上級から超級を目指す — SJPTから考える日本語スピーキング教育

上級から超級を目指す — SJPTから考える日本語スピーキング教育

はじめに

みなさんは、SJPT(Spoken Japanese Proficiency Test)というテストをご存じでしょうか。これは韓国で実施されている、日本語のスピーキング(話す力)を評価するための試験です。このテストのことを、私は寡聞にして知らなかったのですが、今回たまたまプライベートレッスンを担当することになった学生を通して知ることとなりました。

担当の学生は、既に上級話者ではあるものの、最近このテストのレベルを一つ上げることを目標に学習を始めました。そして私は彼女とのレッスンを通して、「上級話者」とは何か、そして日本語教師として上級者には何が教えられるのかについて大いに考えることになるのです。というわけで、今回はその気づきと、上級から超級へのレベルアップに必要な視点および学習法について共有したいと思います。

SJPTとは?

まず、SJPTがどのようなテストなのか簡単に説明しましょう。SJPTはSpoken Japanese Proficiency Testの略で、YBMという韓国の教育・語学サービス企業によって研究・開発された、日本語の話す力を測定するための試験です。CBT(Computer-Based Test)方式で、受験者はパソコンを使って画面に提示される質問に音声で回答します。すべての回答は録音され、後日、評価者が採点を行います。

試験は 7つのパートで構成されており、自己紹介、絵を見ての応答、日常的な説明、意見の提示(ある社会問題について自身の意見や対応を述べる)、状況対応(謝る、依頼するなどのタスクに対応する)、ストーリー構成(4コマ漫画を時系列で説明していく)といった多様な形式の問題によって総合的な会話力を評価します。各パートは回答準備時間と応答時間が厳密に定められており、単語だけでなく完全な文章で答えることが求められます。

SJPTの特徴的な点は、スピーキング力だけに特化しているということです。一般的な日本語資格試験の多くが、読む・聞く・書くなどを含む総合的な力を測るのに対して、SJPTはまさに「伝える力」を一つの尺度として評価します。これは特に、ビジネスや実社会でのコミュニケーション能力を示す指標として利用されることが多いとされ、一定レベル以上になると企業などでも評価基準として活用されるケースがあるようです。

評価は Level 1〜Level 10 の10段階で示され、数字が大きいほど高度な話す力を示します。上位レベルになるほど、語彙・文法・流暢さ・発音・内容の質が高く求められており、ある意味「超級」と呼べるような高度な運用力も期待されています。ちなみに私の学生の現在のレベルは7、これを8に引き上げようとしています。

上級は教える側にとって何が難しいのか

教師として上級話者を教えるとき、最も注意すべき点は「講師が学習者にとって、ただの会話相手になってしまうこと」です。これは一見、自然な会話練習を行っているようにも見えますが、評価軸がないまま行う会話練習ほど、意味がないものはありません。また、学習効果も測定できないので、学生の大事な時間とお金を無駄にさせているということになります。どのレベルでもそうですが、とくに上級者場合、個人が持つ欠点は、明確な評価基準なしには見えなくなるものです。

例えば、単語の豊富さや複雑な文を作れることなどは、既に上級者であれば備えている能力ではありますが、状況に応じた言い換えの選択や、曖昧な質問に対する即時応答の質、発音の微細な違いに基づく誤解の回避といった要素は見落とされやすいポイントです。これらは、ただ話しているだけでは明らかにならず、教師側が明確な観点を持って意図的にフィードバックしないと改善しにくいのです。

超級へ必要なこと — 「話せる人」から「伝わる人」へ

では「話せる」と感じさせるレベルから、「超級」と呼べるレベルに到達するためにはどのような視点とトレーニングが必要でしょうか。

まずは「流暢さと自然さ」という指標です。これは、単語や文法の知識が豊富であるだけでなく、言い換え・つなぎ表現・情報整理をリアルタイムで行いながら話す力です。また「柔軟な対話力」も求められるポイントです。相手の発話を正確に読み取って即時に返答を構築する能力は、いくら上級者といえども難しい部分です。また、「文化的コンテキスト」を理解し適切に反映することも、単なる文法知識以上の力を要します。

例えば、試験内にある「意見提示」の問題パートでは、単に意見(賛成か・反対か)を述べるだけでなく、根拠を示し、他者の視点を統合しながら構造化して話すといったスキルが重要です。こうした能力は、単語や文法を反復するだけでは身につかず、論理構成や対話戦略のトレーニングが不可欠です。

授業の具体例

以上、ここまでは主に理論(理屈)について述べてきました。理論をふまえた上で、大事になってくるのは、その理屈をどう授業の中で体現していくか、です。というわけで、私が実際にこれまでどのようなレッスンやってきたかの具体例を挙げていきたいと思います。

現在は、学生のリクエストにより「意見の提示」というパートを強化する授業を行っているので、以下はそのタスクに則った構成になります。

◎レッスン時にも、テスト時と同じ環境を再現する(問題はすべて初見、30秒で考え、50秒で答える:時間厳守)
◎学習者が話している間に講師がチェックすべき項目
・文法/語彙の明らかなミス
・不明瞭な発音や不自然なイントネーション
・適切かつ高度な接続詞が使えているか(「だが」「しかし」ではなく「一方」「とはいえ」など)
・(いかにも母語からの直訳?と思われる)日本語としては不自然な構成の文
・全体的に何を言いたいかわからない、論理の破綻など
◎フィードバック(単なる間違いの指摘にとどまらず、better→bestな解答を学生と作る)
◎もっと言いたかったが、言えなかったことはなかったか聞きだす(全体のブラッシュアップ)
◎もう一度、全体を通して言い直させる(後日同じ問題を再度やってみるのも良い)
◎講師の回答例もあれば共有する(学生に音読してもらう)

おわりに

上級話者を「話せる人」から「伝わる人」へと引き上げるためには、教師・学習者の双方が明確な評価軸と目的を共有することが重要です。SJPTのような実践的なスピーキング評価を指標として活用することで、上級から超級へ進むための道筋がより具体的になります。単なる知識の拡充だけでなく、コミュニケーション体験を通じた運用力の深化こそが真のレベルアップにつながるのです。

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