キモイ」の例文を見ることで、「気持ち」を悪くする、そのトリガーは視覚情報が多いということがわかりました。言い換えると、「気持ちが悪い」の「気持ち」とは視覚情報からの刺激を受けて悪い感情が「する」こと、【瞬間的な感情表現(instant feeling)】であるということも言えるのではないでしょうか。何かを見て「キモっ!」の瞬発力からみても、そういう気がしませんか。

対して「気分が悪い」は何かの刺激(状況・状態)のせいで、悪い感情に「なる」こと。感情の持続状態が続いていることに焦点のある表現であるということが言えないでしょうか。つまり「する(瞬間)」VS「なる(変化および継続)」という時間の感覚を持って、「気持ち」VS「気分」の説明ができそうです。

「気分が悪い」の例を挙げてみましょう。

【乗り物の中で】
A:だいじょうぶ?
B:ちょっと気分が悪いんだ。
→乗り物酔いのため吐きそうなど、フィジカルな不調が続いている。

ちょっと気分が悪いので、早退させていただけますか?
→早退するに値する不調が続いていること

朝から気分が悪くて、食欲がありません。
→朝から、と時間の継続性を述べている

以上は、体調不良(継続的)を表す例文でした。体調不良だけなら「気分が悪い」を使えないこともなく、適用できる意味範囲がオーバーラップしているところでもあります。なので、学生を混乱させないためには、「瞬間」か「継続」か、がクリアにわかる例文から出したほうがよさそうです(「キモイ」の例文は「気分が悪い」には言い換えられないので、そっちの例文のほうがいいのかも)。

それからもうひとつ、「気分が悪い」の意味には心理的な不快感があります。

列に割り込みされたあげく、逆切れされるし。気分悪っ。
今朝は上司に怒られて、(いまもずっと)気分が悪いわ。

身体的な不調には瞬間的感覚か継続的感覚かの違いはあれど「気分」「気持ち」どちらも使えますが、心理的な不快感に関しては「気分」しか使えないようです。

感覚表現の形容詞については「うれしい」と「楽しい」を比較した記事(https://cotohajime.net/ureshii-vs-tanoshii/)にもありますが、まずは「気持ちが悪い」「気分が悪い」の違いについても同じく「瞬間」「継続」というキーワードで整理するのが良さそうです。

まとめ

気持ちが悪い:瞬間的に起きた感情
気分が悪い:継続的な感覚

体調に関しては、「気持ちが悪い」「気分が悪い」どちらも使えるが、文脈によってより適切なほうはありそう。「気分が悪いので、早退してもいいですか」など、早退する理由になるべくは「気分」という継続性のある語彙が適切。

「キモイ」と「気分が悪い」は言い換えられない。

 

 

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