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日本語教師の先輩体験談~スロバキアで日本語を教える~
今日は、スロバキアで日本語を教えていたCさんに体験談を伺いました。編集部もスロバキアの日本語教育事情について知識がないので、まずは基本情報からお話しいただきました。
ちなみに写真はペルニークというスラブのお菓子で、この写真もCさんの提供です。
スロバキアの日本語教育事情
古き良き時代のヨーロッパの雰囲気が残るスロバキアの日本語教育事情をご紹介します。
中等教育機関(ギムナジウム、日本でいう高校レベル)
かつては数こそ少ないのですが、ギムナジウムなどで日本語講座を放課後のクラブ活動の一環として取り入れているところもありました。現在は残念ながら存在していないようです。(2016 年度国際交流基金の情報による)
高等教育機関(大学)
2020年現在スロバキアにおいて日本学科があるのは首都にある国立コメニウス大学のみです。博士課程まであります。
日本語教師はスロバキア人数名と民間日本語教師派遣団体ICEA(International Cross-cultural Exchange Association)の日本人講師1名です。日本人講師の報酬はありませんが、宿舎と光熱費は提供されます。ただし応募には修士号以上の学歴が必要です。
その他の教育機関
一般市民向けの語学学校や文化センターなどが各地にあり、日本語の授業が行われています。
近年はポップカルチャーへの関心からか特に中高生の学習者が増えています。
日本から教師を招聘するとコストがかかるため現地採用がほとんどです。
スロバキアの人が日本語を 学習する動機
大学でも将来のビジネスの為に日本語を学んでいる人は少数派です。スロバキアには日本企業があまりなく、大学を卒業しても日本語を使う職業に就く学生は少ないです。卒業生の中には日本へ留学し、研究者を目指す人もいます。
語学学校では、ポップカルチャーや武道をきっかけに興味を持って日本語を学んでいる学習者が多いです。
日本語教師としてスロバキアに渡る準備
スロバキアのビザ
2020年現在、日本で必要書類をそろえ、渡航後スロバキアの現地警察の外事課で滞在許可書を取ります。
在日本スロバキア大使館では今年から取得できないとのことです。
スロバキア語
若い世代、都市部のカフェやレストランでは英語が通じますが、公的機関の窓口、スーパーなどではまだ通じない事が多いです。地方都市では英語の看板や案内もありません。会話帳など持って行くことをおすすめします。ドイツ語は比較的通じます。
スロバキア語はスラブ語族の一つで、ロシア語・ポーランド語・チェコ語・ウクライナ語と似ているので、どれか一つ知っていればとても便利です。実際に国境近くではそれぞれの国の言葉で会話をしても十分意思疎通が図れています。
スロバキアの歴史を知る
もともとチェコスロバキアという一つの国が1993年にチェコとスロバキアに分かれたところであり、日本学や日本語学習の中心がプラハにあったので、スロバキアという独立した国にはハード・ソフト両面においてチェコに比べて実績に乏しいという負い目があります。このような背景があるので今でも首都ブラチスラバのコメニウス大学とチェコの大学は交流が盛んです。
その他
首都や近郊の町にはアジアンショップがあり、食材は手に入ります。テキストは手に入りません。電子化されていないテキストや参考書は持って行ったほうがいいでしょう。また文化紹介などで折り紙や書道を考えていらっしゃるなら現地では材料が調達できないので、日本から持って行った方がいいです。
冬は寒さが厳しく、山がちな中部スロバキア以東ではマイナス20度を下回る事もあります。寒さ対策も必須ですが、持って行くのにはかさばるので現地調達でもいいでしょう。ただ足が小さい方は日本でスノーブーツなどを用意して行く事をおすすめします。
スロバキアへ行ったきっかけ
私は、民間の日本語教師派遣団体「ICEA」から派遣されポーランドに2年滞在していました。任期を終え帰国したその日にICEAから、この度東スロバキアの大学にアジア研究所が設立され、また大学でも学部学生向けに日本語講座を開講するので行ってみないかという話があり、帰国一ケ月後に今度はスロバキアに渡りました。そして6年間滞在しました。
準備したもの
・長期滞在ビザの申請
上述したように現在はスロバキアでの申請のみですが、私が行った時は日本での申請が可能でした。
・教材の準備
新しく開講した場所で、テキストなどは何もなかったため、予めスキャンしたり、教材を作成したり、できるかぎりの準備をしてから現地に渡航しました。
・文化紹介ができる物を準備
東スロバキアで初めて開かれる日本語講座であり、学習者を広く集めるために、折り紙や書道、簡単な茶道など、文化紹介できるものを準備しました。
住むところ
住むところは大学の学生寮(個室)が用意されていました。
レッスン
私が担当したのは大学の日本語講座、アジア研究所での市民講座、ギムナジウムでの課外授業でした。市民講座には小学生から60代まで幅広い年齢層の学習者が30~40人位いました。
スロバキアでのレッスン直接法?間接法?
学校によって異なります。日本語が主専攻の大学では基本的に直接法ですが、文法解説などはスロバキア語で行う事もあります。
語学学校や文化センターでは間接法で行われています。
以前私が教えていた地方の大学(自由選択科目としての日本語)とアジア研究所では、週に1日の授業で効率を上げるために英語を使用していました。学生は英語が通じます。
待遇
私はボランティアの講師だったので、報酬はありませんが、住居・光熱費は提供されました。
現在スロバキアの日本語教師はほとんどが現地採用で、日本からはICEAからのボランティア派遣のみです。
良かったこと
東スロバキアの大学での初となる日本語講座の開講、アジア研究所やギムナジウムでの継続的な授業も初めて行うという時期にたまたま立ち会えたので、何もかもゼロからの出発で色々な事に挑戦できました。
それまで地方には日本語学習環境が整っておらず、講座開設を待ち望んでいた方からは、とても歓迎されました。日本語だけではなく武道にも打ち込んでいる人がいて、熱心な学習者に囲まれて毎日を過ごしました。
JLPTに合格した後、日本語を学習仲間に教えられるような人も現れました。
大変だったこと
私が滞在していたのはスロバキア第3の街でした。それでも当時住んでいた日本人は私以外に1人しかいませんでした。良くも悪くも地方の人たちの間には、日本や日本人に対する様々な固定観念があり驚きました。授業やイベントを通してそのような固定観念が違うという事を一つ一つ説明しました。
一般的に人的資源やチャンスがチェコや首都ブラチスラバに集中しているため、地方に住むスロバキア人は疎外感が強く、その一方で現状に満足しがちで、モチベーションを維持することが難しく、日本語の定着もなかなか図れませんでした。ポーランドに比べて確かに恵まれない環境ではありましたが、毎朝早く起きて登校前に1時間の自習を続けたり、会社の休憩時間を利用して講座に通っていた学習者もいました。
スロバキアで日本語教師を検討されている方へ
現在日本からの採用はほぼなく、ICEAからの派遣のみではありますが、今も日本人気は高く若者の多くは日本に行ってみたいという気持ちがあるようです。今後教育機関が増える可能性はあります。ぜひ色々なサイトで情報を追いかけてください。現状スロバキア国内には日本語学習者も教師も教育機関も少ないのですが、隣国ハンガリーのブダペスト日本文化センターが主催する「中東欧日本語教育研修会」に参加すると、東欧12か国の日本語教師のみなさんとも意見交換ができます。
スロバキア人は一見不愛想な印象がありますが、一度仲良くなるととてもフレンドリーです。そして世話好きな人が多いからなのか、いつも私のことを気にかけてくれます。治安がよくとても住みやすいです。それに、首都のブラチスラバからはバスに1時間も乗ればオーストリアのウィーンや、ハンガリーのブダペストにも行けるし、美術館巡りや音楽鑑賞が気軽に楽しめますよ。
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