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初級のスター的文型「~んです」って、どんな時にどう使う?
「~んです」は、初級のスター的文型です。ただ、この「~んです」の教え方にお悩みの先生も多いのではないでしょうか。ということで、今回はちょっとだけイレギュラーな活動をやってみました。
★ 例文トレーニングのお題
以下の場面において、( )内に入る文(平叙文、疑問文、なんでも可、語彙コントロールなしでOK)を考えてください。どちらかの場面だけでも結構です。
<場面1>
A:( )。
B:19歳なんです。
A:( )。
→ 回答例
A:(お子さんって、まだ小さいんでしょ?)。
B:19歳なんです。
A:(え!そんなに大きいお子さんがいらっしゃるんですか?!)。
<場面2>
会社のオフィスで、あまり話したことはない同僚Bさんの机の上に、自分も大好きなアーティストのグッズが置いてあるのが見えた。
A:( )んですか。↓
→ 回答例
A:Bさん、(BTS、好きな)んですか。
まずは皆さんも続きを読む前に、一つ二つ考えてみてください。
「んです」の肝を押さえる!
いきなりですが、「んです」の「ん」は何ですか?と学生に聞かれたことがありますか。聞かれたら、何と答えるのが正解なんでしょう。
私なら、理由の「から」と答えるかなと思います。「~んです」という文型は、理由だけを述べて、そこから導き出される結果についてはあえて言及しない、いわゆるhigh-contextの文です。
なぜ結論を言わないのか。
そこには発話者の心理=「言わなくてもわかるでしょ」「言うのは無粋だ」「むしろ言いたくない」「推してはかってよ」という心理が隠されています。high-context communicationというのは、話し手・聞き手の間に共通の認識や理解、知識があることを前提にしているコミュニケーションで、そこが「~んです」の肝だとも言えるでしょう。
なので、今回文作のお題は少しひねりを加え、場面1ではBさんの「19歳なんです」という理由の説明文に対して、Aさんは何と切り出したか、そして最後何とコメントを加えるかをお題にしてみました。
19歳という年齢設定は、成人のボーダー(2022年から18歳が成人年齢になったので、ここもすでに人によって前提が揺らいできますが…)であること、人によってその年齢を若いと見るか、そうでもないと見るか、微妙であることがいいと思いました。
「んです」の例文
Cotoの講師から集まった例文をいくつか紹介します。
①
A:お子さんって、まだ小さいんでしょ?
B:19歳なんです。
A:え!そんなに大きいお子さんがいらっしゃるんですか?!
②
※1998年フランスワールドカップトゥ―ルーズスタジアムでのある国のサッカー協会の会話
A:おい…あの日本の真ん中の11番誰?あんなうまい選手いたか日本に?U23の子か?
B:(私も気になって見てみたんですが、)19歳なんです。
A:ええ!?うそだろ!? すぐサブローに連絡しろ!
③
A:娘さん、ご結婚なさるそうで、おめでとうございます。おいくつなんですか?
B:19歳なんです。
A:あら、そうなんですか…そんなに若いのにもう結婚しちゃうんですね。
④
A:へー!お子さんとそういう会話もするのですね、おいくつですか?
B:19歳なんです。
A:素晴らしい、まだ若いのにしっかりされていますね。
⑤
A:(忘年会の場で、ソフトドリンクばかり飲んでいるBさんを見て)Bさん、お酒飲まないんですか?
B:19歳なんです。
A:えっ?未成年だと思いませんでした!!(いい意味でもう少し年上に見える)
⑥
A:(成人式の着物のパンフレットを見ているBさんに)あれ?Bさんの娘さん、そろそろ成人式なんですか?
B:(はい、今)19歳なんです。
A:えっ?この間高校生になったと話していたのに・・・(時がたつのは早いですね)
⑦※ドッグランでの話。主題は「犬」
A:おいくつなんですか。
B:19歳なんです。
A:あら、ご長寿。
⑧※職場にて:お笑い芸人ハライチ岩井(38)の結婚相手が若すぎる!と、みんなが話しているのを聞いた先輩
A:そんなに年下なの?
B:19歳なんです。
A:それは若い!
<場面2>
会社のオフィスで、あまり話したことはない同僚Bさんの机の上に、自分も大好きなアーティストのグッズが置いてあるのが見えた。
A:( )んですか。
↓
例文
①A:Bさん、BTS、好きなんですか。
②A:もしかして、BさんってBTSのファンなんですか。
③A:Bさんもcoldplayを聞くんですか。
④A:(このグッズはコンサートでしか手に入らないという前情報に基づいて)Bさん、コンサートに行ったんですか。(私も行ったんですよ!でも買えなかったんですよ!いーなー)
⑤A:Bさんも〇〇推しなんですか。
⑥すみません。これ、どちらで買ったんですか。(自分も欲しい意思表示付き)
みなさんの例文、すばらしいですよね!とりわけ「19歳なんです」に含まれた意図を察してのリアクション、さすがです。臨場感があって、とても良いですね。
レッスンで「~んです」をどう扱う?
上のような文作を学生に求めるのは、まあまあ難しい(汗)。先ほども述べたとおり、前提に立つ文化や認識などが異なることが多々あるからです。
ただ、A⇒B⇒Aという会話のフローやフォーマットはわかりやすいかと思うので、以下のように導入してみるのはどうでしょうか。
<場面1>
A 疑問文、または疑問(驚き)のニュアンスを含む平叙文を入れる。
B それに対する答え(理由の説明)としての「~んです」 (Aさんの発言に対して、理由だけを言うことで説明する)
A リアクション(納得、あるいはそれを考慮しても驚く、など)
▶️導入例
※パーティで、あまり箸が進んでなさそうなBさんに声をかける
A:おいしくないですか(すきじゃないですか)。
B:ベジタリアンなんです。⇒ ここを変える練習(パーツはいろんな品詞で準備:●●アレルギー、Muslim(イスラム教徒)、おなかいっぱい、辛い物は苦手、お腹がすいていない、昨日もパーティで食べすぎた 等)
A:そうですか。
<場面2>
疑問文「~んですか」からの導入パターンとして有効です。
個人的には平叙文「~んです」より疑問文から導入するほうが、この文型のニュアンスがつかみやすいのでは?と思っています。それは言外の情報(ここでは自分も好きなアーティストグッズ)から、推測(相手も私と同じアーティストを好きなのではないか?)し、確認の質問をするという流れは、どの言語話者でも理解しやすいと思うからです。学習者にはguess ⇒ confirming questionとして私は説明しています。
最後に:「んです」は “心が動く”ときに使う
「~んです」は、教える側にとっては難しさを感じることが多い文型かと思います。なぜ難しいか。それはどうして「~です・~ます」じゃなく「~なんです・んです」を使わなければならないのか、というシンプルかつ根源的な疑問があるからです。
私も日本語教師になって何年もずっとふわふわとした知識で「~んです」をなんとな~く教えてきていたように思います。でも、あるとき、ある本(タイトルを覚えていないのが惜しいっ)に、『「~んです」は、communicative approachの文型』と説明されていたのが、妙に腑に落ちたんです。
どうcommunicativeかというと、場面1のように「事実を言うことだけで、あとは察してくださいよ」と、お互いが共有しているはずの何かに訴えたり、場面2のように相手に興味を持ったりしたからこそ確認の質問をしたくなる「心が動く」ときに使う文型だからです。
これがわかれば、げんきの教科書では、しれっと出てきている「どうしたんですか」が、なぜ「どうしましたか」ではないのかを、学生が理解できるんじゃないかなあと思います。どうした?(相手の様子を見て、いつもと違う何かが起こった、というguess)からの「んですか」でconfirming questionする形になっています、ね?
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