アニメを日本語クラスで使う 第2弾(後編)
~おすすめのアニメと実践例~
今回はアニメを日本語クラスで使う第2弾の後編です。
前編では、アニメに疎い学生も混ざっているクラスでグループレッスンをする場合の条件について考えてきました。
アニメを日本語クラスで使う 第2弾(前編) 〜教材に向いているアニメの条件は?~
今回は、おすすめアニメ4選と実践例をお届けしたいと思います。前編に引き続き、私の体験談ベースのクセの強い内容となりますことをご了承くださいませ。
おすすめアニメ4選
前編で、「どんなアニメが教材に向いているか」のポイントを7つ挙げてみましたが、実際にはそのすべてを満たすアニメとなると、かなり少なくなってしまうのが現実です。
①「ストーリーが単純&人間関係がシンプル」と、②「一話完結型」であることは「必須」だと思っていますが、③〜⑦は「できれば」といったところでしょうか…。
定番の『ドラえもん』や『ちびまる子ちゃん』などは条件を満たしはしますが、内容がちょっと子供向けすぎる気がするので、私は使ったことはありません。
ここからは、実際に私が授業で使ったアニメと、おすすめする理由をお伝えします。
1.『SPY×FAMILY』
今日も帰宅途中で、可愛らしい「アーニャさん」ストラップを鞄につけた人を見かけました。「アーニャさん」は、累計発行部数3800万部を誇るこの大人気作品のメインキャラクターです。
今や、TVアニメ・ゲーム・映画・舞台と裾野を広げ、そのコスプレしやすいキャラクターファッションも追い風となり、アメリカ、シンガポール、インドネシア、ベトナムなど、世界中で人気があるようです。
アニメ『SPY×FAMILY』公式サイト アニメ『SPY×FAMILY』
「父(スパイ)×母(殺し屋)×子(エスパー)×ペット(未来予知犬)」という、日本語学習の教材としては最強の組み合わせの登場人物。このキャラクターたちが「仮初の家族」を築き、家族としての普通の日常を送るために、日々のトラブルと奮闘するホームコメディとなっています。
注意点は、「舞台が日本ではない」「アーニャの話し方が文法的に崩れている」「心の声が多いので、聞き取り練習としては会話シーンを選んで使う必要がある」ということでしょうか。
実践例は後述するとして…余談ですが、私語をしている学生に「ノット エレガント!」(アーニャさんの担任の先生の口癖)と注意すると、学生たちが爆笑していました。角を立てずに注意するときに便利です(笑)
2.『クレヨンしんちゃん』
もうこれは説明不要のアニメですね。特にアジアでは認知度が非常に高く、今のところ、このアニメを知らないアジア圏の学生さんに出会ったことがありません。
そしてこれまた、登場人物が「父×母×子×ペット」の普遍的な組み合わせです。
一話あたりが7分前後と短いので、授業時間が余りそうな時などに、リスニングの練習として使うことがあります。
少し前に、中華圏の学生のクラスでこのアニメを見せてみたのですが、今では放送禁止になりそうな「ケツだけ星人」や「ぞうさん」のシーンで、みんな爆笑していました。
私が一生懸命考えたジョークでは笑わない彼らが、しんちゃんの下ネタで笑っているのを見ると、複雑な心境になります。。悔しいですが、下ネタがウケることは世界共通なのかもしれません。
注意点は、しんちゃんの話し方が独特なこと、下ネタ・時代感覚が古い回も多いため、使う回を慎重に選ぶ必要があることでしょうか。テーマ別に選べば、非常に強い教材になりえます。
なお、現在一部がYouTube上で公開されています。
【クレヨンしんちゃん厳選】シロが行方不明だゾ《アニメ公式》 – YouTube
【クレヨンしんちゃん厳選】父ちゃんのマユゲがないゾ《アニメ公式》
3.『極主夫道』
主人公は“不死身の龍”と呼ばれる伝説の極道。足を洗った龍が、妻&娘&猫と平穏に暮らし、家事に命をかける“専業主夫”とて忙しい毎日を送る…というアットホームな?任侠コメディです。
イカつい表情に真っ黒な服装、体には立派な入れ墨…。日本の極道ものは海外でも認知度が高いようで、このアニメを知らない人でも、入りやすいかと思います。
いかにも裏社会の人間の匂いをプンプンさせている主人公ですが、実は調理・洗濯・掃除を始めとする家事やそれに用いる道具から、近所のスーパー特売や商店街に町内会、地域のイベント情報に通じた家事全般の達人。この見た目とのギャップが、本作品の面白さです。
元ヤクザ稼業の隠語や所作が抜け切っていないので、一般市民とのコミュニケーションに大きな乖離があり、笑いを誘います。
アニメ版は津田健次郎さん、ドラマ版は玉木宏さんが主人公を演じており、お二人ともさすがの演技力。
ただ、いかんせん関西弁のキャラクターであり、隠語も多いため、リスニング教材として使う場合は上級者向けです。極道表現は「使う日本語」ではなく、「聞いて分かれば十分な日本語」であり、「教えない日本語をあえて見せる」という高度な教育的意義につながります。
まぁ…多少日本語がわからなくても、町内会の集まりや、買い物といった日常のシーンがベースなので、映像から理解しやすく、何より「顔芸」でだいたい伝わるので、なんとかなるでしょう(笑)
物語構成がショートストーリーの連続のため、一部のシーンだけ切り取って使うことも簡単にできます。
ちなみに、私の推しはスーパーで働いている「姉御(いわゆる極道の女)」で、この人も世間からズレています(笑)
ダイジェスト版はYouTubeで一部視聴ができます。作品の雰囲気が分かると思います。
(アニメ版)
専業主夫の妻を喜ばせる方法 | 極主夫道 | Netflix Japan
(ドラマ版)
4.『新しい上司はど天然』
最後に、リーマンものをご紹介します。作者が2018年よりTwitter(現X)上にアップしていたものがバズり、単行本化され、ついにはアニメ化したという異色の経歴を持つアニメです。
先にご紹介したアニメと比べると知名度は劣りますが、SNSに投稿していたものが元ということもあって、ショートストーリーで内容も分かりやすく、教材として扱いやすいです。
笑いが穏やかで、テンポも落ち着いているため、盛り上がり系のクラスより、落ち着いたクラス向けかと思います。
敬語やビジネス表現の意味と使い方の確認、聞き取り練習に良いアニメです。というのも、主人公の「桃瀬君」が話す敬語は、教科書通りで聞きやすく、変な癖がないからです。
桃瀬君は、上司に対してはちゃんとした敬語を使いますが、同期や上司のペットには「タメ語」を使うので、敬語を使った場合の相手との距離感や、使う場面のイメージがしやすいのもオススメするポイントです。
また、誠実な好青年である桃瀬君の会社での立ち振る舞いは、日本のビジネスマナーの理解の助けになるでしょうし、「新人」「企画書・報告書」「パワハラ」「広報」「主任」「広告代理店」「取引先」「直帰」など、仕事をする上で知っておいた方が良い単語も同時に学ぶことができます。
ちなみに、メインキャラクター4名の出身地が、それぞれ北海道・秋田・京都・沖縄なのですが、ステレオタイプ的な性格で描かれています。このアニメの延長で、「地域性と性格」の話をしても有意義な活動になります。
この作品のアニメとしての魅力は、桃瀬君の上司である白崎主任の「ど天然さ」。仕事ができて優しくて面白い!そんな主任と、拾い猫「白桃ちゃん」のツンデレに癒されること間違いなしです。
「使役受身」の導入に使った実践例
次に、実際に授業でどのように使ったのか、一例をシェアさせていただきます。
アニメは、授業の目的、学生の嗜好、教師の個性などによって、いかようにも応用できる可能性を秘めており、教師の数だけやり方があると思います。あくまで一例として参考にしていただけると幸いです。
こちらは私がザックリ書いた教案です。
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・学習範囲:『中級へ行こう』第9課 学項4
・文型:使役受身
・このアニメを使う目的:
①使役受身は「自分の意思に反して何かをさせられる」というニュアンスが重要だが、これは文法説明だけでは伝わりにくい。表情・動き・感情が視覚的に分かるアニメは、その理解を強力に助ける。
②使えるようになりたい!とモチベーションUP
・学生のレベル:すでに使役・受身は学習済みだが、定着しているかはアヤシイ
・使用するアニメ:『SPY×FAMILY』24話「ボンドの生存戦略」(約10分)
・授業の流れ
①タイトルを見せる(このアニメを知っている?見たことある?)
②簡単に登場人物の名前と性格を伝える(板書しながら説明)
父(ロイド):医者 スパイ 料理が上手
母(ヨル):公務員 殺し屋 料理がすご~く下手 食べたら死にます笑
子(アーニャ):今回はほとんど出てきません
犬(ボンド):未来がわかります
③アニメを最初から流して、3:40のところで一時停止
ロイドさんは料理が上手ですね。だから、ボンドはロイドさんのごはん(エサ)が食べたいです。でも、ロイドさんは仕事に行きました。いません。ヨルさんがごはんを作ります。ヨルさんはボンドに「食べてください!」と言いましたね。
板書:ヨルさん( )ボンド( )ごはんを(食べ )。
なんですか?(答えさせる)。「ヨルさんはボンドにごはんを食べさせます」ですね。でもヨルさんは料理が下手ですね。食べたら死んでしまいます。ボンドは食べたくないです。でも…?
板書:ボンド( )ヨルさん( )ごはんを(食べ )。
なんですか?(答えさせる)。「ボンドはヨルさんにごはんを食べさせられます」ですね。『みんなの日本語』で勉強しましたね。
(以下略)
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学生の反応ですが、まずタイトルを見せただけで「アーニャさん!」と目をキラキラさせる人もいました。このアニメを見たことがない学生もいましたが、キャラクターを紹介すると興味をもってくれた様子でした。
この回は、犬のボンド視点で話が進み、動きや表情だけで使役受身のニュアンスが伝わります。ボンドの「ガーーーーン」という表情がどアップになったときは笑いが起こりました。
使役受身のニュアンスをアニメで理解した後は、変換練習や文作・会話練習などをする流れとしましたが、導入がスムーズだったので、この日は上手くいきました。アニメ様様♡でした。
教師も楽しむこと
実は私はこの記事を書きながら、「あ!あのアニメも紹介したい!」「あのシーンもおすすめだな〜」とワクワクが止まりませんでした。記事タイトルを「おすすめアニメ50選」にしようかと一瞬思ったぐらいです。永遠にこのテーマで書ける気がします…。
こうして考えると、アニメに限らず、野球・歴史・家庭菜園・ペット・仕事など、
自分の「好き」を授業につなげられるテーマは無限にあるのだと改めて感じました。
以前の記事(日本語クラスでの生教材の扱い方:アニメやマンガを使うメリット&リスク)にも書きましたが、アニメを授業で使うのは、やはり準備がそこそこ大変です。
授業は目的や目標があるので、楽しいだけではダメですが、アニメ教材に限らず、教師が準備を楽しんでできるかどうかは、この仕事をする上で非常に重要だと私は考えます。
自分の興味がある分野と日本語教育とが結びつくと、教師の「創意工夫したい欲」が満たされます。(もちろん学生第一なのは言うまでもありませんが。)
そして、教師の嗜好や能力、個性や人生経験が生かせるのが、この仕事の魅力だと思います。
学生と教師が共に Enjoy Learning するためにも、皆さんの素晴らしい個性を、ぜひ授業の中で生かしていただけたら嬉しいです。
この記事が、その小さなヒントになれば幸いです。

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