Contents
【どうしてる?】日本語レッスン中の学生の愚痴・悪口
そんなに日本(語)がキライならさぁ…
「そんなに日本がキライなのに、なんで住み続けるの?」
「毎回日本語の難しさをグチるけど、なにゆえ勉強を続けている?」
「周りの日本人は悪人しかいないの?あなたから悪口しか聞いたことないんだけど…」
ひょっとしたら、こんな学生さんにウンザリしてしまっている方もいらっしゃるかもしれませんね。実際、私の周りにも、毎回のように日本社会や日本人の悪口・愚痴を言っている学生がいるにはいます(苦笑)
こんな時、どうしていますか?
悩みがあるのだろうと真剣に話を聞く?「また始まった…」と適当に流す?一緒になって愚痴る?さっさとレッスンに戻る?
今回は、教師にとってもストレスになりやすいテーマである、学生の愚痴・悪口について考えていきたいと思います。
愚痴を言うのは信頼の証?
「愚痴」や「悪口」には良いイメージがありません。でも、学生が日本語教師に愚痴を言うのは、必ずしも悪いことではないと思います。近寄りがたい人や嫌いな人とは、たとえ愚痴や悪口であっても、コミュニケーションをとりたいとは思わないものです。ですから、学生が教師に愚痴や悪口を言うのは、「言っても大丈夫な人」として心を許しているということでしょう。
学習の難しさ、生活上の不安、異文化適応のストレスなどは、多くの学習者が抱える悩みです。教師にそのようなネガティブなことを言えないような雰囲気があるのは、レッスンを続けていく上で良いことだとは思えません。
かくいう私も、長くレッスンを続けてくれている学生さんには、時々日常のあれこれをボヤくことがあります。カッコつけて言うと「自己開示」をしているわけです。
ただ、「いつも愚痴」「毎回のように悪口」というのは、教師に心を許しているのとはまた違う意味があるように思います。
我慢して聞かなければいけないのか
教師にとって学生は「お客様」でもあるので、特に信頼関係ができるまでは、愚痴でも悪口でも基本的には耳を傾けるべきかと思います。
でも、学生の悪口・愚痴が「毎回」「いつも」となると、ネガティブなことを言うことでしかコミュニケーションがとれない(愚痴が癖になっている)タイプかもしれません。
学生が周りの日本人とコミュニケーションを取るときに、ネガティブなことばかり言っていたら、周りの人から好かれたり信頼されたりするのは難しいでしょう。
また、1対1のプライベートレッスンならともかく、他の学生もいるグループレッスンでは、場の雰囲気が悪くなり、学習意欲を下げてしまう恐れもあります。
それから、教師を自分のストレス解消のための手段や道具にしている可能性もあります。
私たちは、教師である前に一人の日本人です。毎回のように自国の不満や自国民の悪口を聞かされては、おもしろくはないでしょう。「今日も愚痴や悪口を聞かされるのかぁ」と思いながらレッスンをするのは、教師の精神衛生上、良いことだとは思えません。
特に他者とのコミュニケーションにおいて、ストレスをためやすいタイプの方は注意が必要です。
人間関係においてストレスをためやすいタイプ
他者との関係において、特にストレスをためやすいタイプがあると言われています。
以下は、労災病院のメンタルヘルスセンター長であり心療内科医である山本晴義氏の著書『交流分析であなたが変わる!心の回復6つの習慣』から一部抜粋した質問です。
次の質問に、はい(〇)、どちらでもない(△)、いいえ(×)でお答えください。集計方法は〇が2点、△が1点、×が0点で計算し、合計(0〜20点)を出します。
1.人の気持ちが気になって合わせてしまいます。
2.人前に出るより、後ろに引っ込んでしまいます。
3.よく後悔します。
4.相手の顔色をうかがいます。
5.不愉快なことがあっても口にださず、抑えています。
6.人に良く思われようと振る舞います。
7.協調性があります。
8.遠慮がちです。
9.周囲の人の意見に振り回されます。
10.自分は悪くもないのに、直ぐに謝ります。
上記はAC(アダルトチルドレン=順応した私)の性質を表しており、合計点が高いほど、この性質を強く持っていると考えられます。幼少期に親の影響や期待を受けて「いい子」になって周囲に合わせようと努力している部分で、人が本来持っている自由な欲求や衝動を押さえつける力となっています。
気配り上手で我慢強いという長所がある反面、他人に気を遣いすぎてストレスが溜まり、心身の不調が出やすい傾向があります。
この本の著者の診療室を訪れる3分の2は、このACが高いタイプの人だそうで、内心で周りの人間に反発を覚えていることが少なくないのだとか。
適切に自己表現をしよう
ACが高いタイプの方の訓練方法として、あくまで一例ですが、以下のようなものがあります。
・「私はこう思う」と自分の考えを伝える練習をする
・これ以上は譲らないというポイントを決める
・自分がイヤだと思った会話に加わらない
・冷静に話を分析しながら聞いたり質問したりする
・冗談やユーモアなどポジティブな会話を心がける
詳しく学びたい方は、「交流分析」や「アサーション」などの書籍を読んでみたり、トレーニングを受けてみてもいいでしょう。
なお、「言いたいことがなかなか言えずに、自分を押し殺してしまう…」という方向けに、以前このような記事を書きました。よろしければご覧ください。
「なんで分かってくれないの!」そんな時どうしてる?自分のコミュニケーションの傾向を知ろう【①セルフチェック編】
教師だって人間だもの、学生との関係で悩むことだって当然あると思います。
相手はコントロールできませんが、自分の考えや態度を変えることは可能です。
相手を責めたり、回りくどく言って察してもらおうとしたり、皮肉を言ったりするのは逆効果になることが多いです。もちろん我慢し続けるのも良くないです。
「日本社会」や「日本人」と大きな括りで悪口を言われた時、まるで自分が攻撃されたり、ばかにされたりしたかのような感覚になるかもしれません。でも、個人的に受け止めずに、一線を引くことが必要です。
また、「それを聞いて私は悲しい気持ちになりました」「あなたが楽しく日本で暮らせることを願っていますよ」と自分の気持ちを主語にして(I メッセージ)、自分がどう感じ、どう思っているかを適切に伝えることも、時には大切でしょう。
悪口を言われたら、「お!それを日本語で言ってみて」「ぴったりの表現があるから紹介するね!」と語彙習得の機会にするものいいですね。ちなみに、私が最近ある学生に紹介した言葉は、「自業自得」です(笑)