日本語音声基礎 3.特殊拍
拍の指導について
学習者の発音で「あれっ」と思ったら、、、音声学の知識を使って、目標音との違いを分析します。コミュニケーションに支障がないのなら、そのままにしておくのも一考です。ただ先日、私のクラスの学習者(英語母語話者)の宿題をチェックしていたら、「きようび、かれし と ビル を のみました。それから、らめん を たべました。」と。う〜ん、これはちょっと問題ですね・・・。こういった場合は、どこかのタイミングで指導が必要です。学習者の発音に問題がある場合、以下のような原因が考えられるので、何が問題かを明らかにしておく必要があります。
- 母語に存在しない概念(音韻知識)なので、発音を区別していない。
- 聞き分けられないので、発音もできない。
- 聞き分けられるが、調音上の問題で発音ができない。
この学習者の場合は2が原因でした。原因によって指導方法は変わってきます。
特殊拍
英語母語話者に限らず、どの国の日本語学習者でも苦手なのが特殊拍です。特殊拍とは促音「っ」・長音「ー」・撥音「ん」という音です。どれも1拍の長さを持つ音なのですが、十分に伸ばしていない(休んでいない)ことが原因で、不自然に聞こえたり、別の言葉に聞こえたりしてしまうことがあります。
また、文型「〜てください」を扱う際、よく問題になるのが「着てください」vs 「聞いてください」、「来てください」vs「切ってください」です。これらが全て同じように聞こえてしまうことがあります。聞いている学習者も講師も???ということもしばしば。
最初にも述べましたが、母国語にない概念は違いがわからないし、音も聞こえないし、当然発音もできません。「特殊拍の有無によって意味が異なる」ということを理解すれば、練習次第で聞き分けられる(認識できる)ようになります。そして、意識することで少しずつ言い分けられるようにもなります。
それでは、3つの特殊拍をそれぞれ見ていきましょう。
長音「ー」
日本語は「おばさん」と「おばあさん」、「ビル」と「ビール」、「ちず(地図)」と「チーズ」のように長音の有無で意味が弁別されるという特徴があります。まずは学習者自身が長音がある語とない語では意味が変わることを認識する必要があります。
ちなみに、英語には長音はありません。ただ、長音として発音されやすい音とそうでない音があります。英語の場合、アクセントの置かれた母音は音の長さが長く、ピッチが高く、音質も変わります。しかし、それで意味が弁別されているわけではなく、長音を短く発音しても問題なく理解されます。
日本語の言葉は長音がとても多いです。長音は同じ母音が2つ連続するときの音です。この長音自体に1拍分の長さがあります。例えば、この「多い(おおい)」、発音するときは「おーい」と発音します。また、「おとうさん」、「せんせい」などの[ou]、[ei]も、実際には[oo]、[ee]と発音し、長音として扱います。
促音「っ」
促音の場合も、「さか(坂)」と「 さっか(作家)」のように「っ」の有無で意味が弁別されるという特徴があります。この促音にも1拍分の長さがあります。
促音を発音するときはのどが一瞬閉じます。「うっ」とのどが詰まるような感覚です。「促音」の「促」という言葉は「つまる」という意味があります。
ちなみに、英語のmix [míks]、 stop [stɑ́p]はカタカナでミックス、ストップと書きます。でも、この英語の発音記号を見ると「っ」の要素はどこにもありません。英語には促音も存在しません。ただ、英語にも”what-time”とか”Uh-oh”のような「っ」に似たような音はあります。この感覚を指導の際に利用するのも一つの方法です。
<リズムを使った発音練習>
特殊音における発音の問題は持続時間が短いという点です。そこで、リズムを使った方法で練習をします。
ただ、1拍1拍はっきり区切りすぎると不自然なので、1音節で「タン」と区切ります。そうすることで、より生き生きした音に聞こえます。手を叩いてリズムを示したり、ジェスチャーなどで示したりすると感覚が掴めるでしょう。
▶︎長音
「ビル vs ビール」「ちず(地図)vs チーズ」 タ・タ vs タン・タ
「おばさん vs おばあさん」 タ・タ・タン(タン・タン*) vs タ・タン・タン
( *2拍ごとでまとめるとより自然に聞こえる)
▶︎促音
「きて(来て)vs きって(切手)」「さか(坂)vs さっか(作家)」 タ・タ vs タン・タ
撥音「ん」
撥音も1拍分の長さがあります。これも十分な持続時間が保てず「本を読む」が「ホノヨム」になったり、「二千円」が「にせねん」になったりします。 ただ、この問題の原因は拍だけではありません。
「ん」の後ろに「あ・い・う・え・お」の母音、半母音の「や行」と「わ」がくるときに、「ん」の発音が鼻母音になることが根本的な問題です。少し極端ですが「にせーえん」「ほーをよむ」と発音させたほうが自然に聞こえます。
日本語の「ん」の音は1つの音しかないと思っている方も多いと思いますが、日本語の「ん」は後ろにくる子音によって音が異なります(異音)。できるだけ楽に発音するために、次の音の準備をするためです。表記の上ではどれも「ん」なのですが、[N] [n] [m] [ŋ] [ɲ]とさまざまな音があります。(撥音の「ん」については、またいつかどこかで・・・)
*促音のところでは触れませんでしたが、実は促音にも異音があります。表記上すべて「っ」と書きますが、実際の発音は [p][t][k]と変化するものがあります。例えば、「一本(いっぽん)」「一点(いってん)」「一回(いっかい)」などです。
参考:拍と音節
拍・・・拍「モーラ(mora)」とはリズム上の単位のことです。1拍が同じ時間的長さを持ちます。
俳句や川柳を詠むときに、「ふるいけや」と指を折りながら数えると5ですね。つまり、5拍です。英語・中国語・韓国語は拍(モーラ)を持たない言語です。
音節・・・音節「シラブル(syllable)」とは母音を中心とした音を区切る単位のことです。
例えば、「おとうさん」。拍は5拍です。これを音節で分けていくと「o」「tō」「san」の3つになります。「おとうさん」は5拍3音節になります。もう一つ、カタカナ語で例を挙げます。バレンタインは6拍「バ・レン・タ・イン」で4音節です。ちなみに、英語だと[val・en・tine]で3音節になります。
Customer Reviews
Thanks for submitting your comment!