「自発の受身」と「自発の使役受身」について考えてみた

「自発の受身」と「自発の使役受身」について考えてみた

 実は、子供の頃から毎朝時計がわりにニュースを見ているんですが、、、(笑)そこで、先日こんな表現を耳にしました。

 「速報です!!先程の試合において、大○翔○選手が第○号ホームランを達成したとのことです!」「今後の活躍がますます期待されますね〜!」

 「〇〇党A氏の汚職が再び発覚したとのことです。」「残念でなりません。彼の行動には全くがっかりさせられますね。」

 N1対策の文法の教科書にも「自発の受け身」「自発の使役受け身」というのがあり、どう使い分けているんだろうと、ふと疑問が・・・。

上級になればなるほど、文法の機能や意味から違いを考えて教えるのが難しくなってきますよね…。ネイティブなら「意味が変わる!」とか「ニュアンスが違う!」ということもなんとなく感覚でOKなのですが、外国人に伝えるとなるとそういうわけにもいきませんね。

 というわけで、今回は上級文法「自発の受身」「自発の使役受身」について、一緒に考えてみようと思います。

そもそも自発って??

「自発」という言葉を辞書(明鏡国語辞典)で調べてみると、このように出てきました。

 【自発】

①   外からの働きかけによるのではなく、自分から進んで物事を行うこと。
②   文法で、動作が他からの作用に関わりなく自然に起こる意を表す用法。

 その名の通り、「自発」とは「自」然に「発」生すること。つまり、自分の意志と関係なく、自然とその気持ちになるというのが「自発」です。今回の 「自発」は上の定義②の「勝手にその気持ちになる」、「自然と湧き出る感情」を説明するときに使うものなので、感覚や思考を伴う表現、心情動詞と一緒に使われます。

 

自発の受け身

<例文>

  1. このアニメを見ると、学生時代のことが思い出される
  2. 今後も少子化が進む。この国の将来が案じられるなぁ。
  3. 医学のさらなる発展が待たれている
  4. 早急の対応策が望まれます
  5. 桜のいい香りがするね〜。春の気配が感じられるようになったんだね。
  6. 彼はわずか7歳という若さでこの世を去った。非常に悔やまれる

上記の例文の動詞は受け身の形にすることで「自発(態)」になるものです。

そもそも「自発(態)」には自発形のような形はありません。「見える」「聞こえる」のように、動詞そのものが自発の意味を持っているものもありますし、動詞の形変えることで自発の意味を持たせるものもあります。たとえば、「この映画、何回観ても泣けるわぁ」みたいに「泣く」「笑う」のように可能形を使うことで自発の意味になるものもあります。

日本語教育では「受身形」と同じ形を使うから、便宜上「自発の受け身」という分類をしているのでしょう。「受動態」の中に「自発」という意味機能があるわけではありませんのでご注意を!!!

 

自発の使役受け身

<例文>

  1. この本を読んで、考えさせられた
  2. 最近、毎日ひどい頭痛に悩まされている
  3. 今回の国際試合で日本のチームは大活躍していた!彼らには本当に感動させられた
  4. あの俳優の演技は期待外れでがっかりさせられた…。見なければよかった。
  5. あんなに小さかった子供も、今では私の身長を追いこした。子供の成長にはいつも驚かせられる。
  6. 今日のエピソード、びっくりさせられることばかりだったわ。(ドラマを見ていて)

 

例文があがったところで、「自発の受身」と「自発の使役受身」を比べてみると・・・

何か外的な要因が自分の感情に影響していることは共通しています。ただ、この二つの文法の使い分け、まだしっくりこない?!一緒に使われる動詞に注目してみると、なにが違いが見えてくるかもしれません。書き出してみます。

  • 学生時代が思い出される   →学生時代を思い出す
  • 将来が案じられる  →将来を案じる
  • 医学の発展が待たれている   →医学の発展を待つ
  • 早急な対応が望まれる   →早急な対応を望む
  • 春が感じられる  →春を感じる
  • 死が悔やまれる  →死を悔やむ

 VS

  • 頭痛に悩まされている       →頭痛に悩む
  • 子どもの成長に感動させられた       →子どもの成長に感動する
  • 彼の演技にがっかりさせられた →彼の演技にがっかりする
  • 彼女の仕草にどきっとさせられる       →彼女の仕草にどきっとする
  • ストーリーの展開にびっくりさせられる →ストーリーの展開にびっくりする

お、助詞が変化している?

受身形が使われている動詞は、能動態では目的語の「〜を」をとり自発態では「〜が」がとられています。一方、使役受身で使われている動詞は「〜に」をとり、変化がありません。「自発の使役受け身」は、話し手が「〜に強い印象を受けた」で「間接目的語+に」ということなんです。なるほど、このように助詞に注目してみても良いかもしれませんね。まあ、助詞も難しいんですが・・・^^;

 

「自発の受身」や「自発の使役受身」が出てきたら、学生には「限られた動詞しか使わないから覚えちゃおうね」でいいと思います。たとえ根本的な解決にはなっていなかったとしても・・・彼らは専門家になるわけじゃありませんからね。私たちが学生によく言う「例外」「教えない」には意味があります。日本語教師は学生にあえて教えていない理由を知っておくと、がんばって説明を試みて撃沈なんて事態を防げます。

今回、色々調べて自分なりに分析してまあまあスッキリはしましたが、分析をすることで「説明しようとするとドツボにハマる案件」ということも身をもって感じることができました。それだけでも分析の価値があったかもしれませんね(笑)

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