「使役」って難しい!?
「使役」は学習するのも教えるのもなかなかハードルの高い文法項目の一つ。苦手だなと感じている方も多いのではないでしょうか。
それでは、なぜ使役は難しく感じるのでしょうか。「いつ、どのように使うかわからない」「受け身と使役、使役受け身は形が似ていて混乱してしまう」「使役文に出てくる『を』と『に』の助詞の使い分けがよくわからない」「意味・機能がいろいろある」など理由は様々です。
使役は初級の後半で出てきますが、動詞の変化や自動詞・他動詞の区別だけではなく、人間関係も考慮しないと適切に使用することができません。ですから、とっても複雑な項目なんですね。
ということで、今日は「使役」を整理したいと思います。上であげた難しく感じる部分を一つ一つ解決していきましょう。
使役とは
「使役」はヴォイス(態)の一種で、主語が第三者に対してある事態が起こるように仕向けることを表した文です。ちょっとわかりにくいので、初級で出てくる3つの用法を取り上げて、もう少し噛み砕いて見ていきましょう。
強制
「使役」は、上下関係のある場面で、立場が上の人(先生、上司、親など)が、立場が下の人に「〇〇をしなさい!」と無理矢理何かをさせるときに使われます。
まず、これが使役の一つ目の意味「強制」です。
<例文>
- お母さんは子どもに野菜を食べさせた。
- 先生は宿題を忘れた生徒を立たせた。
- 無理に酒を飲ませるのは良くない。
- 母は嫌がる子供を歯医者に行かせた。
許可
使役は人がしたいことを「OK!いいよ」と言ってあげる場合にも使われます。これが2つ目の意味「許可」です。
ピアノを習いたがっている娘に「習っていいよ」と言った場合、「私は娘にピアノを習わせました」となります。娘が嫌なのに無理矢理させた場合は強制になりますね。
<例文>
- 1日30分だけゲームをさせている。
- 大学生の頃、アルバイト先のオーナーがよくただで食べさせてくれた。
- 明日の午前中、休ませていただけませんか。
- 職場を見学させてほしい。
- 文句を言いたい人にはそのまま言わせておけばいい。(放置・放任)
「許可」場合、授受の表現「~てくれる」「~てもらう」などと一緒に使うことが多くなります。また、許可を求めるときは「〜(さ)せてほしい」を使います。ピアノを習いたくて両親にお願いするなら、「ピアノを習わせてほしい」となりますね。「〜(さ)せてほしい」「〜(さ)せてもらいたい」「〜(さ)せていただきたい」などです。これらはよく使う表現なので、しっかり練習させるといいでしょう。
誘発
そして、もう一つ。誰かの気持ちや感情に変化を起こした場合にも使役が使われます。「誘発」の使役です。「(さ)せる」は通常目上の人に使うイメージがありますが、これは相手が目上であるかどうか関係なく使うことができます。(こういうのがあるから厄介なんですね・・・)
<例文>
- 私は親を心配させた。
- サプライズ・パーティーを開いて、彼女をびっくりさせたい
- 兄はみんなを笑わせるのが好きだ。
- もう、はらはらさせないでよ。
- 先生を怒らせてしまった。
※この使役文で使われる動詞は限定的です。以下のような心の動きを表す感情の動詞が使われます。
「泣く・笑う・怒る・心配する・びっくりする・喜ぶ・困る・和む・安心する・ガッカリする・慌てる・〜思いをする」など
助詞「〜が〜を/に(さ)せる」
<太郎とお父さんの会話>
太郎:お父さん、おれ、フランスでお菓子作りを勉強したい。
父親:だめだ、まだ大学1年生だろ。どうしても行きたいのなら、大学をやめて行きなさい!
・・・うーん、仕方がない。応援するから、頑張ってきなさい。
- 父は太郎に大学をやめさせました。 他動詞の場合は・・・「に」
- 父は太郎をフランスに行かせました。 自動詞の場合は・・・「を」
こんな覚え方はムリ〜ッという方、こんな方法はいかがでしょう。
- 課長は山田さんを出張させた。 (元の文:課長→山田さんは出張した)
- 課長は山田さんにプレゼンの準備を手伝わせた。(元の文:課長→山田さんはプレゼンの準備を手伝った。)
※「❌課長は山田さんをプレゼンの準備を手伝わせた」のような「〜を〜を〜(さ)せる」という文は好まれないので、「〜に〜を〜(さ)せる」にする。こちらの方がルールが覚えやすいという人もいるかもしれませんね。
使役文はいつ、どのように使うのか
「使役文を日常生活の中で、いつ、どのように使うかわからない」という声があります。うーん、確かにあまり使わないかも・・・。会話の中で「許可」は使っても「強制」の使役文はあまり使わないかもしれませんね。特に、動作主が「私」だと上から目線で偉そうな印象があるので、「強制」の使役文はまず使いません。
とはいえ、きっとどの学習者も子供の時に先生や親にさせられて嫌だったことがあるはず、させてもらって良かったこともあるはずです。学習者自身の経験を引き出していくと「あ〜なるほど、こういう場面で使うんだな」のが分かるでしょう。そうすると、だんだん自分のことを伝えたくなってきます。
先日のクラス(N3レベル)で使役の復習をした時のこと。「高校生の時、両親は車で学校に行かせてくれなかった」とある学習者。そうしたら、他の学習者が「うちは、免許を取らせてもらえなかった。だから、今も免許がないんです」と。「うわ〜厳しかったんですね。」「うちは食事が終わるまで、立たせてくれませんでした。」「うちも!」なんて言って盛り上がっていました。(クラス授業っていうのはこうやって何が起こるか分からないから、ホント面白いんですよね〜。伝えたいことがどんどん出てきて自由に発言できる雰囲気を日頃から作っておくこと、とっても大切です!)
文末表現もいろいろ変えられます。子供の頃に両親や先生に言われたことなら過去形、将来自分の子供にさせたいことであれば「〜たい」が使えます。はたまた、「Hi, Alexa」や「Ok, Google」と言って、させていることをみんなでシェアするのもいいですね。A I化が進む昨今ですから、将来ロボットにさせたいことなんていうトピックも面白いかもしれません。
また、前にも述べましたが、人に許可を求めるときに使役表現を使います。これはよく使う表現なのでサラッと言えるようになるといいですね。学習者が遭遇しそうな場面のキューをストックしておきましょう。
- 「具合が悪いので、家に帰りたい。」 →早退させていただきたいんですが・・・早く帰らせていただきます!
- 「スマホの充電がない!」→ごめん、充電させてもらえない?・・・充電器を使わせてもらいたいんだけど・・・
- 「仕事があるので、レッスンをキャンセルしたい」→明日のレッスンをキャンセルさせてもらえませんか。
今回は、初級で習う使役の「強制」「許可」「誘発」の3つの意味・機能のみを取り上げました。初級ではまず使役のコンセプトと形をしっかり理解させることを目標にするといいでしょう。「使役」を一度で習得するのは難しいですから、中級上級と折に触れて確認していく必要があります。中級・上級でこれまでと異なる意味・機能が出てきた場合は教える前にしっかり確認をしてくださいね!
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