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例トレ#6「可能動詞」の意味・機能について今一度考えてみた
例文トレーニング、今回は「可能動詞」です。
先日、ある学生から「可能動詞って、いつ使うんですか?便利なんですか??」という、ある意味衝撃的な質問を受けました。(とはいえ、こういう質問する人、私の講師人生では初めてではなかったのですが…)
日本語教師としては「可能動詞」って最強じゃない?ぐらいに思っていたのですが、その学習者はいまいちピンと来ていなかったようです。
おそらくは導入から練習までなんとなく「能力」機能推しで練習させてしまっていたからでしょう。あれができる、これができないなど大人が自分の能力を誇示するような場面っていつあるの?と疑問だったのかもしれませんね。
というわけで、今回は広く「能力」以外の可能動詞を使った文章をレベル不問で集めてみることにしました。
可能動詞「能力」以外の機能
今回は「能力」以外の機能ということで、まずはCoto講師のみなさんが出してくれた例文を二つのグループに分けてみました。
状況・機能・サービス系
※英語で言うところのpossible, available系
- PayPay、使えますか。
- カードで払えますか。
- 最近はコンビニでおいしいコーヒーが飲めるようになったよね~
- いまから予約/キャンセル/変更/できますか。
- こちらでは注文、取り置き、返品、交換はできません。
- すみません。まだ申し込めますか。
- (このバッグの大きさで)網棚にのせられるかな。
- うちはNetflixが見られないんだ~。
- アメリカのAmazonでは読みたい漫画が買えないの。
- 陰性証明書を持っていたのに、イスタンブールからの飛行機に乗れませんでした。
- これ、賞味期限切れてるけど、まだ食べられる?
- 工事中につき、通行できません。
- いまだにPS5が店頭で買えません。
- え、今日ここ通れないの!?
- 今は病院内でもwi-fiが使えるから、入院中も動画が見られて退屈しなかったんだって。
困難(平易)を表すもの
※個人的所感を述べるときに使用 / 英語で言うところのdifficult/easy系
- 昨日はよく寝られました。
- 私は田舎には住めないなー
- モルフォセラピーに関心はあるけど、なかなか最初の一歩を踏み出せません。
- 時間がなくて宿題ができませんでした。
- こんな服、人前で着られないよ!
- そんなこと、私の口からは言えないわ…
- 世の中には、信じられないニュースがいっぱいだ。
- 最近太って着られなくなった服が多い。
- 家族のいびきがうるさくて寝られないのは、うちだけじゃなかったのねー。
- 面白そうなスマホが出たのでそっちに買い替えました。しばらく楽しめそうです。
これって母語干渉!?よくある誤用例
さあ、ここからが本番!
例文を募集していたら、誤用例もたくさんあがってきました。以下の誤用例、皆さんはどう思いますか。わたしは可能動詞を使うメンタリティに言語差があるような気がしているのですが・・・。
<例1>「『昨日はよく寝られましたか』じゃなくて『昨日はよく寝ましたか』ではダメですか?」
学習者の感覚では「昨日」という過去の時点で、「よく寝た」という事実があるのだから、「可能だった」ではなく「事実があった」でいいのでは?ということなのでしょう。たしかに、否定の「寝られませんでした」なら、「寝たかったけど(暑くて、うるさくて etc…)寝ることが可能ではなかった」ということになりますが、「寝られました」は「寝ました」と一緒じゃないか!と・・・なるほど、わからなくもないです。
これって逆も然り。日本人はよく「私、英語できないんです、英語しゃべれないんです」と可能動詞を使うので、英語で質問する際にも”Can you speak Japanese?”という文を作りがち。でも、”Do you speak Japanese?”のほうが自然な英語です。
<誤用例2>「いつも電話に出るわけじゃないから、メールでお願いします」「仕事が重なって、しっかり準備しませんでした」
「出られる」「準備できませんでした」が適当ですが、これもスムーズに使えない方が多いです。可能動詞を使わないと「自分の意志でした」ということになるよ、と言ってもなかなか分かってもらえません。
<誤用例3>「卒業するといいですね」「日本にいる間に、富士山に登るといいんですが…」
願望のフレーズ「〜といい / 〜といいんですが…」でも可能動詞をうまく使いこなせない学習者が多いです。「〜て、うれしかったです」なども同様の間違いが見られます。
<誤用例4>「自分で勉強しないから、なにか宿題をください」
日本人としては「勉強できないから」が自然ですね。「勉強しないから」とあっけらかんと言われたら、おいおい…となっちゃいますね。本当はすばらしい提案なのに。
母語干渉が誤用の原因であるにせよ、これらの場面で他言語話者はなぜ可能動詞を使わないのでしょうか。逆に、どうして日本人は可能動詞を使いたがるのでしょうか。そのメンタリティ、気になります。
英語圏では事実の叙述のみで済ませるところを、日本語では「自分の能力が足りなくてできない」のような言い方をします。これってもしかすると「丁寧さ(politeness)」の表出なのでは? いわゆる日本人の好きなhumbleな態度(謙遜)の表れかも!?なんて思ったり。いかがでしょうか。
でも、日本語の可能動詞って無意志動詞なんですよね。可能動詞になることで、元の動詞の意志的な意味はなくなって「状態」を表すようになります。でも、「能力」推しで導入するからか「能力」の意味に引っ張られてしまうんですかね〜。自分の能力うんぬんではなく、その状態を叙述するために「可能動詞」を使っているわけなのですが、、、いやあ、頭ではわかっても、これはなかなか伝わらないでしょうね。
そして、気になることをもう一つ。英語の”potential” という訳も学習者にとってはよくないのかな?なんて思うことがあります。英語で言うところの、potential, possible, capable, able, available, acceptable…これらすべてを日本語ではひっくるめて「可能」と呼んでいますからね。うーん。
本日はここまで。それでは、また来月お会いしましょう✋
※Cotoで使っている初級のメインテキスト『げんき』では ”Potential Verbs”という表記をしているので、今回の記事ではその日本語訳「可能動詞」を使用しています。過去のブログ記事『可能動詞と「Vことができる」の違いって何?』でも「可能動詞」という日本語教育における文法用語の使い方に触れています。あわせてご覧ください。
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