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1 日本語学習における母語の影響を考える~中国語母語話者編~
1.1同じ母語の学習者の共通の間違いってあるよね?
「有名の人」
「ほうかの人に聞いてみます。」
「とでもありがとうございます。」
これは私の学生さんたちの発言例です。
皆さんの学生さんにも、こういった誤用をする学生さんはいませんか?
誤用の中には、「あれ、前にも同じ母語の学習者さんが間違えてたな…」というような、特定の言語の母語話者に共通してみられるものがあります。
そういった、母語の影響を受けて起きてしまう誤用を「母語干渉」といいます。
上記で挙げた例は、中国語母語話者のものです。日本語学習者の中でも中国語が母語の方はとても多いですよね。
今回は、中国語母語話者の母語干渉についてご紹介します。
1.2中国語の大まかな特徴
中国語母語話者の母語干渉を紹介するにあたり、まず中国語と日本語の大きな特徴を簡単にご紹介します。
1.2.1 文構造面
中国語の文構造は大きく、
・SVO(原則として主語の後ろに動詞、その後ろに目的語を取る。)
・助詞なし
・敬語なし(丁寧な表現はあります。)
・動詞の活用なし(文脈や、動詞の前後に別の漢字を足して、時制や受身等の意味を表します。)
といった特徴があります。英語に似ている部分も多いですね。(個人的には、「動詞の活用なし」は外国人としてはとても学びやすかったです…(笑))ですが、文脈判断ができる場合主語や目的語を省略できるといった、日本語と同じような特徴もあります。
1.2.2 音声面
音声面でいえば、
・4つの声調(イントネーション)がある
・1音は、基本的に子音+母音(二重母音や、母音の後にnやngがくる場合もある)の組み合わせ
・清音・濁音(声帯の震えの有無)ではなく、有気音・無気音(発音時に出す息の有無)で音を区別する
といった特徴があります。
1.3中国語母語話者の間違いやすいポイント4つ
動詞の活用
中国語母語話者は動詞の活用を忘れやすい傾向にあります。中国語に動詞の活用がないため、当然のことだと思います。
特に過去形については、他の母語話者と比べても忘れがちではないかと感じます。というのも、中国語では過去形を文法で明示する場面があまりないからです。例えば、中国語では文中に「昨天(「昨日」の意味です)」という単語があれば、過去の出来事であることは自明であるため、その他に過去を表す表現をつける必要はありません。(最初にこれを知った時は衝撃でした!)
ここまで過去形に対する意識が違うのであれば、中国語が母語の学習者が、繰り返し動詞の活用を間違えたとしても、根気よく伝えるしかありませんね!
形容詞の後ろに「の」をつけてしまう
最初に挙げた例の「有名の人」 これも中国語母語話者の誤用あるあるですね。
中国語では、形容詞+名詞となる場合、間に「的」を付けることが多いです。(例:有名的人(有名な人))中国語の「的」は、日本語の「の」(例:我的课本(私の教科書))の意味もあるため、形容詞の後ろに「の」を付けてしまいがちです。中上級者であっても、意外とこの間違いをしてしまうことがあります。
1音の長さ
中国語の1音は基本的に子音+母音(二重母音や、母音の後にnやngがくる場合もある)ですが、日本語の音節のカウントだと複数音節になりそうな、少し長いものもあります。
例えば「壮」という漢字の発音「zhuang」(声調は省略)は、カタカナで表すとすれば「ジュアン」でしょうか。
中国語では1音でも、日本語の感覚だと2音節あるかのように感じますね。
ですので、中国語母語話者は日本語の1音の長さを、無意識に少し長く発音してしまうことがあります。
最初に挙げた例でいうと、「ほうかの人に聞いてみます。」に当たります。
イントネーションも相まって、私には「放火」に聞こえてしまい、一瞬頭の上に「???」が浮かびました。(文脈からは「放火の人」なわけはないのですけど。)
学習者の方は「他の」の「ほ」を少し長く発音してしまっていたんですね。
こういった誤用が多いと、発音が気になって話の内容が入ってこない、なんてこもあるかもしれません。
日本語には長音かどうかで意味が変わる単語もあるので、日本語教師側も少し違和感を感じたら、すぐに指摘するようにしたいですね。
日本語の清音・濁音の区別
中国語の有気音・無気音は、日本語の枠組みに入れると両方清音になります。
(日本語母語話者からすると、有気音は清音、無気音は少し濁音に近い音に聞こえます。)
中国語母語話者からすると、日本語の清音・濁音はどちらも発音時に出す息の量があまりないので、
日本語の清音・濁音は両方とも無気音に近いのではないでしょうか。
そのため日本語の清音・濁音は、中国語母語話者からは判別しづらく、清音も濁音のように聞こえることがあるようです。
最初に挙げた例で言うと、「とでもありがとうございます。」のように
「て(清音)」を「で(濁音)」と捉えていたようです。
またこのような誤用例は、会話をしている時には気が付かない(きちんと発音できているように聞こえる)ことが多く、メッセージのやり取りをする際に、初めて気づくことが多いです。きっと学習者も文字が変換できなくて困った!なんて経験があるかもしれませんね。
1.4母語の影響を知ることは、教師にとっても、学習者にとってもWin-Win!
今回は大まかな中国語の特徴と、そこから来る母語干渉の例について紹介しました。皆さんが見聞きしたことのある例はあったでしょうか?
私の経験上母語干渉の例を知っていると、学習者さんの発想を理解できるだけでなく、「中国語では○○だけど、日本語では□□なんですよ。」という形で指摘すると、学習者さんにも納得してもらいやすいと感じています。
「なんでこの間違いなかなか直らないんだろう…」と悩んでいらっしゃる先生方は、一度その学習者さんの母語の影響がないかどうか、調べてみるのもいいかもしれませんね。
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