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Ms. Hidari’s Eye 〜例文作成トレーニング〜
今月から新連載『Ms. Hidari’s Eye 〜例文作成トレーニング〜』を始めます。
人の視点のあり方を「虫の目」、「鳥の目」、「魚の目」と表現することがあります。これは「鳥のように全体を俯瞰し、虫のような目線で細部に近づき注意深く物事を見つめ、魚が潮の流れを読むように時代の流れを読む」というものの見方です。ビジネスの世界でこの言葉をよく耳にしますが、日本語の世界でも当てはまるのでは。
Ms. Hidariがいろんな目で日本語の語彙・表現を見ていきます!
例トレ#1「お気に入り」と「好き」
本日のお題は「お気に入り」と「好き」です。この2つの言葉、同じようでちょっとニュアンスが異なります。
早速、例文をあげてみましょう。想定する学習者のレベルはここではひとまず置いておきます。ただただシンプルに、日本語ネイティブとして産出しうる文を挙げていきます。
<例文>
- このネックレス、好き♡
- このネックレス、最近のお気に入りなんだ。
「好き」は心がひきつけられるような気持ちを表すときに使われます。なので、主観的で直感的な印象があります。
例えば、こんな例はいかがでしょう。
「好きです。付き合ってください!」とは言うけれど、「気に入っています。付き合ってください!」とは決して言いません。また、お気に入りの部下に対して付き合ってほしいとは言いませんよね。好きとは違う感情です。まあ後に恋愛に発展すれば、可能性もありますが・・・。「気に入っています。付き合ってください!」なんて言った日には、「あなたは私のお眼鏡にかなった」というような上から目線の表現に取られてしまって、感じが悪いです。笑
次に、「お気に入り(N)」「気に入る(V)」も例を挙げて見てみましょう。
- 昨日新しいくつを買いました。スリムなデザインと色がとても気に入っています。
- 気に入らないことがあると、すぐにすねるって子どもか!
- 去年誕生日にもらったネックレスが一番のお気に入りで、よくつけている。
- おばあちゃんにもらったぬいぐるみが気に入ったみたいで、いつも抱いて寝ている。
- あの人の上から目線な態度が気に入らない。
- 「おぬし、やるな〜、気に入った!」
- このサイト、よく見るから「お気に入り」に入れておこう。
- あの子は先生のお気に入りだ。
「お気に入り」には自分の好みやニーズに合うもの、心に適うものや人に対して使われます。なので、時に上から目線に感じることもあるのでしょうね。
考察メモ:「お気に入り」vs「好き」
「気に入る」は「好きになる」という意味
「入る」という移動/変化動詞が入っているところが注目ポイント。つまり、「気に入った」→「(いま)好きになった」ということです。そして、「気に入っている」はその結果の継続と言えるでしょう。
「好き」はgeneral、「気に入っている」はspecific
- 野菜が気に入っている。△
- スポーツが気に入っている。△
- ねこが気に入っている。△
上の文はおかしいですね。「気に入っている」には具現性が必要です。「Tシャツが気に入っています」と言われると、「え、どのTシャツ、どんなTシャツ?」と聞きたくなります。ですから、下の文のように何がいいのか具体的に表現すると「気に入っている」でもしっくりきます。
- (このブュッフェの)野菜が気に入っている。
- (余暇の過ごし方なら今は)スポーツが気に入っている。
- (動物動画を見るなら犬より)ネコが気に入っている。
「気に入っている」は一般名詞の上位カテゴリーには使いにくいということが分かりましたね。
「お気に入り」は”favorite”と言ってしまっても問題なし!
「好き」「気に入っている」をどちらも”Like”と言ってしまうのは危険ですが、「お気に入り」は”favorite”と言ってしまっても問題はないでしょう。ただ、英語の”favorite”には「上から目線」というニュアンスはありませんが。
「好きです」「気に入っています」の違いについて説明を求められたら・・・
「好きです」は大きいカテゴリーの名詞、例えば、動物とかお酒とか、その下の「犬」「猫」、「ビール」「ワイン」に使います。だから、「私は動物が気に入っています」はおかしいですね。
「気に入っています」は、その大きなカテゴリーの中でも、とりわけ好きなものがあれば、それに対して使えます。「パグが好きです・気に入っています」「アサヒスーパードライが好きです・気に入っています」どちらも使えます。
もう少し余力のある学生には…
「気に入る」というのは「好きになる」という意味です。だから、こんな場面で使います。
<会話例>
A:Bさん、お誕生日おめでとう。はい、これプレゼント。
B:うわ~ありがとう。
A:どう?気に入ってくれた?
B:すてきなマグカップ!もちろん気に入ったよ~!
この場面で「好き」は使いません。instant judgementは「気に入りました!(気に入った)」を使ってください。
また、プレゼントを渡した直後に、「これ、好き?」はちょっとダイレクトな印象があります。日本ではいきなり好きかどうかを聞く文化がありません。この場合、「気に入ってくれた?」くらいがちょうどいいです。
また、ヘアサロンで髪を切り終わった直後、美容師さんに「いかがですか?」と仕上がりを聞かれたとき、「好きです!」も若干不自然です。この場合も「はい、いいですね。気に入りました。」が良いでしょう。
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